112話 山での修行 其の壱
紫音達が山へキャンプしに、アキが要塞にお泊りしていた頃―
屋敷に残ったミレーヌとフィオナは話しあっていた。
ミレーヌはミリアと親友であるフィオナと話す時だけは、公の話し方ではなく素の話し方になる。
「ミリアちゃん、ちゃんとご飯を食べたかしら……、テントでちゃんと眠れるかしら……、心配だわ……、やはり山に様子を見に……」
「心配し過ぎよ、ミレーヌ。シオンさん達もいるから大丈夫よ。今頃みんなとキャンプを楽しんでいるわよ」
ミレーヌはミリアのことを心配していた。
「アナタはアキのことを心配にならないの?」
「私はもう慣れたわ。まあ、久ぶりに会えたのに、お話できないのは寂しくはあるけど……」
二人は少ししんみりとした気分になってしまう。
フィオナは昼間から、疑問に思っていたことをミレーヌに話す。
「それにしても、どうしてフェミニース様は私にアキに会いにここに来るように、神託を出したのかしら……。会いに来なければ、みなさんに迷惑をかけずに済んだのに……」
「さあ、どうしてかしらね。ただ言えることは、今回の件で事情を知った者達の今回の戦いへ対する意気込みが強くなったということね。特にアキ君のやる気が大幅に上がった事で、今回のトロール戦では大きな戦力となるでしょうね」
(女神様はそれを狙ったのかしら? 私としてはアキにはあまり戦って欲しくは無いのだけど……)
フィオナはそう思いながら、女神の真意を考える。
その頃、山では紫音が明日の早朝訓練に備えて、早く寝ることにしていた。
「それじゃあ、私は明日の早朝訓練に備えてもう就寝することにするね」
「そうね、こんなに暗くては起きていてもしょうがないわね」
ソフィーも紫音の意見に賛同して、就寝の準備を始める。
「テントの班分けは、どうするッスか?」
リズのこの質問に、紫音が班分けの提案をしようとするとミリアが彼女の服を引っ張りながら、潤んだ瞳で申し訳無さそうに紫音にお願いしてきた。
「私は……、シオンさんと一緒がいいです……」
(かっ、可愛い……。あざとリズちゃんも可愛いけど、自然に可愛くお願いしてくるミリアちゃんも可愛い!!)
紫音はその健気にお願いしてくる姿を見て、可愛いと思うと同時に庇護欲を掻き立てられる。
「じゃあ、私とミリアちゃんがテント(小)で、ソフィーちゃんとリズちゃんとエレナさんがテント(中)にしよう!」
「ごめんなさい、わがまま言って……」
「ええんやで。お姉さんと一緒に一晩を過ごそうね!」
ソフィーは紫音が飢えた狼の眼で、ミリアを見ているのを気づいた。
「駄目よ! アナタをミリアと二人きりになんて、危なくてさせられないわ! 私も一緒に三人でテント(中)にするわよ!」
「やだなー、ソフィーちゃん。その言い方だと私がミリアちゃんに何かするみたいじゃない、お姉さんは何もしないよ? あっ、わかった! ソフィーちゃんも私と一緒がいいんだね!」
「違うわよ! とにかく私も一緒に寝るからね!」
ソフィーはそう言って、テント(中)の中に入っていく。
「しょうがないなぁ。ミリアちゃん、寂しがり屋のソフィーちゃんが一緒でもいい?」
「はい」
「誰が寂しがり屋よ!」
テントの中から、ソフィーの反論する声が聞こえてくる。
「じゃあ、リズちゃん、エレナさん。おやすみなさい」
紫音とミリアは二人に就寝の挨拶をすると、テントの中に入っていった。
「ミ―、私達もテントに入るッス」
リズは近くの木の枝に止まっているミーに呼びかけるが、ミーは降りてこない。
「どうしたの、リズちゃん?」
エレナは中に入ってこないリズを心配して、テントから出てくる。
「ミーが、呼んでも木の枝から降りてこないッス」
二人はミーの止まっている木の下まで来ると、リズはもう一度ミーに呼びかける。
すると、ミーは「ホーー」とリズに発言して、彼女はその言葉を通訳することにした。
「今夜はここで見張りをして過ごすそうッス。自分を気にせずに、みんなはテントで休んで欲しいそうッス」
リズがそう言うとエレナが心配する。
「一人で大丈夫かしら?」
「一応梟だから、夜行性だし大丈夫だと思うッス」
「ホーー」
「大丈夫って、言ってるッス」
「そう、では私達も寝ましょうか?」
二人はミーを信頼して、テントに入って就寝することにした。
翌朝の早朝、紫音が朝練のために起きて一緒のテントで寝ている二人を起こさないように外に出ると、まずストレッチを開始する。
ストレッチをしていて、ふと木の枝に止まっているミーを見ると、ミーの周りに背面に羽の飾りがついたバックラー程の小さな盾のようなモノが2つ浮いているのが見えた。
「リズちゃん大変! ミーちゃんの周りになにか浮いているよ!」
紫音はリズの寝ているテントに声をかける。
女神のテントは基本的に防犯上、外からは開けられないためだ。
「なんスか、シオンさん……」
リズがテントの中から、眠い目をこすって出てくる。
「アレ、アレ!」
「おー! ミーどうしたっすかソレ!?」
紫音はミーの方を指差す、それを見たリズが問いかけに答えると、ミーは「ホーー」と鳴いて説明してきた。
「これが、ゴッデスシールドファミリア(GSファミリア)ッスか!? それって、リーゼロッテ様の時に壊れたってモノッスよね?」
「ホーー」
「昨晩、山の女神様が持ってきてくれたんッスか?」
「ちょっと、アナタ達こんな朝早くからうるさいわよ……」
ソフィーは二人の会話で目が覚めたのか、テントの中から出てきた。
「ホーー」
「えっ、山の女神様から伝言を預かっているッスか?」
ミーは録音された音声を再生させる、するとお腹の辺りから声が聞こえてくる。
「えー、リズ聞いているかしら?」
その声を聞いた、ソフィーが思わず声を出してしまう。
「この声、あの山の女神の声じゃない!」
「しーっ! ソフィーお姉さん静かに!」
「ごめん……」
リズに怒られてしまうソフィー。
自分が待ち望んでいた声だったので、つい大声をしてしまったのだ。
「この盾みたいなものは、ゴッデスシールドファミリア(GSファミリア)と言って、アイギスシャルウルの防御用の兵装よ。ミトゥルヴァが飛んでくるモノをレーダー観測して、防御できそうなら勝手にしてくれるわ。もちろんアナタ自身が、指示してもいいわよ。」
「宙を浮く盾、これは便利そうッス」
「今回は2つだけ渡しておくわ。そうそう、それとミトゥースのデュアルブレード、略してミトゥデルードの説明だけど……」
(やっと、私の待ち望んでいた話がきた!)
ソフィーが話の内容に期待を込める。
「あっ、もうこんな時間! これから、友達とSNS映えする二時間待ちのお洒落なカフェに、行く約束をしているのよね~。この話はまた今度するわ、またね~」
そこで、音声は途切れた。
「エスエヌエスって何よ!? バエって何よ!? 二時間待つ暇があるなら、私の武器の説明をしていきなさいよ!!!」
肩透かしをくらい怒り狂うソフィー。
(ミトゥース様、益々OLみたいなこと言い出したけど、あの人何を考えているんだろう? それとも、ソフィーちゃんに武器の説明をしないための適当な言い訳なのかな?)
紫音はミトゥースの思惑を考察してみる。
「この盾女神の鞄(中)に、ぎりぎり入るッス。持ち運びに便利ッス。」
不機嫌なソフィーを横目にリズは嬉しそうだった。




