146話 トロールの王
両手両足を失い地面に倒れたキリマンジャロを、女神武器の特殊能力を発動させた二人が攻め続ける。その光景を見たユーウェインは結果を見ずに、部隊を連れてエベレストへの戦いに向かう。
「アクセルトリプルスマッシュ!」
刃の逆方向から噴出するオーラによって剣速を加速させ、破壊力を上げた斬撃による三連撃を袈裟、逆袈裟と斬って、最後に横薙ぎの順で斬撃を叩き込んだ。
レイチェルは更にダメージを与える為に、もう一度アクセルトリプルブレイクスマッシュを、キリマンジャロに叩き込む。
スギハラは上段からの3連撃“雪嵐”、強力な左斬上“月下”、円を描くような、横薙ぎ“花冠”による連続攻撃“奥義、雪・月・花”をキリマンジャロに放つ。
「続けて行くぜ!」
スギハラも更にダメージを与えるために、さらなる連続技を放つためもう一度横薙ぎの
“花冠”を放つと、続けて高速の三段突き“鳥嘴”高速で横一文字に斬り抜ける技、“風旋”を放ち、体をキリマンジャロの方を向けると、そのまま強力な右斬上を繰り出す。
「月下!」
オーラを宿した刀は三日月のような軌跡を描き、キリマンジャロに強力な一撃を与える。
「奥義、花・鳥・風・月!!」
スギハラが少し疲労の見える顔でそう言い放った。
「グオォォォォォォォ!!」
雪月花と花鳥風月を連続で受けたキリマンジャロは、断末魔の声をあげて魔石へと姿を変化させる。
それと同時にリーベも上空で、自分の判断ミスによるキリマンジャロの敗北に声を上げた。
「ああああああああっ~~~~」
グニャー リーベ圧倒的敗北!
だが急いでキリマンジャロを倒したため、スギハラとレイチェルにもかなりの負担が掛かってしまった。
「グハッ!」
彼は特殊能力の負荷でまたもや吐血して、地面に刀を差して仲間に心配掛けないように何とか倒れないようにする。
「団長、大丈夫ですか?!」
クリスが心配して声を掛けながら近づいてきた。
「ああ……、二回目だからな。何とか大丈夫だよ……。君の方はどうだ?」
「私は魔法を撃っていただけですから……。レイチェルさんは大丈夫ですか?」
クリスがレイチェルを見ると、彼女は地面に座り込んでいる。
「私は自分の技のせいで、体中が痛くてこのザマだよ……」
(この技はやはり複数回使うものではないな……)
加速する刃を切り返すたびに体に負担が掛かっており、それを何度も行ったため彼女の鍛えられた体を持ってしても立つこともままならなかった。
「副団長、余力があるならカムラードの援護に向かってくれ。あのトロールの王を相手にするなら、戦力は多いほうがいいだろう」
「しかし、こんな状態の団長を…お二人を置いていくわけには……」
「お二人のことは俺に任せてください。どうせ、トロール戦では盾役は役に立たないんで」
そこにカシードがそう言いながら、三人に近寄ってくる。
「……わかった、カシードお二人を頼んだぞ」
少しの間の後、クリスはカシードに二人を託してエベレスの元に向かう。
「後はカムラードやシオン君達に任せて、一度後衛に下がるか……。カシード、悪いが肩を貸してくれ」
それを見送ったスギハラはカシードに、肩を貸して自分を後衛まで連れて行ってくれるように頼む。
「了解です。レイチェルさんも肩を貸しましょうか?」
「いや、私は結構だ」
(何故なら、どうせ肩を貸されるなら美少女がいいからだ!!)
彼女の信念はブレなかった。
「女神の祝福を我に与え給え!」
薬でオーラを回復させた紫音が、両手に持った女神武器にオーラを込めて特殊能力を発動させ、ビッグ・フォーに攻撃を続けるエベレストに高速で接近すると、2本の刀に注ぎ込んでオーラを溜める。
「くらえっ! ハイパーオーラバスター!!」
紫音はエベレストの背後から胴体目掛けて、ハイパーオーラバスターを放つ。
「グアアアアアア!!」
背中に巨大なオーラのビームを受けたエベレストは、苦痛の声をあげると巨体をよろめかせる。
「硬い!! 真っ二つには出来ないとは思っていたけど、まだまだ平気そう……」
ハイパーオーラバスターを撃ち終わった紫音は、自分の攻撃を受けたエベレストのあまりダメージを受けてなさそうな姿を見て、少し焦っていた。
「オノレ!!」
エベレストはビッグ・フォーを無視して、自分にダメージを与えた紫音の方に向く。
「はぅ!? コッチ向いた!!?」
紫音はエベレストが明らかに自分を狙っていると感じて、慌ててその場から移動する。
アキはその隙を見逃さずに、ビッグ・フォーに攻撃命令を出す。
「今よ、ビッグ・フォー!」
ビッグ・フォーの右肘に内蔵されたピストンロッドが肘から飛び出すと、フルスイングの右ストレートをエベレストの背中に叩き込む。それと同時にピストンが押し込まれシリンダー内部の圧縮空気が前方に押し出しされ、更に圧縮空気のダメージを与える。
だが、エベレストの攻撃を防御し続けて、ダメージを蓄積させていたビッグ・フォーの右腕は、圧縮空気の放出に耐えきれずに破損してしまった。
「ビッグ・フォー!?」
アキは反撃を受ける前に、右腕の破損したビッグ・フォーを後退させる。
「グウゥゥゥ!!」
苦痛の声をあげると、再びその巨体をよろめかせ、体勢を立て直して自分を攻撃したビッグ・フォーの方を向くと、ビッグ・フォーは既に攻撃範囲から離脱していた。
「あのトロール頑丈だね。でも、アキちゃんのゴーレムが破壊される前に、攻撃が間に合って良かったよ。アキちゃんは怪我してない?」
紫音はアキの側まで来ると、そう言って親友の無事を確かめる。
「私は大丈夫。ビッグ・フォーは右手が破損したけど、左手が残っているから」
(まあ、その左手も右手と同じで後一発ってところだけど……)
そう思いながら、ヘタレ幼馴染みに不安材料を一つ隠すことにするアキ。
その頃リーベは、自分のミスでキリマンジャロが敗北したショックで、本拠点に戻って今度はグリフォン相手に現実逃避を行っていた。
「ねえ、グリフォン知ってる? 空が青いのはね、海(攻め)が空(受け)に”海! オマエを俺色に染めてやるぜ!”って言って……。あっ、海は穏やかな人物に見えて、実は荒々しい部分もあるという、俗に言う隠れ俺様系で…… 」
次回に続く




