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女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)  作者: 土岡太郎
第3章 冒険者の少女、新しい力を求める
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79話 腐女子少女と聖女様 その2







 アキがこの世界フェミニアースに転生して、フィオナと一緒に住んで約二ヶ月ようやくこちらの世界での生活に慣れてきた。


 懸念していた家事は、電化製品の劣化版のような魔石電気器具によって、何とかこなせている。そうして、心に余裕のできたある日アキは、とんでもないことに気づく。


「私、こっちの世界に来てからBLに触れてない!!」


 アキは自分がこの世界に来た目的の一つである、新たなるBLとの出会いが果たせていないだ。


 女神に仕える総主教であるフィオナがBLを嗜むわけがなく、いわばそのようなコンテツに触れることができない場所に二ヶ月隔離されていたとはいえ、王都の商店街などに買い物に行ったこともあるのに全く目に入ってこなかった事に改めて認識する。


「もしかして、この世界にBLはない……? いや、そんなことはないはず。例え世界や時代が変わろうとも、人の営みにそう変わりはないはず、子を生み、育て、そして死、争い、宗教、BLも必ずあるはず……」


 着地点がやや強引ではあるが、アキはそう結論づけ自分が本屋などで、注視していなかったから見なかっただけだと思うことにした。


 アキは本屋に来るとBL漫画を探してみる。

 その様子は獲物を探す飢えた狼のような眼だった。


(あんな鋭い眼をした奴を見るのは久しぶりだな。思わず戦場を思い出してしまった。将来きっと優秀な冒険者になるに違いない……)


 そのため本屋の店主が、評価を見誤ってしまうぐらいである。


 BL漫画はあることはあったが数は少なく、内容も現代日本の洗練された作品には遠く及ばなかった。


 そもそもこの世界は魔物と戦いに人々の力が優先され、漫画やゲームなどのサブカルチャーが発展していないのだ。


(これなら、私の描いた作品のほうがマシかも……)


 アキは家に帰ると、その夜さっそくフィオナに絵を書くための道具を買って欲しいとお願いする。


「アキは芸術に興味があるのですか?」

(芸術と言っていいのだろうか……)


 アキは少し考えるとこう答えた。


「芸術というには大袈裟ですけど、絵を描くのが趣味なんです」


 アキのその答えにフィオナは笑顔でこう答えてくれた。


「勿論、かまいませんよ。趣味を持つのはいいことです。今度描いた絵を私にも見せてくださいね」


 次の日の朝、彼女はフィオナを送り出すとさっそく画材屋へ行って道具を買い揃える。


「やっぱり、スクリーントーンは無いんだ……。これは、手間がかかる事になりそうね」


 画材屋から帰ってくると、アキはまず部屋の風景を描くことにした。

 フィオナに、見せてと言われた時の為のモノである。

 その夜、アキはさっそくフィオナに、見せて欲しいと言われたので見せることにした。


「アキは絵が上手ですね」

「そんなことは……」


 アキはそう謙遜したが、彼女には絵を描く才能があったので中々のものである。


 アキの絵を見たフィオナは、彼女にこの様なお願いをしてきた。


「そうだわ、アキ。今度、教会でちょっとしたチャリティー音楽のイベントがあるのですが、その広告に可愛い絵を描いてくれませんか?」


「可愛い絵ですか?」


「はい、そうです。このナタリーの作った広告の原案を見てください。文字ばかりの事務的な温かみの無い内容を! これでは、硬い音楽イベントだと思われて、みんなが来てくれません。これに、アキが可愛い絵を描いてくれたら、温かみのある広告となってみんな来てくれると思うのです。そもそも、こんなのを作るような性格だから、今日もネチネチと私に小言を言ってくるのです!」


 最後の話は、多分フィオナ様が悪いのだろうなと思いながら、アキはそのお願いを聞くことにした。


 次の日の昼、アキは広告に絵を描き完成させるとフィオナに、すぐにでも見せたくて教会に向かう。


 教会に着くと、エスリンが敷地内でいつもよりハードな訓練をしていた。

 アキは彼女に気がつくと話しかける。


「いつもよりハードな訓練をしているのですね」


「この間、急に女神の加護の強化レベルが上がってね。今まで体に覚え込ませた感覚と今の身体能力が噛み合わなくなってしまったの。それで、こうやって今の身体能力を体に覚えさせているの。ところで、今日はどうしたの? また、フィオナ様が何か忘れ物を?」


「いえ、今日はこの頼まれていた広告が完成したので、見せに来たのです」


 アキは自分が可愛い絵を、書き足した広告の原案をエスリンに見せた。


「可愛い絵だね。良い広告になっているわ」


 エスリンはそう感想を言って、アキに広告を返す。


「では、私は訓練を再会するわ」

「はい、がんばってください」


 アキは広告を返してもらうと、教会の中に入る。


 中に入ると、教会の修道女達がチャリティー音楽のイベントの為に、飾り付けなどをしておりその中にフィオナもいた。


 アキは彼女に近づくと、完成した広告の原案を見せる。


「思った通り、アキの可愛い動物の絵のお陰で、温かみのあるすごく良い広告になりましたね。フフフ、さっそくこれをナタリーに見せて、私のほうが正しかったことを解らせますよ~」


 フィオナはウキウキで広告の原案を持って、ナタリーと呼ばれる飾り付けの指示を出している女性の元に向かう。


 フィオナはナタリーに、原案を渡すとドヤ顔でこう言った。


「どうですか、ナタリー! 私の言った通り可愛い絵のある方が、温かみのある見た人が来たくなるような広告になったでしょう?」


 ナタリーはその原案を見ると辛辣な言葉を、ドヤ顔のフィオナに投げかけていく。


「確かに、華やいだ感じにはなりましたね。絵の分だけ印刷のコストは上がりますけど」

「はぅ」


「その上がったコスト分を少しでも、チャリティーに回せばいいのにと思いますけど」

「はぅ」


「あと、この広告が良くなったのは、絵を書いた人物の手柄であって、フィオナ様の手柄ではないですけどね」


「はぅぅ」


(フィオナ様、レスバ弱いな……)


 アキはそう思いながらその様子を見ていた。


「ですが、この良くなった広告で、その分来場者が増えれば元は十分取れるでしょう」


 最後にナタリーはそう言ってこの広告を認める。

 その瞬間、フィオナの表情はパッと晴れてアキの所に笑顔で戻ってきた。


「アキ~! やりましたよ。アナタのお陰でナタリーを言い負かすことができました」


「別に私はフィオナ様に、言い負かされていませんよ。ただ、良い広告だと認めただけです」


 ナタリーが、そう言いながらフィオナの後ろから近寄ってくる。


「アナタがこの絵を描いた子かしら?」


 アキにそう質問してきた、ナタリー・エヴァンスは几帳面で合理的な性格の持ち主で、仕事も出来てミスも少ないスマートな人物であり、彼女のお陰でこの教会が運営できていると言っても過言では無い。


 少し冷たい印象を受けるような人物ではある。

 だが、アキは初対面だが彼女から自分と同じ匂いを感じた。


 そう、貴腐人の匂いを……。

 そして、それはナタリーの方も感じたようであった。

 二人は少しの間沈黙した後に、アキは自己紹介をおこなう。


「はい。アキ・ヤマカワといいます」


「私はナタリー・エヴァンス。フィオナ様の補佐をして、この教会の運営を手伝っているものです」


 この出会いが、アキのBL漫画家への扉を開くことになる。

 その日からアキは家事の合間を縫って、BL漫画を書き始める事になった。

 その為、完成までに1ヶ月を有してしまう。


 アキは当初は自分だけの楽しみと思っていたが、そこは創作家の性でやはり人に作品を見せたくなってくる。


 そこで、彼女は同じ匂いのしたナタリーに思い切って見せようかと迷う。

 何日か悩んでいると、彼女の夢の中にBLの神様(?)が現れこう告げる。


「Let it be.(なすがままに)」


 その神が何だったのかはわからない、彼女が夢の中で作り出した幻想だったのかも知れない。だが、彼女は背中を押されたような気がした。


 彼女は翌日の昼休みに、ナタリーに会いに行く。


「これを私に?」

「はい……」


 ナタリーは原稿を少し見ると、彼女を自分の仕事部屋に案内し、そこで原稿を最後まで読んだ。


「…………。アキさん。どうして、これを私に見せたのかしら?」


 漫画を読んだナタリーが冷静な表情で彼女に質問してくる。


(私の勘が外れた?! この人は同輩ではなかった……)


 アキが自分の勘が外れたと思い顔面蒼白でこう答えた。


「エヴァンスさんと始めて会った時、私と同じ趣味をお持ちなのではないかと思いまして……。すみませんでした、変なものを見せてしまって!!」


 アキはナタリーから原稿を取って帰ろうとすると、彼女はこう答える。


「そう、やはりアナタも感じ取っていたのね、私から同じ匂いを……。今から、アナタの事アキって呼んでいいかしら? 私のことはナタリーでいいわ」


「はい、ナタリーさん!」


 二人はこの後、時を忘れてBL談義に花を咲かせた。


「素晴らしいわ、この作品。特にこのカイト君のセリフがキュンキュンして……」


 そこで部屋の時計が、昼休みの終わりを告げる音を鳴らす。


「残念だけど、BL談義はここまでね」

「また、明日来てもいいですか?」

「ええ、良いわよ。また明日いらっしゃい」


 アキはこの世界で初めての同士を得た。


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