第4話 目標
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「だめだだめだだめだだめだだめだ、どこにいてもだめなんだ、何をしても殺されるんだ、俺はずっと死に続けるしかないんだ、この永遠に続くループで、永遠に、はっははは、アハハハハハハハハハ!!!、」
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「なんで、なんで俺が殺されるんだ、俺が何したっていうんだ、なんだよ、なんなんだよ、」
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「なんで戻ってくるんだよ、死んだら終わりじゃないのかよ、永遠に死に続けろってか、」
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「うるさい!」
「なんでなんだ、なんなんだよ、おかしいだろ、おかしいだろうが、」
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「早く止めろ!」
妹の声も、目覚まし時計の声も、何もかもが聞こえてなかった。
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「だいたい・・・なんで・・・だから・・・おかしい・・・」
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
バン!
扉を勢いよく開けて、妹が入って来た。
そして、目覚まし時計を止めた。
「起きてるなら早く止め・・・ど、どうしたの?何があったの?」
「俺が・・・なんで・・・」
だが、俺は何も聞こえていなかった、
「ねえ、聞こえてる?ねえったら」
体を揺さぶられ、初めて、亜美が部屋にいることに気づいた。
「あ?・・・うるさい、ほっといてくれ」
「そんな様子で、ほっとけるわけないでしょ、何があったの?話すだけで、楽になることはあるよ?」
「お前には関係ないだろ、ほっといてくれよ」
自分でも、ひどいことを言ってると思う。でも、おさえられなかった。
「・・・今のあんたを、ほっとけるわけないでしょ、昔の、私を見てるみたいで、」
後半、声が小さくて、うまく聞こえなかった。
「だから、早く言いなさい」
誰かに、ぶちまけたかった。最近、ようやくわかった、俺はこんなにも心が弱いんだなと。
「・・・・・・・・・殺された」
「え?」
「殺されたんだよ、何度も、何度も、何度も!何度も!殺された、痛かった、苦しかった、怖かった!どこに行こうと、何をしようと、必ず、殺されたんだ!」
「・・・それは、」
「どうせ、俺の頭がおかしくなったとか思ったんだろ!アァ!そうだよ!おかしくなったよ、おかしいよ!何なんだよこれは!どうなったんだよ!何で俺が死ななくちゃ何ないんだ!」
「・・・まさか・・・あれ、ちがう?」
「お前にわかるか!わかるわけないよな!死ぬ恐怖を、腹を刺された痛みを、逃げられない絶望を!お前にわかるわけないだろ!」
八つ当たりだった。自分でも、自分がいやな奴だと思う、けど、もう、限界なんだ、心が耐えられないんだ。
「・・・ええ、わからない、わからない、わかりたくもない」
けど、亜美は、
「・・・あ?」
「けど、ひとつだけわかることがある、それは、あんたが逃げてるだけってこと」
「ああ!?」
「ただ目の前のことから逃げ続けて、抗いも、戦いもしないで、最初から無理だと決めつけて!ただ逃げてるだけ!」
「お前に何がわかる!」
「わからないって言ってるでしょ!立ち向かわないあんたのことなんか!」
「・・・」
「そんなことじゃ、自分が守りたいものも、自分が叶えたい夢も!自分の大切な人も!!何もかもが、てからこぼれ落ちていくだけだ!」
俺を叱りつけ、
「どれだけ苦しくても、どれだけ壁が高くても、大切な人、守りたい人を思い描き、叶えたい夢を胸に抱いて、乗り越えていくしか、道はないんだ!」
俺を諭し、
「今のアンタは逃げてるだけ、立ち向かい、戦うことをしないアンタに、未来はないわ」
道を、示してくれた。
「逃げてる、だけ、か」
「・・・まぁ、教官の受け売りだけど」
「え?」
「あ、コホン、なんでもない、じゃ、朝食準備してくるから、」
そう言って、妹は部屋から出て言った。
「逃げてるだけ、か、」
たしかに、そうだった。俺は恐怖で、トラウマで、視界が狭まっていた。立ち向かっていなかった。
「そうだよ、そうだよ、相手は人間だ、刃物を浮かせたり、瞬間移動するけど、人間なんだ、なら、怖がってどうする、亜美にあれだけ言われて、俺が立ち上がらなくてどうする!」
俺は決意した。
「戦う、戦うぞ、俺は抗う」
そのために、目標を決めよう。
なんでもいい、自分に語りかける。
俺の芯になる思いを、1つ、胸に抱こう。また心が折れるかもしれない。だが、折れても、転んでも、倒れても、その一つを思い、立ち上がれるように。
明るくても暗くても、希望でも殺意でも、なんでもいい。
自分をみつめなおせ、探し出せ!
妹への感謝、不審者への殺意、両親の言葉、不審者への恐怖、蓮との挨拶、不審者への怒り、隆との馬鹿騒ぎ、平和な日常、不審者への恨み、絶望、希望、喜び、悲しみ、
様々な思い、感情が浮かんでは消えていく。
そして、最後に残ったのは、
(ぼくは、明日が、見たかったなぁ)
(ごめん僕のせいで、ごめん、うぁあっ、うわぁああぁぁ)
(じゃあ、こう、しよう、望は、僕の代わりに、明日を、見るんだ、ぼくの分まで、生きて、明日を、見て)
(わかった、わかったよ、忘れない、忘れないから、僕が、明日を見続けるよ、だから、だから)
「・・・あ、」
忘れていた、今の今まで、忘れていた。
「忘れていた、そうだった、すまない、悠理」
そうだ、約束したんだ、俺は明日を見るって、
「明日、か、」
そうだな、それがいい、しっくりくる。
これは、俺1人だけの願いじゃない。悠理に託された、思いでもあるんだ。だから、もう、忘れない。
「俺は、明日を、希望」