153話 冥府の番犬けるべろす 首その3
前回のあらすじ
歩く時に足音を消すのがクセらしい、ケルベロスことクロエちゃんは、ユーウェインの白を貴重とした鎧や、クリスのコートに中二病が疼き興味津々。
そして、両手の冥府の番犬が吠える時、地獄の門が開いて、アカシックレコードで、円環の理で、何かこう…凄いらしい……
#####
恐怖で正常な判断ができずに、クロエに向かってくる冒険者達に彼女は、とっておきの大技を発動させる。
クロエは両拳を胸の前で合わせると、両手のグローブに今までより大量の魔力を溜め込んでいく。
魔力を溜めるとそのままのポーズで、両手のグローブに話しかける。
「ケルちゃん、ベルちゃん、行くよ!」
そして、続けてこの半年間この日の為に熟考に熟考を重ねて編み出した、本人曰く最高にカッコイイ(厨ニ)台詞を叫ぶ。
「燃え盛れ、赤き獣よ! 狂乱せよ、地の獣よ! 深き地に眠る灼熱の力を我が魔手に与えよ! 全てを焼き尽くせ! 合成魔法『イラプション』!!」
台詞を叫んだ後にクロエは、足元の地面に両手を突き立てる。
何度でも言うが、魔法なのでこのポーズはいらないのである。
もっと、言えばしゃがんで地面に両手を付いているため、隙が生じてさえいる。
紫音が本調子なら、その俊足で背後から迫って蹴りを入れて、ダメージを与えることが出来たかも知れない。
それでも、クロエはやる! 何故ならば『カッコイイ』からだ!!
クロエが両手をついた前の地面に魔法陣が現れ、その中心から地面が隆起して山のようになり、火山のように激しい噴火を始めると火山は溶岩を吹き上げ、火炎弾を冒険者達に降らせた。
突然目の前に現れた火山とその噴火は、この戦場にいた全ての冒険者達に大きな衝撃を与え混乱にさらに拍車がかかる。
「どうして、こんな所に火山が?!」
「噴火しているぞ!!」
「火山弾が降ってくるぞ! 気をつけろ!!」
「マグマが迫ってくるぞ!!」
まずは彼女に迫っていた冒険者達が被害を受ける。
頭上から降ってくる火山弾に当たってダメージを受ける者、その火山弾に怯えて動けなくなった者には容赦なく灼熱のマグマが襲う。
紫音はその地獄のような光景を見ながら、側にいたミリアに質問をする。
「ミリアちゃん! あんな火山を産み出す魔法があるの!?」
ミリアも驚きの余りに、その質問に首を横に振るのが精一杯だった。
「あんなの今の私達に、勝てるわけない! とにかく私達も逃げるわよ!」
そう言って、ソフィーは動けなくなっているミリアを脇に抱えると後方に走り出す。
「アフラ、シオンはまだ上手く動けないみたいだから、担いで連れてきて。」
「りょうかいー!」
アフラは紫音を左肩に担ぐと、クリスやソフィーを追いかけて後方に走り出した。
ユーウェインも『イラプション』を見て、その危険性を感じ取り、すぐさま冒険者達に後退の指示を出す。
「急いで後退しろ!!」
彼は後退の指示を出すと、自分は回復していない体を押し武器を構えて、クロエの方に向かっていく。
「隊長! 今の体で戦うのは無茶です!!」
「誰かが殿を務めないと……、被害が更に広がる!!」
リディアは無謀な上官を止めに近寄るが、ユーウェインは心配する部下にそう言って、ゆっくりと前進を続ける。
次の瞬間、彼の体が宙を浮く。
ユーウェインを宙に浮かせたのは、カシードであった。
カシードはその巨躯でユーウェインを持ち上げると肩に担ぎ上げる。
「放せ、カシード!!」
「スギハラさんの言うとおり、無謀な殿をしようとしていましたね。悪いですが、このまま自分が後方までお連れしますよ。そもそも、俺の接近に気付かないぐらい疲弊していては、殿なんて無理ですよ。あと恨むなら、俺じゃなくてスギハラさんにしてくださいよ……」
カシードはそう言いながら、ユーウェインを肩に担ぎ上げたまま後方まで連れて行く。
すでにイラプションの魔法発動は終わっているが、冒険者達にはその事に気づく余裕もなく後方に逃げている。
この今の戦場の様子を見てクロエは、ある事を思い出し少しアレンジした台詞を喋り出す。
「『イラプション』の効果を見て、即退散とはとんだ腰抜けの集まりね。まあ、弱者や少数の相手にしか危害を加えられない人間じゃあしょうがないか……! “人間”は所詮…弱い者にしか挑めない“敗北者”やでぇ…!!!」
「!?」
アキはその言葉に反応して、急に立ち止まりクロエの方にゆっくりと歩き始める。
「アキちゃん!?」
アフラに担がれた紫音が、アキのその行動を見て思わず声に出す。
「ふえっ!?」
紫音の言葉を聞いたアフラは急ブレーキを掛けて、アキの方を見る。
クロエも急に黒いスーツとサングラスを掛けたお姉さんが、自分の台詞を聞いて立ち止まりこちらに来るのを見て内心驚いていた。
アキはクロエに対してこう言い返す。
「ハァ…ハァ… 敗北者……?」
「!?」
クロエはそのアキの言葉を聞いて、まさかと思い
「取り消しなさいよ……!!! …今の言葉……!!!」
「!!!」
そしてアキのこの台詞で、全てを理解する。
(このお姉さん、元ネタを知ってノッてくれてる!!)
クロエは自分以外にも、この元の世界での有名漫画の名シーンを知っている者が、この場にいることに心が踊っていた。
「アキちゃん、そんな熱い性格じゃなかったよね!?」
空気を読まない、親友のヒンヌーポニーの発言を無視してアキは続ける。
「あの子、オヤジをバカにし… え!?」
アキがそこまで言うと、彼女の体が宙に浮く。
「君、何してんの!? 敵の前であんな訳のわからないことを言って、殺されるかも知れないところだったぞ! あとオヤジって誰!? あの小さい子、そんな事言ってないよ!?」
彼女を宙に浮かせたのは、慌てて引き返してきたカシードで、彼はそう言いながら左肩にユーウェイン、右脇にアキを抱えて後方に急いで走っていく。
「あぁ……、お姉さん……」
クロエは抱えられて、自分から離れていくアキを見ながら、もう少しシーン再現がしたかったと名残惜しそうにそう呟いた。
#####
次回は作者が急遽前世からの仲間達と一緒に、闇の結社と闇の炎で戦わなくてはならなくなったので暫く休止となります。




