185話 ビジネス
朝食を食べた後、山から帰ってきた紫音達は屋敷まで帰ってくる。
ミリアに屋敷に寄っていくように誘われたクロエとアンネは、漫画の原稿がどうなったか心配で早く帰ることにした。
「それは残念ッス……」
「また、一緒に遊ぼうね……」
リズとミリアは、クロエとアンネに手を振る。
「うん、またね」
「お姉ちゃん達~、またなの~」
二人も手を振り返すと、隠れ家に帰っていった。
紫音達に用事があってミレーヌの屋敷に向かっていたクリスは、その途中で屋敷の方から歩いて来たクロエ達とすれ違う。
「今の二人どこかで……」
仮面で正体に気づかない能天気な紫音達と違って、クリスは二人に既視感のようなものを覚えた。だが、すでに通り過ぎて後ろ姿だけしか見えず確認することもできず、先も急いでいたので、気のせいだろうと思うことにする。
紫音達が屋敷の食堂にやってくると、そこには休日のミレーヌがコーヒーを飲みながら一同の帰りを待っていた。
「帰ってくるのを待っていたよ」
ミレーヌが口を開くやいなや紫音達に、険しい表情で話しかけてくる。
「ミレーヌ様、何かあったんですか?」
その表情を見た紫音がそうミレーヌに尋ねると、彼女はオークの旗が現在22本と予定よりも早く、恐らく明日か明後日に侵攻してくると紫音達に説明した。
そして、ユーウェインが間に合わないことも……
「そんな!? こんな時に、ユーウェインさんが間に合わないなんて……」
「そうだな……。くだらん呼び出しのせいでこのザマだ…」
そこに、クリスが丁度やってくる。
「丁度いい所に来たようですね。ミレーヌ様、ここからは私が説明します」
彼女はユーウェインから事前に自分が間に合わない時には、スギハラに指揮を任せていたことを話す。
「スギハラが代わりを務めるのか……」
ミレーヌは少し不安そうにそう言った。
彼の剣士としての能力は評価しているが、大軍の指揮官としての能力は未知数であったからだ。
「ミレーヌ様が、不安に思うのはもっともです。確かに団長は大軍を率いたことがなく、本人もその事を不安に感じています。そこでシオン、アナタ達にサポートを頼みに来たの。みんなで団長に力を貸して欲しいの。そして、今回のオークとの戦いに勝利をもたらして欲しいの」
ミレーヌの不安を感じ取ったクリスはそう言って、紫音達に協力して欲しいことを願い出る。
「お姉さま、もちろんです! このソフィー・ディアーニュ、命を懸けて“お姉さま”の為に戦います! みんなもそうよね!?」
「クリスさん、私もがんばります!」
ソフィーに続き紫音も協力を申し出て、他の者達も協力することを表明した。
「いいニュースもあるぞ。リズ君、フィオナが君の女神武器を持って王都からこちらに向かっているらしい」
ミレーヌがリズにそう告げると、彼女は当然この質問をする。
「本当ッスか!? ミーッスか!?」
「持った感じが大きな玉子みたいだったらしいから、恐らくそうだろう」
「やったッス! ミーに会えるッス!」
その返事を聞いて大喜びするリズ。
「よかったね…、リズちゃん…。」
ミリアが喜んでいるリズに声をかけ、紫音達もミーの復活に喜ぶ。
「アキちゃんにも連絡を取らないと…」
その後に、紫音がこう言ってアキに連絡を取ろうとすると、クリスが紫音に報告をしてくる。
「それなら私が昨日のうちに彼女には連絡しておいたわ。もうすぐ来るはずよ……」
すると―
「クリスさん、お待たせしましたー!」
タイミングを見計らったようにアキが食堂の扉を開けて現れた。
「さあ、ビジネスの話を始めましょうか!? あっ、年下ズはこのお土産のケーキを持って、別の部屋に行きなさい。ここから先は大人の話だからね」
アキはリズにケーキの入った箱を渡すと、年下二人はミレーヌにも促されて部屋から出ていった。
「ちょっと、アキさん! 来て早々藪から棒に何を言い出すのよ!?」
アキはソフィーの質問に答えつつ、クリスにその返事を尋ねる。
「何って、ソフィーちゃん…。大人のビジネスの話だって言ったでしょう? さあ、クリスさん、昨日言った条件飲んでくれますか?」
「わかったわ、条件を飲むわ。その代わりに次のオーク戦に協力してね…」
クリスは条件を承諾する旨を伝える。
「アキちゃん、条件って何?」
「そうよ! 変な条件だったら私が許さないわよ!」
二人がアキに条件を聞き出すと、彼女は答える。
「それは、新シリーズにTSしたクリスさんを、紫音ちゃんと絡ませるのを承諾するって話だよ。あと、ソフィーちゃんとアフラちゃんも…」
その説明を聞いた二人はすぐさま突っ込む。
「私が出るのは、もうアキちゃんの中では決定事項なんだね!?」
「お姉さま! 私の出演も勝手に決めたんですか!?」
本作品のツッコミキャラ二人が間髪入れずに突っ込んだ所で、アキとクリスがそれぞれ自分の相方を宥める。
「ソフィー…。団長の為、クランの名誉の為、私と共に我慢して欲しいの…」
「お姉さまがそう言うなら……」
ソフィーはクリスの役に立てるならと承諾する。
「紫音ちゃん…。また鎧のメンテナンス代を払ってあげるから…、胸の大きく見える服をもう一着買ってあげるから……」
「今度はあのボーダーの服を……」
「ええで、ボーダーでもチェック柄でもニット製でも買ったるで~」
この世界にニット製品があるのか分からないが、紫音はどうせ反対しても丸め込まれるだけだと思ってその条件で承諾した。
因みにアキは別にクリスから連絡が無くても、戦いには参加するつもりであったが、向こうから鴨がネギを背負って依頼してきたので、この条件を出すことにしたのであった。
「でも、アキちゃん。知り合いが困っている時は、無条件で助けるべきだと私は思うよ?」
その自分が、主人公だと思いだしたかのような紫音の台詞に、アキはこう答える。
「紫音ちゃん…。私は漫画家、漫画のためには鬼にもなるんだよ! ツンデレのソーフイ、元気なアフル、いつも冷静な副団長クリムとの絡みは、クオン総受けシリーズには必要なんだよ!!」
この世界で三年間暮らしてきたアキは逞しく、そして立派な貴腐人となっていた。




