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女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)  作者: 土岡太郎
第1章 少女、冒険者目指して奮闘する。
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06話 冒険者の街への道のり(2)




「まず、眼の前にいるのが私の護衛をいつもしてくれている、騎士のレイチェル・スクラインです」


「レイチェル・スクラインと申します、冒険者ランクはA。しばらくの間よろしく頼みます」

 目の前に座る赤毛の女性騎士は、主君の恥にならないように丁寧に挨拶した。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

 紫音は想定と違って、丁寧な挨拶に内心びっくりした。


 これができる大人の切り替えってやつかと思い、目の前にいる大人の女性に少し憧れの混じった眼差しで見ていた。


 それに、気付いた横に座っている王妹殿下は紫音の気を自分に惹きつけるため少し声の音量をあげ紹介を続ける。


「次は、シオン様を救助した方。あの方こそ我が国の騎士団で今一番強いとされ、魔王の支配している土地と我が国の境界にある要塞で防衛の指揮官をなさっている、魔法剣の使い手ユーウェイン=カムラード様です。ランクはS、今は特別に私の護衛についてもらっています」


「ユーウェイン=カムラードだ、よろしく頼む」


 馬車の外から、話が聴こえていたのかユーウェインが自ら挨拶してきた。

「三年前の王都前魔王迎撃戦で、当時ユーウェイン様と共に【王国騎士団の双剣】と言われたもう一人の方と一緒に魔王を撃退した方なのです」


「へぇー、そうなんですか」

(そんなに強い人だったなんて…。ということは、私が倒さなくてもこの人とそのもう一人の人が魔王を倒してしまうのでは? では、私は何をしようかな?)

 と考えていると


「あれは撃退したのではありません、我々は見逃されたのです……。魔王がその気なら我々はやられていたでしょう」

 そう言ったユーウェインの顔は、見逃されたことへの悔しさに溢れていた。


(この人と同じくらい強い人がいても勝てない相手を退治するのが、この世界での私の第一目標なんだ……)


 これならフェミニースが、最後に無理なら魔王を倒さなくてもいいと言ったのも頷ける。


 しかし、紫音はその正義心から魔王を倒したほうが、憧れの天音のように人々のためになると思って、打倒魔王を目指している。


ここで紫音は、あのクレーター群を思い出した。

 

「あのお墓の前のクレーターがいっぱい有った場所、あそこが戦場になった場所なんですね? ということは、あのクレーター群は魔王が……」

 紫音は自分でそこまで言うと、そんな物を作れる存在が相手なのかと思うと不安が強くなってきた。


「いえ、あれは当時王宮魔道士長だったミレーヌ=ウルスクラフト様による、超高位魔法メテオの跡です」


 メテオ…、確かアキちゃんが見せてくれたゲームの魔法の中で、一番強い魔法だって言っていたやつだ。

 隕石が沢山降ってくる派手な魔法だった事を記憶している。


 アリシア様は、私を不安にさせまいと補足説明してくれたのだろう。

 だが、魔王はそんな魔法を使っても倒せないってことではないか……


 これは、別の活躍プランを考えねばならないかもしれない……


「アリシア様、お話が楽しいのはわかりますが、声をもう少し抑えたほうがよろしいかと」

 馬車の外までアリシアの声が聴こえていたユーウェインが、彼女にそう注意を促す。


 アリシアは注意を受けて、声のトーンを少し落とし、

「馬車を操っている方は、カムラード様の部下のミゲル・ストークスさんです」

 と最後の人物を紹介した。


「ところで、シオン様はやはり冒険者におなりになるのですか?」


 正直さっきの話を聞いた後でどうしようかと紫音は思ったが、とはいえ先立つものが必要なのも確かであり、そして今の彼女がそれを得るには冒険者になるのが早い。


「そうですね、取り敢えず冒険者になろうかと思っています」

 紫音がそう答えると、アリシアは

「やはり、シオン様もアマネ様と同じで冒険者になって魔王を倒すのですね!」

 嬉しそうに言った。


「あのレベルのゴブリン相手に救援を求めているようでは、魔王を倒せるようになるのはいつになることか……」


 今の自分の強さを自分自身がまだ把握しきれていないどころか、感覚のズレで戦闘することもまともにできない紫音にはそう答えるしかなかった。


「しかし君は不思議だな……」

 レイチェルが紫音に話はじめる。


「武術の修練を続ければ、見ただけで相手の強さがだいたい分かるようになる。私は君が、あの程度のゴブリン相手に手も足も出せないような強さとは思わなかった。だから私は君がわざと救援を求めて我々に近づき、アリシア様に危害を加えるのを目的としているのではないかと思って警戒していたのだ」


(それで、あんなに私を警戒していたのか…)


紫音は、それだけアリシアのことを大事に思っている人だと思うと、恐い人だと思っていたレイチェルの印象がかわってきた。


「だが、君が嘘をついているようにも思えない。私の見立て違いだろうか?」

レイチェルは、自分の見立てが間違っていることに納得していないようだ。


「シオン君。君はもしかして、つい最近女神の加護による身体強化が、急激に上がったのではないのかな?」

 外からユーウェインが、正鵠を捉えた質問をしてきた。


「何故判ったのですか?!」

そう答えた紫音だったが、この人どうして解るの? と少し怖くなったがすぐにその答えが返ってきた。


「やはりな。私の部下の四騎将の一人にエスリン=ネスビットという者がいるのだが、彼女もある日突然女神の加護による強化で能力が急に上がって、それまでの感覚と身体の差異に苦労したと聞いたことがあったのでね」


 他にもそういう人がいるなら、私のことは特に目立つことは無いかなと安心しているとユーウェインが続けてこう言ってきた。


「シオン君、私の元で働かないか? 私は自分で言うのも何だが人を見る目はある方だと思っている。君には将来性を感じるのだ、どうだろうか?」


 紫音が突然の勧誘に戸惑っていると、

「隊長! そんな勝手に、騎士団に入れてもいいのですか?」

 ミゲルの意見も当然であり、普通なら一指揮官にそのような権限はない。


「忘れたのか、ミゲル。私には陛下より独自の判断で動いていいという許可が与えられていることを。その権限には私が見込んだ者を部下にすることも含まれている」

だが,彼にはそれがあるのだった。


 紫音が、この人どこまですごいのだろうと思っていると

 

「ユーウェイン様には残念ですが、シオン様はいずれわたくしとパーティーを組むのです! ねえ、シオン様」

 アリシアが突然そのようなことを言い出した。


「えっ? えっ?」

 紫音がアリシアの発言に驚いていると彼女は続ける。


「わたくしは、セシリア様とアマネ様のお二人が力を合わせて、活躍するお話を幼い頃から聴き憧れていました。そして今日、そのお二人のお墓参りをした帰りにシオン様にお会いしました。この出会いに戦乙女座のわたくしは運命をいえ、宿命を感じずにはいられません!」


 アリシアは感極まって、紫音の両手を握ると

「きっとお二人がそれぞれの子孫であるわたくし達を、引き合わせてくれたに違い有りません。自分達のように力を合わせるようにと!」


 そう言ったアリシアの目は輝きに満ちていた。


レイチェルは紫音を疑っていたが、彼女を監視(?)しているうちに、悪い者では無いような気がしてきて、眼の前で美少女二人が両手を握っている姿を見て、このように考える。

(よし、これからはこのキマシタワーを思う存分楽しむとしよう!)


 紫音は、レイチェルのその生暖かい視線に気付くと恥ずかしくなってきて、アリシアの手を優しく解くと、


「アリシア様とパーティーを組むかどうかは、今はわかりません。私自身、暫くは冒険者として、こつこつとやっていこうと思っています。なので、折角のお誘いですがお断りさせていただきます」


その紫音の返事を聞いたユーウェインは、

「振られたな……だが、身持ちの固い女性は嫌いではない。また口説かせてもらうとするよ」

 そう、少しキザに答えた。

 これが嫌味に感じないのは、彼の人徳によるものかもしれない。


紫音は間接的にアリシアの誘いも断ったことに、彼女を傷つけてしまったのではないかと思って、彼女の顔を恐る恐る見ると特に残念そうな顔はしていなかった。

 

(よかった、それほど本気ではなかったようだね)


 そう紫音が思っていると、満面の笑顔でアリシアが、

「わたくし今、冒険者育成高等学校に通っています。そこを卒業するまでは、シオン様とはパーティーが組めません。だから、<い・ま・は>組めないというシオン様のプランは好都合です。あくまで、<い・ま・は>ですが」

 最後何か彼女の眼に闇が見えたような気がした……

 

 (アリシア様すごく可愛らしい人だけどなんか、コワイ……)


何か今すぐ話題を変えよう、そう思った紫音は

「すみません。すごく初歩的な質問なのですけど、そもそも冒険者ってどうやってなるものなのですか? さっきアリシア様が言っていた冒険者育成高等学校というところに入るのですか?」


 アリシアは紫音に、この世界で冒険者になる説明をしてくれた。


 冒険者育成高等学校に入るのは一つの方法であり、最も簡単な方法は国が運営している冒険者育成教習所に入り二ヶ月最低限の教習を受けること。

 そこで、冒険者ライセンスを得ることができるが、ランクは最低のHである。


 次に冒険者育成学校で、ここでは二年間しっかりと戦闘技術を学ぶ。

 卒業時のランクはFである。


 その次が冒険者育成高等学校で、さらに二年間みっちりと戦闘技術学ぶ。

卒業時のランクはE、騎士や大手【クラン】に誘いを受けたければ、ここを卒業しなければ難しい。


「なお、冒険者育成教習所以外は入るのに条件があり、開校も4月からとなっています。今は、11月なのであと4ヶ月ですね」


アリシアの説明を聞いた私は、何か学校みたいだなあと思った。

あと初めて聞く単語も出てきた。

 冒険者ランク・ライセンスは聞いたそのままのモノだろう。


「あのー【クラン】って何ですか?」

「【クラン】は同じ思想や目的を持った冒険者たちが集まって作るものです。大抵の冒険者はどこかの【クラン】に入って助け合って、報酬の高い難しい依頼をこなします。もちろん、自分で立ち上げることもできます」


 アリシアは冒険者について、一通り説明をすると紫音にこのように提案してくる。

「冒険者を目指すなら、わたくしたちと一緒に冒険者の街アルトンに行きましょう。そこには先程説明した施設が全て揃っていますから」


(確かにそこは最初の拠点とするには便利かもしれない)


「はい、ご迷惑でなければお願いします」

「迷惑なんてとんでもない、これからあと三日一緒ですね」


 アリシアは嬉しさのあまり、故意か無意識かは分からないが今度は紫音に抱きついた。


 レイチェルは美少女二人のイチャイチャに、

(フタタビ、キマシタワー!!)

 心の中で悶絶していた。


しばらくすると外からユーウェインが、報告をしてくる。

「アリシア様グリース村に着きました。宿へ向かいます」


宿につき馬車から降りた紫音は、【魔石電気】の恩恵を受けることになる。

村は夜だと言うのに、街灯と民家の明かりで明かりには困らなかった。

 

「これなら、私の元の世界に住んでいた所のほうが暗いかも……」


ただ、家屋は古いヨーロッパの木でできた家という造りで、明るく光る街灯との風景に少し違和感を抱いた。


聞いたところによると、【魔石電気】とは厳密に言えば電気ではなく魔法力のようで、それが色々な属性の【魔法スクロール】の取り付けられた魔道具に送られて、家電のように扱えるらしい。


例えば、街灯なら光属性のスクロール、コンロなら火のスクロールなどである。

ただし、家電のような細かい調整機能はもちろん無いため、スクロールの威力の方で調整する仕組みのようだ。


 魔力の高い魔道士なら、魔石電気なしでも魔力の続く限りなら使えるらしい。

 もちろん魔石電気を使うと使用料金を支払わなければならない。


 家電に比べれば使い勝手は悪いが、それでもこの世界の人々の生活はかなり楽になっている。


二百年以上人々に魔物と戦わせ、一方では魔石電気で生活を楽にするフェミニース様は優しいのか、厳しいのか分からない女神様だと紫音は思った。


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