155話 仲良し三義姉妹
半年前、魔王城一室
「今日集まってもらったのは、アナタ達三人はこれから魔王軍として、活動するわけですが本名で活動する訳にはいきません。そこで、今からアナタ達3人の偽名と肩書を考えたいと思います」
リーベが議題を発表すると、クロエがウキウキで答える。
「つまり、魂の真名ってことですね! 実は前から考えていた名前があって、“漆黒の堕天使・ダーククロエム”って言うんですけど…」
「いや、思いっきり本名が入っているから駄目よ、却下」
がっかりしているクロエを横目に、金髪の女性がリーベに問いかけた。
「マユコさんは、“クナーベン・リーベ”って名前で行動するんですよね?」
「そうよ、エマ。この名前は、私が大学時代に入っていたサークルの名前なの」
「どうせなら、名前にあったコスチュームも着たいよね!」
クロエはそう衣装の提案をして、残りの二人も賛同する。
「わたしたちは~、三義姉妹だから~、できれば~、繋がりのある名前がいいなぁ~」
白毛のオコジョのヌイグルミを抱えたアンネが意見した。
ちなみにこのぬいぐるみは、普通のぬいぐるみである。
「それと私達は魔物の一員だから、魔物か魔獣の名前を冠したほうが、しっくりくるんじゃないかしら……」
エマのこの意見を聞いたクロエは、思いついた案を発表することにした。
「つまり獣で三人組か……。そうだ! 冥府の番犬、ケルベロスはどうかな」
「それ首が3つなだけじゃない!」
エマはクロエにツッコミを入れる。
「違うよ、ケルベロスにはヒュドラーとキマイラって兄弟がいて、私がケルベロスで、エマ姉とアンネはどちらかを選べばいいんだよ」
因みに三人は実の姉妹ではなく、それぞれ年上に対して親しみを込めて”姉”とつけて呼んでいるのだ。
「嫌よ、そんな化け物の名前。それよりも、私達は人間にとって敵になるわけだから、世界に災いをもたらす、ヨハネの黙示録に登場する3体の獣でどうかしら?」
「どんな獣なの?」
クロエの質問に、敬虔なクリスチャンであるエマは聖書の話から説明を始める。
「そもそもヨハネの黙示録とは、新約聖書の最後に配された聖典であり……」
「エマ、長くなりそうだから、端的に獣の説明だけにしてもらえるかしら?」
リーベの説明の短縮要求に、彼女は詳しい聖書の説明ができなくなって、残念そうな顔をしながら黙示録の獣の説明を始めた。
「黙示録の獣とは、”七つの頭と十本の角を持つ赤い竜“、”十本の角と七つの頭があった獣“、”子羊に似た二本の角を持ち竜のように話す獣“の3体で……」
クロエはエマの説明を聞くと、すぐさまに文句を言い出す。
「頭と角が多すぎだよ! 絶対ケルベロスの方がカッコイイよ!! 何より、どうやってそんな頭や角いっぱいを、コスチュームで再現するの!? コスプレじゃなくて着ぐるみになっちゃうよ!」
「クロエのヒュドラーだって、首がいっぱいじゃないの!」
「ヒュドラーは首だけですー!! 角まで多くないですー!!」
二人が言い争っていると、リーベが最年少のアンネに話を振る。
「わたしは~、何でもいいよ~。でも、かわいいのがいいな~」
「じゃあ、アンネは北欧出身だから、北欧神話からなんてどうかしら? そうね……、ヘラなんてどうかしら? アンネの能力にピッタリだし、兄弟にフェンリルとミドガルズオルムもいるし、いいんじゃない?」
「狼のフェンリルはともかく、ミドガルズオルムって、でっかい蛇ですよね? 私は嫌ですよ、ヘビなんて!」
リーベの意見にクロエは速攻反対するが、その彼女の反対意見にエマはこう突っ込む。
「アナタのヒュドラーもヘビじゃない! しかも、頭がいっぱいの!」
そのエマのツッコミに対して、クロエはこう言い返す。
「そもそもエマ姉の3獣だって”七つの頭と十本の角を持つ赤い竜“以外、表現がふわっとしていて、どんな姿をしているかわからないんですけど!?」
「そっ…、それは…、アナタの信仰心と勉強が足りないからよ! 宗教絵画を見ればちゃんと、描かれているわよ!」
二人はまた言い合いを始める。
意見がさっぱりまとまらない事に、業を煮やしたリーベはこう提案することにした。
「もう、みんな獣というキーワードだけ揃えるってことで、各々好きな名前と格好でいいんじゃないの?」
「もう、そうしようよ。じゃあ、私はケルベロスでいくね」
「そうですね、その方がいいかもしれませんね……。では、私は”赤い竜“がサタンの化身とされていることから、サタナエルにします」
「わたしは~、マユコお姉さんが考えてくれた~、ヘラにするね~」
アンネの決定を聞いたクロエは、彼女にこう指摘する。
「でも、ヘラは獣じゃないよ?」
厨ニのクロエは北欧神話も大好物であった為、すぐさま指摘することができた。
「えぇ~、そうなのー? でも、マユコお姉さんが考えてくれたお名前だし~…」
アンネがクロエの指摘に、大好きな真悠子が考えてくれた名前なのにと困っていると、その彼女がこのように提案してくる。
「じゃあ、こうしましょう。アンネの衣装にオコジョの耳をつけて、獣っぽくしましょう!」
「何故オコジョ!?」
「可愛いから!!!」
クロエのツッコミに、リーベは曇ない眼で答えた。
「まあ、みんなバラバラの設定でいくんだから、オコジョでもいいんじゃないの?」
エマがそう大人の対応をする。
「では、一ヶ月後までに顔に仮面を付けて、顔が隠せるコスチュームのデザイン案をそれぞれ考えておくこと。あと、四天王みたいなアナタ達3人の肩書も考えておいてね。それでは、今日はこれで解散!」
時は戻って現在―
三者三様の肩書の発表に、困惑したのは人間達よりも当の三人であり、肩書の案を三人で擦り合わせることを本日まで忘れていたため、三人が自分の考えた肩書をそのまま発表することになり、このような悲劇が起きてしまった。
「ちょっと、クロ…ケルベロス! 何よその『煉獄の三獣士』って、厨ニセンス全開の肩書は!!」
「人の事を厨ニとかよく言えたね! そっちの『黙示録の三獣』の黙示録<アポカリプス>だって、厨ニの大好きワードじゃない!!」
「アナタの中二病ワードと一緒にしないで! 『黙示録の三獣』は聖書に出てくる、由緒正しい(?)名称だから!!」
「二人共~、けんかは駄目だよ~」
クロエは仲裁に入ったアンネにもツッコミを入れる。
「そもそも、アン…ヘラ、アンタの『仲良し三義姉妹』って何よ!? それぞれコンセプトが違うから、せめて獣で揃えようってなって、みんなで獣の格好をしるのに『仲良し三義姉妹』って、獣要素ゼロじゃない!」
クロエのこのツッコミに、ヘラは涙目で二人にこう訴えた。
「ふぇ~、クロ…ケルベロスお姉ちゃん……、私達『仲良し三義姉妹』じゃないのー? お姉ちゃんが言ってくれたよねー、 “私達三人義姉妹、生まれた時は違えども、死すべき時は一緒”だってぇ……、それなのに……グスン」
エマは慌てて、アンネを慰める。
「泣かないでヘラ……。そうね、私達は『仲良し三義姉妹』よ。そうよね、ケルベロス!?」
そのエマの促しに、クロエもすぐにこう答える。
「そうだよ、ヘラ! 私達は義姉妹の契を交わした『仲良し三義姉妹』だよ!」
「ほんとぉ~」
「本当よ」
「本当さ!」
「よかったぁー」
アンネは二人のその返事に、嬉しそうに喜んだ。
「私達……何を見せられているの?」
「いいんじゃない? 何か見ていて、ほっこりするし~」
「それもそうね~」
ソフィーのツッコミに紫音は、呑気にそう答えたるとソフィーも珍しく同じように、呑気に返してきた。
それを見ていた人間側は、さっきまでの悲壮感が嘘のように、なんだかほっこりしている。
そして、三人は改めて声を揃えて、名乗りを上げた。
「我ら魔王様直属の『仲良し三義姉妹』!!」
「いつまでも、三人仲よくな!」
「もう、喧嘩したら駄目だぞ!」
彼女たちが名乗り終えると同時に、人間側から拍手がおきて声があがる。
(仲がいいって、良いことだね……。私もみんなといつまでも仲良くしたいな)
紫音も拍手しながら、そう思うのであった。




