180話 偶発的遭遇
前回のあらすじ
リーベは青空にそびえる山のとがった頂を見ながら、それが山と空の絡み所謂、山×空のカプシチュを見せつけられているという真理に辿り着く。
そして、“空、総受けシリーズ『山の天気は変わりやすい、オマエの雲で俺の頂は雨と雷で大荒れ状態編』を妄想して、1人で大興奮していた。
何を書いているのか、わからないと思うが書いている作者も解っていないので、それが正常です。
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(シオン・アマカワに助けられるなんて……)
リーベは背中の傷を回復魔法で、治して貰っている紫音を見ながらそう思っていると
「お姉さん、この辺は魔物が徘徊するエリアなので、そんな無防備な恰好で来ては駄目ですよ?」
そう彼女がリーベに話しかけてくる。
それに対してリーベは、正直にこう答えた。
「ごめんなさい。考え事をしていたら、気づかないうちにこんな所まで来てしまっていたわ。助けてくれて、本当にありがとうね」
「いいえ、無事で良かったです。でも、次からは気をつけてくださいね」
紫音の自分のことより、リーベを心配してくる言葉に彼女は自然と紫音の傷を心配する言葉を掛けてしまう。
「それより私のせいで、怪我をさせてしまってごめんなさいね。傷は大丈夫かしら?」
「大丈夫です、これかくらいの傷はもう慣れましたから」
紫音はリーベに自分の責任だと思わせないように笑顔で答える。
(女神がこの娘を、気に入っているのが解った気がするわ……。他人のために自分が傷つく事も気にしないようなお人好しは、危なっかしくて放おっておけないわよね……)
リーベは、その自分に気を使わせないように笑顔で答えた紫音を見てそう考え始めていた。
だが、紫音は彼女が考えるほど自己犠牲の精神の持ち主ではない。
できるだけ助けたいとは思うが、彼女自身も死ぬのは怖いために見知った人達ならまだしも、誰彼と身を犠牲にして助けることはできないのだ。
今回リーベのことを、体を張って助けたのも怪我をしても、エレナが回復してくれるという計算があったからであった。
(それに、女神から貰った力で楽に戦っていると思ったけど、さっき引き起こされた時に掴んだこの娘の手はとても硬かった…。私も高校時代薙刀をしていたけど、あそこまで固くない。きっと手に豆ができて、それが潰れるのを何度も繰り返したんだわ。きっと何年も剣の修業をしているはず…。どうりで強い訳だわ)
リーベは紫音の強さが、女神の身体強化だけではないことに感心し、それ故に強敵であることも再確認する。
「そうだ。助けてくれたお礼にこれをどうぞ。私が描いた漫画なの」
リーベは助けてくれたお礼に腰につけた女神の鞄から、自分の描いたBL漫画を取り出して紫音に手渡す。
「そっ、そんなお礼だなんて…。お気になさらずに……。お姉さん、漫画家だったんですね」
紫音は最初はそう言って遠慮したが、リーベにどうしてもと言われて受け取ることにした。
リーベの渡した本は表紙がついておらず、白い紙にタイトルだけが書かれたシンプルな表紙であったからだ。
これは、外に持ち出した時にBL漫画だと解らないようにする工夫で、BLに興味のない人に見つかった時に”普通の本ですが。なにか?”と思わせるこの世界の出版社の配慮である。
「あのー、今少しだけ中を見てもいいでしょうか?」
そのため、紫音は受け取った本がどんな内容か解らずに、どんな内容か興味を持ってしまい、悪魔の誘惑とも知らずにリーベにこう聞いてしまう。
「ええ、もちろん」
紫音のこの窺いにリーベは、笑みを浮かべてこう答える。もちろん悪魔の微笑みである。
「では。タイトルは…『先輩と俺のイケナイ職場』……」
紫音はこのタイトルを見て一瞬嫌な予感がしたが
(まさかね…、こんな綺麗なお姉さんがアキちゃんのような漫画を描くわけがない! この先輩というのは女の人だよ、そうなると大人の恋愛漫画だよね。それは、それで刺激が強いかも……。でも、大人の恋愛漫画、私興味があります!)
紫音は悪魔の罠に着実に引き寄せられてしまう。
リーベこと真悠子の姿は、少し地味目の服を来ているが、それでも綺麗で素敵な女性に見える。印象的には、フェミニースのような大人のできる素敵な女性というよりも、綺麗と可愛いが混在したミトゥースの印象に近い。
そのため紫音は、そんな人がBL漫画を描くわけがないという謎の理論を構築して、中を見ることにする。
紫音はドキドキしながら、真ん中あたりのページを捲った。
先輩「はちきれそうな程、固くなっているじゃないか……。だが、まだ逝かせないぞ。」
後輩「んう…あ…」
先輩「可愛い声出すじゃないか……。これならどうだ!?」
後輩「アッ…は…あぁ…ンン…あ…」
(※以下激しい描写のため自主規制します。)
「アキちゃんの漫画よりも、表現が大人だーーーー!!!」
紫音はそう叫んで、慌てて漫画を閉じる。
「フフッ…耳まで真っ赤にして可愛い……」
耳まで真っ赤になってドギマギしている紫音を見たリーベは、そう言いながら紅潮した彼女の頬に優しく触れる。触れた彼女自身も無意識に紫音に触ってしまっていた。
「!?」
紫音は不意にリーベに頬を触られたことに、声が出ない程に驚いてしまう。
「おっ…、お姉さん?!」
紫音がようやく驚きの声を出す。
「アナタがあまりにも初々しい反応しているものだから、つい触れてしまったわ。ごめんなさいね…」
すると、それを聞いたリーベも我に返ってそう謝罪して、紫音の顔から触れていた手を離す。
(ああ…、私もいつかお姉さまにあんな風に優しく顔を触れられたいわ~)
その一連の出来事を見ていたソフィーは、1人妄想していた。
(どんなBL漫画なのでしょうか…、内容がとても気になります!!!)
そして、その横では回復を終えたエレナが、紫音に後で見せて貰おうと心に強く思っている。
「ねえ、ケットさん…。もう、合流してもいいんじゃないかな?」
ケットさんの指示で少し距離を取っていたミリアは、そのケットさんに質問するとケットさんから、このような返事が返ってきた。
(まだだめ、もう少し様子を見ましょう)
ケットさんが何故あのお姉さんに警戒しているのか、ミリアにはわからなかいが、指示に従っておくことにする。
「それでは、私はこれで失礼させてもらうわね。今日は本当にありがとう」
リーベはそう言って、紫音達に一礼すると街の方に歩いていった。
「素敵な人だったけど、少し変っていたわね…」
「そうだね……」
ソフィーが紫音に声をかけると、彼女はリーベに触れた頬に自分の手を当てながら、フェミニース以来の素敵な年上女性とのスキンシップの余韻に、心ここに有らずといった感じでそう返事をする。
そんな紫音をエレナが現実に引き戻す。
「シオンさん! 是非私にその漫画を見させてください!!」
「えっ!? あ、うん。いいよ、エレナさん」
そのいつものエレナとは思えない大きな声に、紫音はびっくりして余韻から覚めて、手に持っていたBL漫画をエレナに手渡した。
「こっ、これは……!? シオンさん、これは『黒野☆魔子』先生の漫画ですよ!?」
エレナは手渡されたBL漫画を、早速読むと興奮気味で紫音にこう言ってくる。
この興奮が『黒野☆魔子』の漫画だとわかった為か、それとも大人BL漫画を読んだ為なのかは彼女のみぞ知る。




