第8話 糸口
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会話がない。そういえばループしていた時も、基本的に俺が話しかけていたか。いや、一回だけ、
(時の神クロ)
やめよう、それは思い出さなくいていい記憶だ。
「ご馳走さま、先行ってるから」
いつのまにか、亜美は食事を終えていた。
「ああ、行ってらっしゃい」
亜美が家を出て行った。
「ご馳走さま」
食器を洗い、準備をして、俺も家を出た。
結界の突破の糸口は、まだ何も見えていない。
「はよーいて!」
「おう、今日もいい天気だな、おはよう」
「!?なんで!なんでわかるの!?すごいよ!望も、流行の最先端を走っているんだね。」
なんだか懐かしかった。
「おう、そうだぞ、俺だって、たまには走るんだ」
「じゃあ、学校まで競争だ!」
「え?いや、流行の最先端を走ってるってことであって、」
「いくよー!私に勝ったらなんでもいうこと聞いてあげる!」
「なに!?」
これは勝つしかない、勝たなければならない、絶対に負けられない戦いだ!
どれだけ苦しくても、どれだけ壁が高くても、叶えたい夢を胸に抱いて、乗り越えていくしか、道はないんだ!
「いくよー、よーい、どん!」
「うおおおおおお!!!」
走った、走った、今までで一番早かったと思う。学校まではまだ距離がある、だが、最初からほぼ全力で走った。だってそうしないと。
置いてかれるから。
「おおー!私に付いてくるなんてやるねー!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
俺はほぼ全力を出して走っているのに、隣で走っている蓮は、微塵も疲れた様子がない。
「どこまで付いてこれるかなー?」
蓮が一気にペースを上げた。それは俺の全力疾走くらいだった。だが、
男には、負けられない戦いがあるんだー!!!!!
「うおおおおおおおお!!!!!」
「おー!がんばれー!望ー!!」
俺の隣には、俺を応援してくれている蓮だっているんだ。負けられない!!
「がんばれ!がんばれ!」
・・・あれ?おれ、もう限界なんだが、蓮は微塵も疲れた様子はない。いや、分かっていた、分かっていたさ、勝てないことくらい。
俺は、立ち止った。
「はあ、はあ、はあ、はあ、」
息が上がって、苦しかった。
「大丈夫?まだまだ学校は遠いよ?」
蓮が戻って来ていた。汗一つ書いてなければ、息も上がっていない。
蓮は昔から走ることが好きだった。いつも走ろうと言っていた。周りの子がお人形遊びしている中、ずーっと走り回っていた。
「蓮、はぁ、早、すぎ、はぁ、はぁ、」
「ええ?まだまだペースアップ出来たよー?私の全力はまだまだだよ!」
やはり、蓮に足の速さで挑むのは無謀だったか。
「じゃあ、ゆっくりでいいから走っていこ!」
「いや、もう、無理、」
「え?・・・走って、くれないの?」
くっ、そんなこと言われたら、
「走るしかねぇだろー!」
「やったー!ありがと、望!」
「はあ、疲れた、朝からなんでこんなに疲れるんだ」
俺、学校に来るたびよく同じようなこと言ってないか?
俺は机に突っ伏していた。
「望、聞いて欲しいことがあるんだが、大丈夫か?大丈夫だな、よし、あのな」
朝から全力疾走はマジで疲れた。
「いつも通り放課後、学校の屋上から妹の走ってる姿を望遠鏡で覗いていたんだがな?」
受け答えする体力も残っていなかった。
「妹の部活動が終わって、今日も輝いていたと感慨にふけっていたんだが、なにか、街の方から音が聞こえた気がしてな、少し望遠鏡で覗いて見たんだ、そしたら、変な所を見てしまってな」
疲れた、もう蓮に迂闊に走ってるなんていうのはやめよう。
「トラックが、何かに全速力でぶつかったように凹んでて、ガラスが飛び散ってて、その前に女性が立っていたんだ。そして、その女性の後ろには子供がいた。まるで子供をトラックから守った女性の図といった感じだった。」
・・・ん?
「そしてもう一つ、誰もそのことを気にしていた人間がいなかったんだ。その周りの人間は、普通に歩いていた。何事もなかったかのように。普通なら写真でもとる人間や、立ち止まる人がいても良さそうなのだが」
まて、まてよ、
「おい隆!そのことを詳しく教えてくれ!」
もしかしたら、何か解決の糸口が、そこにあるかもしれない。
「うお!?どうしたいきなり?」
「いいから、その時のこと詳しく教えてくれ!」
「詳しくって言っても、今のでだいたい全てなんだがな、そうだな、昨日は、陸上部が終わったのが、確か17時40分から50分の間くらいだったか、確かそのくらいの時間に、場所は、確か片道交差点だったか?言えることなんてこんなものだぞ」
17時40分から50分、片道交差点
「ありがとう!」
解決の糸口が見えて来たかもしれない。
もちろん、これで解決なんてうまくはいかないだろうが、少しは進める気がする。
「しかし、前から疑問に思っていたんだが、なぜ片道交差点なのだ?普通に道路が片方でも、一方通行でもないのに、紛らわしい名前じゃないか?」
「ああ、なんか聞いたことある気がするぞ、それ、確か」
希望が、見えて来た気がした。