129話 話し合い
「そうそう、ちなみに彼女の話は他に誰かにしたかしら?」
「いえ、今のところはミレーヌ様だけです」
「それなら、暫くはこの事は君と私だけの秘密にしておいてくれ」
その答えを聞いたミレーヌは、そう紫音に口止めをする。
「そうですね、相手が人間だと解ったら戦いにくいですもんね……」
その理由を紫音はこのように解釈したが、ミレーヌは彼女にこう説明する。
「それもあるが、その話を聞いた者の中で自分も魔王軍に入りたいという者が、出てくるかもしれないからな。まあ、恐らく魔王軍には入れないと思うがね。今まで捕虜になった者達の中で、魔王軍になった者も勧誘された者はいないからな」
ミレーヌの言ったことは事実で、今まで捕虜になった者は魔王とリーベのBL趣味の餌食となるだけだったからだ。紫音はミレーヌとその後少し雑談してから、自室に戻り就寝する。
翌日―
ミレーヌは行政府の大会議室で、今回の作戦に参加要請した冒険者クランの代表と話し合っていたが、ある一つの問題で話し合いは難航していた。
その問題というのは、現在オーガの旗が17本になっていて前回のトロールが24本であったため今回もそうだとは思われるが、しかしその様な保証もなくさらにあまり旗が増えると拠点の外にいるオークが増え、少数で釣りだすのが難しくなってしまう。
そこでどこかのクランが、オークの数を減らさねばならないがどこもやりたがらない。
その理由は、トロール拠点攻略参加は危険ではあるが大きなメリットが有る。
成功すれば拠点攻略した者として名声を得られ、何より拠点にあると推測される宝物も手に入れることができるだ。
それに比べ、オークの数を減らす任務は、大した報酬は出ないし名声も手に入らない。
「どこか引き受けるところはないのか? オークの数を減らすのも、後方支援の一部として大事な任務だぞ」
そのため、どこのクランもオークの数減らし任務を引き受けなかったので、業を煮やしたミレーヌがクラン代表を見ながら圧を掛ける。
「いつものように、スギハラ殿の”月影”が引き受けては如何ですかな?」
そのミレーヌの言葉に反応して、そう言ったのは大手クラン”クリムゾン”の団長、アーネスト・スティールであった。
彼の言う通り、いつもならスギハラの”月影”が引き受けるところであるが、彼の力はトロール四天王を討伐するために必要である。そのためスティールの意見に、ユーウェインが反論した。
「スギハラの力は、四天王相手に必要だ。貴殿も前回の戦いで、スギハラが四天王を倒したことは聞いているはずだ」
「一人でとは聞いていませんがね。確かに我がクランにはスギハラ殿程の手練は私を含めていませんが、複数でなら我らクランでも倒せる戦力はあります」
スティールの反論にユーウェインに帯同して来ていたタイロンが反論する。
「ハッキリ言えよ! テメーらの目的はトロール本拠地にある宝物だから、コッチに参加したいだけだってよ!」
「我々冒険者はアンタ達騎士団と違って、国から定期的に金が貰える訳じゃないんだ、宝で稼ぎを得るのは当然であり、非難されることではない!」
タイロンの意見に大手ギルド”鷲の爪“団長、ロジャー・バロウズが反論する。
「控えろ、タイロン! すまないバロウズ殿、そして、他の冒険者クラン代表の方々、部下の非礼を許していただきたい」
ユーウェインはタイロンの失言を謝罪し、タイロンも上官の意を汲んで謝罪の為に頭を下げる。
「いや、こちらも熱くなってしまった、申し訳ない」
それを受けて、バロウズも謝罪する。
「このままじゃあ埒が明かねえから、オーガは俺のクランが引き受ける」
スギハラがオーガを減らす任務を申し出る。
「しかし、団長の力は……」
「このままここで無駄に時間を過ごせば、その分トロールもオーガも数が増える。今回の俺達は迅速に行動しないといけない」
その団長の申し出を聞いたクリスがそう言いかけるが、スギハラはクリスとこの場にいる他のメンバーに言い聞かせるように言った。
「スギハラの言う通りだ。時間を無駄にするわけにはいかない。今回の作戦に参加する諸君には迅速に事にあたって貰いたい。よって、出発準備は明日としたい」
「昨日話しを聞いた時から、準備は進めている。明日には間に合うはずだ」
ユーウェインの発言に、各クラン代表からそう答えが返ってくる。
「では、明日トロール本拠点攻略作戦開始とする!」
ミレーヌが、話し合いの締めに参加者にそう発言すると参加者一同から「オーーーー!」と、気合を入れる声があがる。
こうして、話し合いは終了しトロール本拠点侵攻作戦が決定された。




