179話 例のシリーズ続編
馬車の中ではナタリーが書類を見ているため、会話がなく沈黙が続いていた。
そのためナタリーは、暇そうにしているフィオナが気になり、彼女に話しかけることにする。
「そう言えば、昨日から王都にカムラード様が来ているそうですよ」
「オークの侵攻が迫っているこの時期にですか?」
「はい。何でも召喚命令を受けてだそうです。どうやら、王宮には未だに不協和音が生じているようですね、嘆かわしいことです」
「フェミニース教の教義の一つ、『汝の隣人を愛せよ。ただし、悪い人には肉体言語で改心させてからでも可』を、守って欲しいものですね……」
そのナタリーの発言を聞いて、落胆した表情で語るフィオナ。
その頃―
リーベ達の隠れ家では、緊急事態が発生しており一同は慌てふためいていた。
「大変だよ、エマ姉!」
「どうしたの、クロエ?」
「これを見てよ!!」
クロエに渡された、その紙にはこう書かれている。
<疲れました、少し出かけます。
探さないでください。 真悠子>
「ええぇ……」
リーベの書き置きを読んで、絶句しているエマの服の裾をアンネが、心配そうな表情で引っ張りながら彼女に尋ねてきた。
「真悠子お姉さん……、どこへいちゃったの?」
そのアンネに心配させないように彼女は、平静を装って答える。
「大丈夫よ、きっとすぐ見つかるわ」
エマは平静を装ったことで、少しだけ冷静さを取り戻すことができ、魔王に連絡をとって指示を仰ぐことにした。
「そうね……。闇雲に探してもしょうがないから、フェンリルに真悠子の匂いを辿らせて捜索しなさい」
魔王からはこのような連絡が返ってくる。
(ここ数日のBL漫画制作で、追い込まれていたようだから現実逃避したみたいね……)
魔王はエマに指示を出した後、そう真悠子ことリーベの心境を推察すると
「これは、私もアルトンの街に、行ったほうがいいかもしれないわね……」
こう考えて、アルトンの街に向かうことにした。
エマはさっそくアンネにフェンリルに捜索させるように指示を出すと、彼女は手に持っていたオコジョの縫いぐるみをかばんに入れて、代わりにフェンリルを取り出す。
そして、魔力を込めるとフェンリルは、彼女の腕の中で動き出した。
「フェンリル、この匂いを嗅いで真悠子さんを探すのよ」
エマは、真悠子がリーベの時に着用している仮面の匂いを嗅がせる。
すると、フェンリルはアンネの腕から飛び降りて、地面の匂いを嗅いで警察犬のように捜索を開始した。
フェンリルは、見た目はデフォルメされた可愛いぬいぐるみのため、その捜索している姿は子犬の散歩をイメージさせる。そのためその様子を見たクロエが、心配そうにこう言った。
「大丈夫? 子犬が楽しそうに散歩しているようにしか見えないけど?」
「フェンリルはねぇ、お利口さんだから大丈夫だよ~、クロエお姉ちゃん」
アンネが嬉しそうにそう答える。
「ワン!」
すると、フェンリルも尻尾を振りながら吠えて、「まかせワン」とばかりに答えた。
その頃、その真悠子ことリーベは街の外の草原に1人三角座りで座って、山をぼーっと眺めている。
本当は海を見たかったが、アルトンの街からはかなり遠いため仕方なく山を見ていた。
そして、青空にそびえる山のとがった頂を見ているうちに、彼女はとんでもないことに気づく。
(あの青空にそびえる山のとがった頂って、もしかしてアレを象徴しているんじゃないかしら!? ということは!!?)
山:攻め
空:受け
空:「おい山、何を考えているだよ! こんなところで……」
山:「しょうがないだろう、空。俺の頂はお前のせいでもうこんなに、そそり立ってるんだからよ!」
空:「俺には海が……」
山:「あんな奴、俺が忘れさせてやるよ!」
空:「やっ、やめえてくれ…」
山:「そんな事言いながら、すっかり俺の頂に雲を、まとわりつかせてきてるじゃねえか…」
(※全て妄想です、実際の山の気象現象とは違います。)
「空、総受けシリーズ『山の天気は変わりやすい、オマエの雲で俺の頂は雨と雷で大荒れ状態編』ktkr!!」
真悠子が1人山×空というハイレベルシュチュを妄想していると、後ろからゴブリンが迫ってくる。
だが、真悠子は妄想に夢中で背後のゴブリンに気付いていない。
そして、ゴブリンは剣の射程内に彼女を捉えると、手に持った剣を振り上げようとする。
その時真悠子の横から、大きな声で彼女に向かって叫ぶ声が聞こえてきた。
「お姉さん、危ない!!!」
「えっ!?」
間一髪の所を高速で接近してきた紫音が、彼女の体を横から突き飛ばしてゴブリンの一撃から助ける。
しかし、間に合うかギリギリであったので、真悠子はゴブリンの剣から逃れることができたが、真悠子と入れ替わるように紫音がその場に無防備で倒れ込んでしまった。彼女の代わりにゴブリンの剣が振り下ろされる場所に。
しかし、運良くゴブリンの振り下ろされた剣は紫音の鎧に当たり、背中に少し切り傷を負ったが大事に至らなかった。
「さすがミスリル製鎧だ、なんともないよ!」
紫音が倒れながら、そんなどこかで聞いたことがある台詞を言っている間に、追いついたソフィーがゴブリンを一撃で仕留める。
「ちょっと、急に走り出したと思ったら、人助けとはいえ無茶し過ぎよ! シオン…先輩」
ソフィーは紫音を本名で呼びそうになるが、真悠子がいるため咄嗟に先輩呼びに切り替える。
「ごめんなさい、お姉さん。余裕がなかったので、思いっきり突き飛ばしてしまいました…。大丈夫ですか? どこも、怪我していませんか?」
紫音は立ち上がると、自分に突き飛ばされてまだ地面に座り込んでいる真悠子に、申し訳無さそうな表情で、手を差し伸べながら謝罪し安否を尋ねた。
「ええ、私は大丈夫よ。助けてくれてありがとう。」
真悠子は、自分を助けてくれたのが紫音だと気付くと、その差し出された手を取るのに一瞬躊躇したが、そうお礼を言って紫音の手を取って立ち上がる。
「アナタ他人の怪我の心配をしている場合じゃないでしょうが! 背中を少し斬られているじゃない!」
ソフィーは紫音の背中の傷に気付くと、近づいてくるエレナにすぐに来て回復魔法を掛けるように指示を出す。
「すぐに、回復魔法を掛けますね!」
エレナがそう言って傷口に回復魔法を掛ける。
「これぐらい、平気だよ」
すると、紫音は心配する彼女達に向かって明るく務めた。
そして、真悠子はその様子を複雑な心境で見つめるのであった。




