156話 戦いが終わり・・・
前回のあらすじ
ちょっと待って、今戦場で3義姉妹が喧嘩をはじめたけど仲直りして、異世界人の友人が「私達……何を見せられているの?」って言ったら周りから拍手喝采だった。←今ここ
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「私達すっかりほっこりしているけど、今の状況ってかなりヤバイわよね?」
ソフィーは紫音にだけ聞こえるようにそう耳打ちしてきた。
彼女の言うとおり『仲良し三義姉妹』の仲直りの顛末によって、戦場はすっかり緊張感が薄まってしまっているが、クロエ1人に苦戦していたのに、更に同格の力を持つであろう2人が合流してしまったこの状況は、人間側にとっては本来なら絶望的状況である。
「でも、相手も戦う気はすっかり無くなっているように見えるけど……」
紫音の言うとおり『仲良し三義姉妹』は、仲直りしたことで戦闘意欲がどこかへ行ったのか仲良く雑談をしていている。
(つまり、相手がやる気を取り戻したら終わりってことね……)
ソフィーは現在の状況を冷静に分析すると、相手がこのまま撤退してくれる事を祈った。
勿論、その事にはユーウェインやスギハラ達も気づいており、相手の気持ちに自分たちの運命が掛かっていると思うと針の筵に座わるような思いがした。
(あの一番小さい娘が、腕に抱えている狼のぬいぐるみ、可愛いな~)
そして、紫音はそう呑気に思って、愛らしい狼のぬいぐるみを見ていると、不意に目があった気がする。
その瞬間―
「がるるる!」
「ひっ!?」
ラブリーな狼は目があった瞬間に、紫音に威嚇してきた。少なくとも彼女はそう思った。
そうこうしている内に、本拠点からグリフォンに乗ったリーベが彼女達の元にやってくる。
「3人共、時間稼ぎご苦労さま。魔王城に引き揚げましょう」
「このまま撤退して、いいのですか? 私達三人がいれば、人間達を殲滅できますけど?」
リーベの撤退指示に対して、エマがそう聞き返すと彼女はこう答える。
「魔王様がアナタ達に助っ人として行くように言った時に、殲滅するようには言わなかったんでしょう? だったら、ここで殲滅する必要がないって判断したのよ。ここは、魔王様の判断を信じて、大人しく撤退しましょう」
(それに、あまり調子に乗ると般若の面を付けたおっかないのが、また出てきて暴れるかもしれないしね……)
リーベはそう思いながら、3人に説明する。
「そうですね……、わかりました」
「了解!」
「は~い」
3人はリーベの撤退指示に納得すると、それぞれグリフォンとスレイプニルに乗って戦場を後にした。
そして、人間達にはそれを追撃できるほどの気力も戦力もなく、黙って見ているしか無かった。
「今回も命拾いしたな」
「ああ、お互い悪運だけは強いな……」
スギハラの言葉にユーウェインがそう答えた所に、リディアが指示を仰ぎに来る。
「隊長、財宝を持ったグリフォンを追いかけていった冒険者達が、まだ戻ってきません。援軍を出しますか?」
「いや、今はこちらも疲弊している。この状況で援軍に言っても、ミイラ取りがミイラになるだけだ。皆には警戒命令を出しながら、回復するように指示を出してくれ。回復が済み次第援軍に向かう」
「まあ、多分後から来た二人にやられているだろうがな……」
スギハラのその読みに、ユーウェインは答えなかった。
少し経ってから追いかけていった冒険者達の内、女性冒険者達が心身ともに困憊させ、悲愴感を漂わせながら戻ってくる。
彼女達によると、仮面を付けた二人組みに襲われ、男性冒険者達は赤い拳法着を着た女性の圧倒的な風と雷魔法の前に次々と倒され、自分達女性冒険者はもう1人の幼い少女の操る狼と白熊、ヘラジカに襲われたが猛攻撃はしてこず意図的に逃されたとの事だった。
彼女達の話を聞いたユーウェインは、休むように指示を出す。
「“龍の牙”がクナーベン・リーベに襲撃された時も、たしか女性はにがされていたな」
「はい。そのように報告を受けています」
ユーウェインの質問に、リディアが答える。
負傷者の回復を行なっていて、丁度休憩をしていったエスリンが話に入ってきた。
「今回の戦いも、女性冒険者の重傷者は男性に比べると、かなり少ないです」
「同じ女性だからというクナーベン・リーベの配慮でしょうか?」
エドガーが自分の推察を話すと、ユーウェインが考え込みながら答える。
「そうかもしれんな……。それか、別の目的があるのか……」
それを、偶然聞いていた紫音は思わずこう口にする。
「アレ?! 私あの人と初めて会った時に殺されかけたんですけど……。もしかして、リーベって私のこと『男の娘』だって思ってる?!!」
「さっ、さあ、負傷者の回復に戻らないと……」
「エドガー、戦闘ができるまで回復した者を集めろ。トロール本拠点内を探索するぞ。リディアはクリス君に、”月影”からも人員を出してもらうように伝えろ」
「はっ!」
「了解です」
彼女のその発言を聞いたユーウェイン達は、紫音の顔を見ずにそそくさとその場を離れていった。
紫音が元気なそうに歩いていると、ソフィーが心配したのか声をかけてきた。
「どうしたのよ、せっかく無事に作戦を終えたのにそんな顔して……。」
「実は……」
紫音が、さっきあったことをソフィーに話そうとした時、アキが近寄ってきてこんな事を言ってくる。
「ソフィーちゃんって、最近なんだかんだ言って、紫音ちゃんの側によくいるよね。幼馴染としては、少し嫉妬しちゃうな」
「ベっ、別にそんなに一緒にいないわよ! 元気ない顔でいたから、気になっただけよ!」
そのアキの言葉にソフィーが、そうツンデレ発言をすると向こうに走っていった。
紫音がエレナの様子を見に来ると、その側で元気のないリズが座っていて、ミリアがその様子を心配そうに見ている。
紫音がミリアにリズの元気のない理由を尋ねると、ミーがリーベによって撃破されていなくなってしまったことを聞かされた。
「リズちゃん……」
紫音はミーを失ったリズに慰めの言葉をかけようと思ったが、いい言葉が浮かばずに考え込んでいると、アキが彼女にだけ聞こえるように話しかけてくる。
「紫音ちゃん、これはチャンスだよ」
「え? どういうこと?」
「もちろん、リズちゃんの好感度アップのだよ。傷心のリズちゃんの心を、上手く慰めることが出来たら、好感度爆上がり間違いなしだよ!」
「な、なんだってー! 好感度爆上がりってことは!」
㋷「シオンお姉ちゃん……、だーいすきッス」
少し上目遣いの潤んだ瞳で、そう言って自分に抱きついてくるリズ。
㋛「キマシタワー!!!」
(このあざとリズちゃんが、いつでも見放題ということ!!!)
紫音は興奮で高鳴る胸を抑えながら、リズに突き刺さる慰めの言葉を考え始める。




