第5話 考察
「よし、まずは思い出せ、相手がどんなやつなのか、情報を、少しでも。」
まずはあいつが現れる時間だ。前までは、漠然と夕方ごろと考えていたが、前回、17時59分で、パソコンが止まり、人も見当たらなくなっていた。そして、あいつが来たのは1分後くらいだろう。毎回同じ時間に来ているかはわからないが、今は18時と考えよう。
あの刃物が浮いているのはなんだ。マジックか?錯覚か?いや、錯覚はありえない。実際に刺されているんだ。だが、・・・
いや、もう常識は捨てよう。
刃物が浮くはずがないとか、人がいなくなるのがありえないとか、そんなのはもういらない。
何回も死んでいる、そして戻っている俺が一番ありえないんだ。だから、ありえないなんてありえないと考えろ。
刃物は浮く、そして、動かしていた。俺を背後からさしたのは、刃物を操り背後からさしたんだろう。それを操っているのは、おそらく不審者。
そして、人がいなくなる。どうやってんのかとか、今はいい、ただ、効果だけは把握しておくべきだ。
人はいなくなる、パソコンが動かなかったから、電子機器も使えなくなる可能性がある。車は?自分が車に乗っていたらどうなるんだ?試す価値はあるかも。
このことから、誰かに頼ると言うのは無理だ。自分で戦うしかない。
相手は何人だ?俺が見たのは1人、だが、確定ではない。何人いても不思議ではない。
「そういえば、あの不審者、」
一度だけ、不審者の顔が見えたことがあった。その時、俺は刺されて苦しんでいたのに、そして、不審者は、俺を殺そうとしていたのに、無表情だった。
無表情、笑ってるでも、怒ってるでも、憎んでいるでも、何かに耐えているでもない、なんて事のない日常のようだった。
「ありえるのか?」
人を殺すのが、日常?俺を殺すのも、ためらった様子はなかったように思う。つまり、
「殺しなれている」
なぜ俺を狙う?どこにいこうと、必ず不審者が現れた。部屋でも、道でも、違う町でも。
「それは、」
わからない。暗殺者に狙われる心当たりなんかない。が、狙われているのは事実、何かをやらかしていたのかも。その何かは、わからない。なら今は置いておこう。
「他には、何か、」
不審者について、考えたが、多分これだけだろう。まとめると
・18時になると必ず現れる。どこにいようと。
・現れる場所は基本的に目の前。布団をかぶっていた時は、わからない。
・不審者は刃物を自由に操れる。
・不審者は瞬間移動ができる。
・不審者は人払いができる。
・不審者と戦う時、電子機器はおそらく使えない。
・不審者の人数は不明。1人以上。
・不審者は殺しなれている。
「どうすんだよ、これ、あ、俺の力?もおさらいしておくか」
俺は、死んだら、5月15日の朝に戻っている。
おそらく、記憶だけを持って。体も過去に行っていたら、傷だらけの死骸がベッドの上に転がってるはずだから。
「これだけか?もう少し考えるか」
ゲーム的に考えると、寝た時にセーブされて、死んだらリセット、ロードして朝からってことになるんだが、確定ではないな。
「可能性を考えてみるか」
まず、死んだら朝になる、これが正しいのか。もしこれが、"不審者に殺される"ことがトリガーになっていたら、不審者が、相手を追い詰めるために、戻していただけで、俺の能力じゃない可能性。
「そうだったら、今死んだらそれまでなのか」
もちろん、そんなことする目的があるかは不明だ、何かを吐かせようとしているんだとしても、自慢じゃないが、こんな回りくどいことしなくても、刃物で脅されれば1発で吐く自信はあるぞ。・・・自慢じゃないな。
だから違うと仮定しよう。
そして、朝になるではなく時間が戻ると言う可能性。
例えば、18時に殺されて、12時間時間が戻ったとすれば、朝の6時になる。その時間は俺は寝てて、朝6時半になり目覚ましで意識が戻る。それで、朝に戻ったと勘違いをしているとか。
14日は、いつ寝た?22時時くらいだったか?
それなら、18時に死んで、20時間戻ったら22時、つまり、11時間30分から、20時間の間で、時間が巻き戻っている可能性も考えられる。
「こんなこと考えてて意味があるのか?」
いやある、朝に戻るだった場合、それ以上過去には戻れないが、時間だった場合は、過去に戻れる。
「戻って何をする?」
対策を、と、考えたが、戻ってやることは今はない。もう少し情報がないと、戻ってもあまり意味はないだろう。そして、死にたくない、
自殺は難しい。首を切ろうにも少しでも躊躇えば、生き残ってしまうかもしれない。というより、躊躇わずに首を切るなんて無理。生き残ったら地獄だろう。そうなったら、心を病むだろう。首吊りとかも、苦しいだろう。飛び降り自殺も、怖い。だからまだ、自殺は無しで考えよう。
「まて、死んだら戻るって言うのは、勝手な思い込みかもしれない。」
いま、過去に戻りたいと願えば、戻れるかもしれない。
「試すか、俺を、昨日の朝まで戻せ」
・・・戻せじゃなく、戻れにするか、
「時よ、昨日の朝まで戻れ」
・・・もっと大仰にしてみるか、
「世界よ!我が運命を変えるため、昨日まで、時の歩みを戻したまえ!」
・・・時間の指定を細かくしてみるか、
「昨日の朝、6時45分0秒00まで戻れ!」
・・・もっと身振り手振りも加えるか
ガチャ
「時の神クロノスよ、我が力となりて、時を戻したまえ!」
・・・自分の名前を入れてみるか
「我は無限に続く時の流れに抗うもの、芦田望!流れる時を遡り、今こそ!我が身、我が魂魄を、過去へと」
「何やってんの?」
その瞬間、俺の動きは止まった。手を大仰に広げながら、固まった。そして錆び付いた機械を動かすかのように、顔を扉に向ければ、
まるで、痛いものを見るように、いや、かわいそうなものを見る目で亜美が俺を見ていた。
「・・・」
空気が凍っていた。俺の体も、凍りついてた。
「飯できてるから、」
「・・・」
「時の神クロノス、時の流れに逆らうもの、芦田望・・・フッ」
バタン
「・・・う、うぁ、ウァーーーーワーー!!!!」
やらかした、やらかした!恥ずかしい!なんだよ、俺、絶対厨二病だと思われたよ!!!!かわいそうなやつを見る目で見られたよ!どうせ朝の死んだとかも厨二病だって思われたよ!やばい!やばすぎる、恥ずかしすぎる。
俺はベッドの上をゴロゴロゴロゴロ転がり続けた。