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女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)  作者: 土岡太郎
第1章 少女、冒険者目指して奮闘する。
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07話 冒険者の街への道のり(3)


 


 宿屋に入った紫音は自分の部屋を押さえるため、受付に向かおうとするとアリシアに引き止められた。

「わたくしの部屋は広くてベッドが二つあるので、一緒に泊まればシオン様の宿代が節約できます」

 彼女は紫音をそう言って、相部屋に誘ってくる。


(それは流石に、レイチェルさんが許さないだろう…。いや、むしろ反対して欲しい! 反対してください! さあ、レイチェルさん!!!)

 そう思って、紫音が期待の目でレイチェルの方を見る。

 

 だが、百合厨女騎士から帰ってきた返事は

「今夜は夜更けまで、パジャマパーティーですね!」

 期待を裏切る思いも寄らない言葉であった。


 紫音の中で、レイチェルの印象が残念美人さんになった。

 あと、私の憧れを返せ。


 みんなと食事を済ませた後、シャワーを浴びベッドに入った紫音は、結局断りきれずにアリシアと相部屋になり、先にベッドに入っていたアリシアとは違うベッドに入る。


 初めての異世界での夜、紫音はベッドの中で今日のことを思い返していた。


今日は本当に色々あった……、自分が元の世界で死んでしまったこと……、

 二人の女神様にあって異世界に転生したこと、魔物に襲われたこと、ユーウェインに助けられたこと、アリシアに会ったこと……


「アリシア様、もう寝ました?」

「いえ、まだですシオン様」


「アリシア様は、私の事をどこまで知っているのですか?」


「セシリア様がアマネ様から聞いた、アマネ様がこことは違う別の世界のニホン? というところから来たこと。セシリア様がそのニホンのことについて聞いて、日記に記した内容だけです」


「くれぐれも異世界のことは内緒で……」


紫音は内緒にしてくれとは、フェミニース様からは言われなかったが、内緒にしておいたほうがいいかなと思った。

 現に天音様も内緒にしていたみたいだし、一人を除いてだけど……


「わかっています、シオン様」

「ありがとうございます」


「あとわたくしのことは、二人だけの時はアリシアとお呼びください」

「そんなわけには……」


「御二人は二人だけの時は、そう呼び合っていたみたいなのです」

「それほど仲が良かったんですね」


「御二人は亡くなるまで、お互い独り身だったそうです。だからわたくしもシオン様と同じで直系ではないのです」

「そうなのですか……」


「きっとお互いを想い合っていたのだと思います。でなければ、本来このような重大な日記を隠して残すことなど無いと思います。でも、セシリア様はアマネ様との思い出の詰まったこの日記をどうしても処分できなかったのだと思います」


「わたくしそんな御二人の関係にずっと憧れてきたのです。だからアマネ様の子孫のシオン様と御二人と同じような関係になりたいのです」


紫音は少し考えると、上半身をベッドから起こし、

「わかりま――、わかったわ、アリシア。アマネ様のように頼れる人になれるか分からないけど、これからもよろしくね」


「はい、わたくしこそ不束者ですが、これからもよろしくお願いしますシオン様」

「えっ、そっちは様付けなの!?」

「だって、わたくしにとってシオン様はシオン様なのです!」


「あの~シオン様、そちらでご一緒に寝てもいいで―」

「駄目です」

 紫音は無表情で、間髪いれずに答えた。


 その頃、

「俺のターン、ドロー。コストを2払ってロックゴーレムを召喚! 後衛にいるクロスボウゴブリンに岩石投げアタック!」

 ユーウェインのロックゴーレムが、ミゲルのゴブリンを破壊する。

「続けて場にいるサラマンダーで、オーガに攻撃! 最後、ファイアードラゴンでライフに攻撃!」

この時点でミゲルのライフが0なる。


「隊長、もう寝ましょうよ。カードゲームはもういいでしょう? 明日も早いですよ?」


ユーウェインとそれに付き合わされているミゲルが遊んでいるのは、魔物バトルというカードゲームで実在する魔物が描かれたカードで戦ういわゆるアナログカードゲームである。


三年前から子供向けに発売された物で、当初はこれを買えば魔物の弱点・属性・攻撃方法が解り、魔物の知識が得られるという触れ込みで売り出された。


 今までにないゲーム性とイラストの格好よさ親に魔物の勉強になるという、おねだりのしやすさで子供から大きなお友達まで人気の商品となっていた。


「仕方ない、明日に備えてお前は寝るといい。私はもう少しデッキ構成を考え直してから寝ることにしよう」


 ミゲルは借りていたユーウェインの予備デッキを返すと、敬礼して自分の部屋に返っていった。


 こうして、紫音の異世界初日は過ぎていった。


 早朝5時頃、いつもの習慣で目が覚める。

 昨日の事は実は夢で、眼が覚めればいつもの朝が来るのではないかと淡い期待を少ししていたがやはり現実らしい。


「異世界に転生しても、朝練をするための早起きの習慣は抜けないんだ……」

 隣で寝ているアリシアを起こさないように、気をつけながら身支度を済ませると外に出て朝練を始める。


 ストレッチを済ませ、宿屋の周りを走っているとユーウェインとミゲルが宿から出てきた。

「おはようございます」

 紫音が、挨拶をすると2人も挨拶を返してくる。


「早いな、シオン君」

「はい、少しでも訓練して、早く戦えるようになりたいんです」

ユーウェインの質問に紫音はそう答えた。


「そうか、私達は軽く流すだけにしておくよ。やりすぎて警護に支障をきたすといけないからね」


 紫音がジョギングを終わらせた頃には2人は居なくなっていた。

 その代わりに入れ替わるようにレイチェルが宿から出てきていた、どうやら交代でアリシアの警護をしているようだ。


「おはようございます。」

 紫音が、挨拶すると彼女も挨拶を返してくれた。そして、


「ところでシオン君、昨晩はアリシア様とは……」

「もちろん、何も有りませんでしたよ」

 紫音がそう答えると、心做しか残念そうにしているレイチェルを横目に素振りを始める。


 紫音が、朝練を終え部屋に戻ってきた時アリシアはすでに起きていた。

「おはよう、アリシア」

「おはようございます、シオン様」


 アリシアは挨拶を返すと、

「レイチェルから聞きました、朝練をなさっていたそうですね。何故わたくしも誘ってくれなかったのですか?」


 その答えに紫音は、

「気持ちよさそうに眠っていたし、アリシアが朝練に誘って欲しいなんて、思わなかったから……」

「昨日もいいましたが、わたくしは冒険者育成高等学校に通っています。だから朝練だって当然しています。今日は昨日なかなか寝付けなくて寝坊してしまいましたが……」


「じゃあ、明日から誘うことにするね」

「はい!」


 二日目は特に何もなくアリシア達と話している間に、次の町アーウィンについた。


 この夜もアリシアに一緒に寝ようと言われたが、丁重にお断りをして早い時間に就寝することにした、明日も朝練で早いからだ。


 三日目、昨日の約束でアリシアを朝練のため起こそうとするが、

「あと五分、あと五分寝かせてくださいシオン様……ZZZ」


(こういう事言う人は、絶対に起きないないよね…)

 紫音はそう思い一人で朝練に向かった。


 朝練から帰るとアリシアが、

「明日こそ、明日こそちゃんと起きます!」

 と言ってきたが、これは明日も起きないなと思った。


 三日目も何事もなく、次の町ケルトについた。

 明日はいよいよ冒険者の街アルトンに着く、恐らく私の冒険者人生が始まる。

 それと、アリシア達とも別れることになる……


 ベッドの中で少し寂しさに浸っていると、アリシアが

「シオン様一緒の―」

「駄目です」

 このやり取りも今日で最後だと思うと感慨深い、そう思っていると背後に気配を感じた。


 慌てて起き上がると、アリシアが私のベッドの横に立っていた。

「アリシアどうしたの?」

 私がそう恐る恐る尋ねるとアリシアはこう答えた。


「今日でシオン様と一緒に過ごす夜は、ひとまず終わってしまいます。ですので、わたくし今日なんとしてもシオン様と一緒に寝ます!」

 そう言いながら、アリシアがベッドに強引に入ってこようとしてきた。


「さすがにそれはまずいよ、アリシア! R指定が上がっちゃうから!!」

 そう言って必死に抵抗したが、アリシアはその華奢な見た目によらず力が強い。

 というか、私よりも明らかにパワーがある。


「ふふふ、シオン様油断しましたね。フェミニース様の加護の強化によって、わたくし力には自信あるのです。この世界では見た目では相手の身体能力が分からないことがあるということを、覚えておいたほうがいいですよ?」


 紫音は遂に力負けして、アリシアのベッド侵入を許してしまう。

(だめだよ、アリシア! こんなの早すぎるよ!)


 だが、アリシアは紫音の横に添い寝すると

「それでは、シオン様おやすみなさい」

 そのまま寝てしまった。


「私、いつの間にか汚れた心になってしまっていた……、私のバカ!」

 紫音は自分の心に恥じて、眠りについた。


 アリシアが横で寝ていたのが、気になってしまい寝不足気味になってしまった紫音であった。

 次の朝、なんとか起きてやはり起きなかったアリシアを置いて、紫音が眠そうに素振りをしていると、レイチェルが近づいてきてこのように尋ねてくる。


「どうしたんだい、今朝は眠そうだね? はっ!? ま、まさか昨晩は!?」

「自分の心の未熟さを恥じているだけです」

「シオン君! そ、それは、一体どういう意味なんだ!?」


 レイチェルが、顔を赤くして妄想している姿を尻目に、紫音は朝練を終えたので部屋に戻る。


「最後の日まで……、起きられないなんてわたくしのバカ……」

 部屋に戻ってくると、アリシアがそう言って落ち込んでいた。


「でも、昨晩は一緒に寝たのだから差し引きゼロ、いえむしろプラスのはずよ、アリシア!」

 すぐさまそう言って、自分を慰めていた。

 紫音は、そっと扉を閉めた。


 四日目この旅の終着点、冒険者の街アルトンに向かう。


 今日もアリシアと話していると、

「そうだ、シオン様。これわたくしの【女神の栞】の番号です」

 最終日に紫音は、また謎の単語を聞く。


「【女神の栞】ってなんですか?」

まあ、名前からして便利な女神グッズだとは思うが、詳しく聞いておこうと思った。


「【女神の栞】というのは、これです。」

 アリシアが、鞄から不思議な金属でできた栞のような細長い物を取り出した。


「【女神の栞】は女神フェミニース様の不思議な力によって、遠くにいる人に20秒分だけ話した事を送ることができるアイテムです。これはフェミニース教会で冒険者に配られているもので、それぞれシリアルナンバーが刻印されていています。あと着信音は鈴虫の鳴き声、猫の鳴き声、犬の鳴き声から選べます」


「では、実際にレイチェルに使ってみせますね。まずこの表の部分にレイチェルのシリアル番号を書きます。そして、この○の刻印をおします。すると刻印が緑に光るので言葉を20秒間以内に話します」


 そして、アリシアは栞に向かって、

「今日はいい天気ですね」と喋りかけ、矢印の刻印を押す。


 すると、レイチェルの腰の鞄から犬の鳴き声がしてくる。

「レイチェルさんは、犬派なんですね。」

 紫音がそう言うと、レイチェルは少し照れながら、鞄から栞を取り出す。

 

 そして、栞の赤く光った○の刻印を押すと

「今日はいい天気ですね」と栞から先程の声が聴こえてくる。


「あと、この音符の刻印を押すと、着信音が鳴らなくなります。魔物の偵察時などに音で気づかれたくない時に使う機能です」

 つまりは、携帯のすごい劣化版みたいなものである。

 しかし、この世界の家電は便利そうに見えて絶妙に使いにくい。

 おそらくフェミニース様が意図的にそうしているのだろうけど……


 そう考えているとアリシアが

「シオン様、わたくしの番号を書いた紙です。シオン様からのご連絡、心待ちにしていますね」

 番号を書いた紙を私の両手を握りながら渡してくれた。



「これは私の番号だ、一応渡しておくよ」

 レイチェルは美少女二人のキマシタワーをしばらく堪能した後、クールなできる女性の顔と声でそう言って紙を渡してくれた。



 紫音はこれ幸いとアリシアの手を解き、レイチェルの紙を受け取った。


(シオン様のいけず…、でもそんなクールな感じのシオン様も素敵…)

 という顔をしているアリシアと、

(しまった! 折角のキマシタワーが! もうちょっと後で渡せばよかった!)

 という顔をしているレイチェルに


「二人ともありがとうございます、何かあったら遠慮なく連絡させてもらいます」

 と答える紫音であった。



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