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女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)  作者: 土岡太郎
第5章 冒険者の少女、異世界の為に頑張る。
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143話 魔王の封筒 





「はぁ~、今日は最悪の日だわ……。嫌なことを思い出すし、せっかく直したステュムパリデスは全部壊れるし……、ロックゴーレムはあの絶対コロスガールに呆気なく壊されるし……、盛大にリバースしちゃうし……」


 本拠点の城壁の上で、リーベが一人落ち込んで感傷に浸っていると、城壁の外から金属の衝突する轟音や、地面に何か巨大なモノが倒れる大音が耳に入ってきた。

 その耳障りな騒音は、自分の世界に逃げ込んでいた彼女を現実世界にひき戻し、この騒音の正体を確かめさせる。


「うるさいわね、一体何の音な……」


 城壁の外を見たリーベは驚愕した。

 何故なら自分が現実逃避している内に、すでにアイアンゴーレムは敗れて戦場から姿を消し、デナリは地面に倒れ冒険者達にフルボッコにされていたからだ。


「ヤバイ、ヤバイ! いつの間にか劣勢になっているじゃない!?」


 リーベは慌てて、グリフォンの背中に乗って大空に飛び立つ。


「デナリはもう駄目ね。キリマンジャロ、デナリ諸共冒険者達に魔法攻撃しなさい!」


 そして、キリマンジャロに魔法攻撃の指示を出す。

 キリマンジャロの魔法攻撃は、デナリと数人の冒険者にダメージを与えたが時既に遅く、その後すぐに紫音の高威力オーラウェイブに撃破されてしまった。


「天河紫音……」


 リーベは女神のお気に入り少女の活躍を、苦々しく思いながら次の手を考える。

 だが彼女は今日失敗続きのために、自分で判断できずにいる。


 すると、四天王が一人撃破された時に見るようにと魔王から、策の書かれた封筒を預かっていたことを思い出す。


 リーベはさっそく腰の鞄から、『壱』と書かれた封筒を取り出すと内容を見る。


「何々……“これを読んでいるということは、四天王のおそらくは足元に人間側の後衛がいて攻撃するのが難しいキリマンジャロではなく、予定どおりデナリが撃破されていることでしょう。予定通り撃破されたのがデナリならAへ、キリマンジャロならBへ進みなさい”」


 リーベは支持に従いAと書かれた段落の文章を読む。


「”残っているのが、キリマンジャロなら策自体は単純です。人間側は恐らくキリマンジャロを前後から挟んで攻撃しようとするでしょう。それを待ってから、『エベレスト』を本拠点から出撃させて挟み撃ちにして、そして2体に挟んだ部隊に対して魔法を数発撃たせて、相手を撹乱させなさい”」


「なるほど……、さすがは魔王様!」


 リーベが策を読み終わると、丁度人間側は3方向からキリマンジャロを囲んで攻撃を開始するところであった。


 人間側は注意を引いた部隊以外の残り二部隊が、背後から攻撃をするという作戦でキリマンジャロとの戦いを優位に進める。


「そろそろ頃合いね。出番よ、『エベレスト』!!」


 リーベは本拠点上空まで来ると、薙刀に魔力を込めて命令を出す。

 挟んでいた紫音達後方の部隊に、本拠点から足音が響いてくるのが聞こえてきた。


「何!?」


 紫音が驚いて本拠点の方を見ると、門から四天王を超える巨体のトロールが手に柄の先に巨大な鉄球の付いた、所謂モーニングスターを持って歩いて出てくる。


「何だ、あの大きいトロールは!?」

「アレが噂のトロールの王か!?」


 恐らく強大な力を持つ巨体のトロールの王― それを見た冒険者達に動揺が広がった。


 そして、間髪入れずに紫音達の部隊の足元に魔法陣が2つ現れる。

 その一つエベレストの唱えた魔法陣は大きく、足の遅い者は逃げ切れなかった。

 反応して魔法の範囲から逃げて、その魔法の着弾地点を見た紫音の目に、逃げ切れずに負傷した者達の惨状が映り込む。


「…………っ!」


 紫音はその惨状を見て絶句してしまう。

 女神の秘眼で精神が強化されていなければ、失神しているかリバースかしてどちらにしても戦闘継続は無理であったであろう。


「よくも、こんな酷いことを!!」


 だが、今の紫音はこの惨状を引き起こしたエベレストに対して、怒りと憎しみが湧き上がっていた。


 紫音が怒りに支配されてエベレストに攻撃を仕掛けようとすると、クリスに肩を掴まれて引き止められる。


「冷静になりなさい! 前にも言ったけど、戦場では常に冷静でいなさい、そうでないと次ああなるのはアナタよ!」


「すみません、クリスさん……」


 クリスの叱咤に紫音は冷静さを取り戻す。

 挟まれた2部隊はその後数度の魔法攻撃に犠牲を出しながら、左右に距離をとって挟撃を逃れる。


 リーベはエベレストにどちらに攻撃させるべきか、魔王に直接指示を仰ぐため『女神の栞(魔王軍用)』で連絡を取ることにした。


 魔王から返ってきた指示は、以下のような内容である。


 ”2部隊いて左右に分かれたのね……。なら、弱そうな部隊から攻撃させなさい。キリマンジャロが強そうな部隊と正面の部隊に撃破される前に、エベレストが弱い部隊を倒せればまだ勝機はあるわ。だから、キリマンジャロにはアナタが状況に合わせて、こまめに指示しなさい“


「わかりました、魔王様!」


 リーベは魔王の指示通りエベレストを弱そうな部隊に向かわせる。


「天河紫音と”月影”の団長副団長のいる方が強いわよね。ということは、アッチの黒いゴーレムがいる方ね……。いけっ! エベレスト!」


 リーベはエベレストにアキ達のいる方に攻撃命令を出す。

 エベレストは彼女の命令で、左側の部隊に歩いていく。


「奴を引きつけるために、更に後退する」


 アーネスト・スティールは、左側の部隊に後退命令を出す。

 彼はエベレストが近づく前に距離をとって、戦わずに時間を稼ぎその間に残りの部隊がキリマンジャロを撃破して、援軍に来るのを待つことにした。


 エベレストは手に持つモーニングスターを逆手に持ちなおすと、前進しながらやり投げの要領で後退する左の部隊に投擲する。


 投擲されたモーニングスターは放物線を描いて飛んで行き、後退する部隊に巨大な鉄球面から落下して被害を与えた。


 エベレストが投擲したモーニングスターには柄の底に鎖が付いており、その鎖は右腕の腕輪に繋がっていて、それを手繰り寄せる事により手元まで回収することができる。


 モーニングスターを回収して、再び手に持った圧倒的な力を持つトロールの王エベレストが、左の部隊にゆっくりと迫っていく。



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