130話 不安
話し合いが終わった後大会議室に残ったユーウェイン、スギハラ、クリス、ミレーヌが話しあっていた。
「あの場では賛成したが、果たしてオマエ無しで残り二体の四天王を捌けるだろうか……」
ユーウェインがいつになく弱気な発言をする。
「オマエとシオン君がいれば大丈夫だろう」
「四天王だけならな……」
クリスはユーウェインの話を聞いて、思い当たることを口にした。
「その言い方だと、カムラード殿は例の推測を指示しているのですね」
クリスの意見を聞いたスギハラが思い出してこう発言する。
「獣人軍には四天王を、統括する王のようなモノが存在するのではないかというやつか……」
「私は存在すると思っている。私自身が四騎将を率いている身だからな……。ミレーヌ様はどう推察なされていますか?」
スギハラの話を聞いて、ユーウェインは自分の考えを述べた後に、ミレーヌの考えを聞く。
「誰も見たことがない存在ではあるが、私もいると思っている。むしろ、いるほうが自然ではあるな。魔王が獣人の王を担っている可能性もあるが、物事は常に最悪の事を想定しておいたほうがいいしな……」
ユーウェインはミレーヌが自分の推察と同じだと解ると、自分の考えを語る。
「私もそう思いシオン君には、その王を相手にしてもらったほうが良いと考えています。まだ、若く実戦経験も我らより少ない、彼女に頼るのは申し訳ないと思っているが……。もちろん、彼女だけに戦わせません。我々も一緒に戦います」
ユーウェインの考えを聞いたミレーヌは、一つ危惧することを話す。
「しかし、シオン君はメンタルが弱いところがあるから、任せすぎるのはどうかと思うが……。シオン君には四天王ぐらいが、精神的負担が少なくて良いのではないか?」
彼女は今迄紫音を見てきて、そのように評価してそう提案する。
「シオンは普段は確かに頼りないところもありますが、戦闘になるとスイッチが入るようで意外と冷静に戦います。ただ、戦いが長引くと精神的疲労でかなり疲れてしまうみたいですが……」
クリスは紫音の戦場での様子を語った。
「まあ、でも今回は大手クラン参加によって人数も多い。”クリムゾン”団長スティールの言う通り数で押せるかもしれない……。そうすれば、個人に頼らなくても済むかもしれない。要塞防衛戦でも、毎回これぐらい参加してくれればな……」
ミレーヌは最後にそう言って、話し合いを終える。
会議室を退室するユーウェインとクリスをミレーヌが引き止め、クリスには耳を抑えるように指示を出す。そして、スギハラにはこう言い放つ。
「スギハラ、オマエは先に帰っていいぞ。これからの話しは○○○○のオマエには話しても仕方ないからな」
「あんまりだ~~~~!!」
それを聞いたスギハラは、そう言いながら走り去った。
「君達だけに言っておこうと思ってな。これから話すことは、ここだけの話にしてくれ」
ミレーヌは紫音から聞いたクナーベン・リーベの話を二人にする。
「あの仮面の女魔戦士が、人間だったとは……。確かに、団長には聞かせられませんね。相手が人間の女だと知れば、攻撃が鈍ることになるでしょう」
「人間だから、挟み撃ちや奇襲などの戦術を取ってきたということか……。では、三年前の魔王軍が使ってきた包囲戦術も、クナーベン・リーベが!?」
三年前、魔王城に進行した騎士団と有志冒険者クラン連合軍は、魔王領に入ってから魔王軍の迎撃部隊を何度も敗走させ、勢いに乗って前進を続けていた。
あまりの魔王軍の脆さに、敵領地に深くに誘引されているのではないかという意見も出たが、魔物がその様な戦術を使うはずがないという考えと、連勝による慢心、そして何より魔王城には人間達から奪った莫大な財宝があるとの噂により、今回のような冒険者達の意見によって前進することが決定された。
そして、魔王城までもう少しという所で、今までより少し数の多い獣人軍と戦闘する。
その時、魔王が魔王城を放棄して少しの供と、王都前のコンテーヌ平原に現れた為、その迎撃の為に騎士団に至急王都へ帰還せよとの王命を伝令が伝えに来る。
ユーウェインやスギハラは今から向かっても間に合わないから、まずは今戦っている敵を倒すべきだと進言するが、当時の騎士団長は王命に従い戦闘を放棄して撤退を命令した。
騎士団長は王命を冒険者クラン連合にも伝えるが、彼らは魔王が魔王城に居ないこの状況を、財宝を手に入れる好機と捉え撤退を拒否したので、仕方なく騎士団だけで撤退することになる。
そして、騎士団が抜けても戦い続けた冒険者クラン連合は、この戦いでも獣人軍を撤退させ魔王城前まで追撃するが、そこで左右に潜んでいた魔王軍の伏兵に襲われ、包囲されてしまう。
数的には互角であったが、包囲されたことによって冒険者側は大混乱となり、戦闘のフォーメーションも崩され、壊滅に近い大損害を受けることになった。
冒険者達が包囲され大敗したのは、魔物相手では少数相手なら包囲しての攻撃は無防備の背中を攻撃できるため有効であるが、数が増えると包囲しても魔物は混乱することは殆ど無く正面に対峙してすぐ対処してくる。
そのため戦闘は前衛後衛のフォーメーションが重視され、万全のフォーメーションを組んでそこに魔物をおびき寄せて戦闘する事が効率の良い戦い方とされていた。
それにこの世界ではフェミニースによって、人間同士の戦争があまり行われていないため、戦術があまり発達しなかった為に、対処できなかったという理由も存在する。
ミレーヌはユーウェインに注意を促す。
「それはわからない……。だが、今回は三年前に状況が似ている……。くれぐれも気をつけてくれ」
それを聞いたクリスは、ユーウェインにこう申し出る
「少なくとも最近の彼女の動きから、複数のゴーレムによる挟み撃ちは行ってくる可能性は高いと思います。討伐軍に、うちのソフィーとアフラを割り当てます」
「構わないのか!?」
「こちらは通常のオークと戦うだけですから、二人が抜けても何とかなります」
ユーウェインの問いに、クリスはそう答えを返す。
「二人共、くれぐれも無理はしないように。失敗したらすぐに帰ってくればいい。また、要塞を堅守して機を待てばいいのだからな。無理をして壊滅し戦力がガタ落ちすれば、それこそ目も当てられないことになるからな!」
「はっ!!」
二人はミレーヌに敬礼すると、今度こそ大会議室を後にする。
その頃、紫音達は山籠りのご褒美として約束していた、リズのカードゲーム購入する為に街に来ていた。
リズはカードが数枚入った袋の束の中のどれを購入するか悩みに悩んだ末、運を天に任せ2つ選び取り袋を開けようとしている。
「いいカードが出るといいね」
支払いを済ませた紫音が、そう言って近づいてきた。
「女神様にいいカードが当たるようにお祈りしますね」
エレナがそう言って、女神に祈りを捧げる。
「ドキドキするね……」
親友にいいカードがあたるといいなと思いながら、ドキドキした表情で見ているミリア。
「開けるッス!」
リズは意気揚々とまず1つ目の袋を開封した!
―が、すぐにわかり易い残念な表情になる。
「気を取り直して、最後の袋を開けるッス!」
リズは最後の袋に希望を託して開封した!
すると、カードを確認したリズは歓喜の表情を浮かべる。
「やったッス! レアカードの”マゼンタアイ・パールブラックドラゴン”ッス!」
念願のレアカードを手に入れて、大喜びするリズ。
(あんなに大喜びして、買ってあげてよかった)
それを見て紫音は、自分も嬉しくなる。
(でも、今まで当たらなかったレアカードが当たるなんて、何かのフラグじゃないよね?!)
だが、直ぐにそのような不吉な考えが頭をよぎってしまうが、すぐさま頭から消し去った。
こうして、いくつかの不安を抱えながら、トロール本拠点侵攻作戦が明日に迫る。




