166話 暗躍しだす魔王軍
801御殿を目指し爆走する馬車の中で、ソフィーはアキに正当な主張を行なう。
「どうして、私がアナタの漫画を描く手伝いをしないといけないのよ!」
その彼女の正論にアキは、こう答える。
「ソフィーちゃんが手伝ってくれたら、1人あたりの作業量が減って、その分みんなが楽になるんだよ?」
もちろん、ソフィーにアキの漫画を手伝う義理はあっても理由はない。
だが、彼女はソフィーが断る事がいかにも悪いみたいに、言葉巧みに会話を持っていく。
「それともソフィーちゃんは、自分さえ良ければ他の皆なんてどうなってもいいと思っているような、悪い子なのかな?」
「そんなことは……」
ソフィーが返答に困って紫音とエレナを見ると、捨てられた仔犬のような瞳で彼女の動向を窺っている。
「ソフィーちゃんは、今まで一緒に過ごして、命をかけて一緒に戦ってきた紫音ちゃん達を見捨てるような薄情な子なのかな? 紫音ちゃん達が頑張っている中、食べるご飯は美味しいのかな?」
「わかった! わかったわよ! 手伝えばいいんでしょう!!」
ソフィーはツンデレではあるが根は良い子であるため、仲間を見捨てるなんて言われると勿論できる訳なく、承諾するしかなかった。
「ソフィーちゃんなら、そう言ってくれると思ったよ」
了承してくれたソフィーにそう言って、アキは最後まで自分は悪くないというスタンスを通す。
「ありがとう、ソフィーちゃん」
「ありがとうございます、ソフィーちゃん」
紫音とエレナは、自分達の負担が減ることをソフィーに感謝する。
801御殿の作業場に着いて、アキは作業開始の号令を出す。
「さあ、みんな! 頑張って締め切りまでに終わらせよう!!」
「おう!!!」
紫音、エレナ、ソフィー、カリナが声を出して、気合を入れる。
だが、助っ人が3人増えたため予想よりスケジュールに余裕ができ、徹夜することもなく
4日目に原稿を完成させることが出来た。
「皆のおかげで、予想より早く終わらせることが出来たよ。ありがとう!」
アキが手伝ってくれた皆にお礼を言う。
「私は消しゴムかけしかしていなかったけどね。それよりも、アナタの小型ゴーレム凄いわね。私よりも仕事をしていたんじゃないの?」
「学習させるのに苦労したけどね。おかげでかなり楽をしているよ。何より人件費が掛からなくていい!」
ソフィーのその質問に、彼女はこう答える。
「ところでBL漫画って、ストーリーが結構しっかりしているのね」
「先生の漫画が売れているのは、ストーリーがしっかりしていて、胸がキュンキュン出来るからなんです」
ソフィーが作業を手伝いながら見た原稿の感想を述べると、カリナが我が事のように嬉しそうにそう答えた。
「それにしても、このクオンって男は情けないわね。親友のアキトが行方不明になったことに耐えきれずに、存在自体を忘れるなんて最低よね!」
(はぅ!!)
紫音はまたもやクオンの自分の心の弱さが、話題にあがってしまって驚いてしまう。
「ソフィーちゃんもそう思いますか? 私もそう思います! クオンは心が弱すぎると思います! でも、シオンさんはそんなクオンが、人間味があっていいって言うんですよ?」
BLの話題になると熱くなってしまうエレナが、以前の紫音の意見をソフィーに話す。
「そうなの、シオン・アマカワ? こんなのどこがいいの?」
ソフィーに話を振られた紫音は考えながら、何とかこう答える。
「えっ…!? その… 心の弱さが等身大の人間らしくて… 読む自分と重ねられる事ができて… いいと思うんだけどな~」
「いや、自分と重ならないでしょう。こんな豆腐… いや、豆乳メンタル……」
(あぅ!? 豆乳メンタルなんて酷い!)
紫音が心の中でそう思っていると、アキがそうソフィーに何気なく尋ねる。
「この世界にも、豆腐や豆乳があるんだ?」
「何を言っているのよ? アナタ達東方国の食べ物でしょう? 団長から聞いたことがあるわよ?」
どうやらこの世界でも、豆乳はあるようだ。
そして、彼女の発言に、自分達が東方国出身という設定をすっかり忘れていたアキは、持ち前の瞬発力ですぐさま言い訳を始める。
「そ、そうだったね。久しく故郷から離れていたから、すっかり忘れていたよ! ねえ、紫音ちゃん?」
「そっ、そうだねー。すっかり、忘れていたよー。あはははー」
だが、紫音は急に振られた為に、棒読みで答えてしまった。
ソフィーは紫音のその棒読み返答を訝しがる。
「そうだ、晩御飯にしよう!」
だが、アキがすかさず強引に話題を変えたので、そのことは有耶無耶になった。
原稿を描き終えた4日目の夕食後にアキが、紫音達にこれからどうするのか質問する。
「明日から私はこの屋敷で第二話のネームを描くけど、みんなはどうするの?」
「私はアルトンの街に帰って山籠りか、冒険者ギルドで何か依頼を受けようかと思っているけど……」
アキの質問に紫音はこう答えると、それを聞いたソフィーがこう答える。
「そうね。山籠りはともかく、依頼を受けるのはいいかもね」
こうして、紫音達は明日アルトンの街に帰って、依頼を受けることにする。
その頃、魔王城ではリーベが魔王に呼ばれていた。
「例の作戦の準備ができたから、アナタには早速王都に行って、あの人間に会ってきてもらうわ」
「わかりました、直ちに行ってまいります」
リーベは魔王の命令を受けると、さっそくグリフォンに乗って王都フェミースに向かう。
「例の作戦だって! 何か悪の組織っぽい言い方で、オラわくわくするぞ!」
クロエは呑気にそう言った後に、隣のエマに尋ねる。
「ところで例の作戦って何? エマねえは、準備手伝っていたから知っているんでしょう?」
「さあ、私も詳しくは知らされてないの」
エマはクロエにそっけなく答えると、その場を後にする。
(まだ、アナタ達は知らなくていい作戦よ。こんな人の醜い部分を利用した作戦は……)
歩きながら、彼女はこう思う。
魔王軍の新たな作戦が、着々と進んでいた。




