第3話 ループ
学校からの帰り道を、俺は歩いていた。
ただし、夢とは違う道を2人で歩いていた。
「俺は、大人数でと言ったはずだが?」
「おいおい、俺にそんなにも友達がいると思ってるのか?」
「友達じゃなくてもいいだろうに」
「バカヤロウ!友達じゃないやつをどうやって誘うんだ!不可能だろ!」
「大丈夫、お前なら、できる!・・・あと3年、いや5年、10年、50年・・・来世ではな!」
「俺には一生できないってか!?あーそうだよ!」
たわいもない会話をしていた。
「しかし、今日の妹も輝いていたな。」
「お前ホントそれやめたほうがいいぞ、いつか捕まるぞ、と言うより警察行くぞ」
「俺が警察に捕まったら、妹が悲しんでしまうじゃないか!おれは、妹に悲しい思いをさせたくないんだ!」
「なら行動改めろや!それに、多分、蓮なら気にしないだろ?「兄貴捕まったの?よし、走ろう!」てな」
「ぐっ、否定、出来ない、だと!?」
「よーしなら警察に寄ってくぞー、ほら、確かあっちに警察署があっただ・・・え?」
いつのまにか、隆がいなくなっていた。
「え?なん、で?」
時刻は夕暮れ。
「う、ウソだろ、ドッキリだろ、」
周りに人はいない。
「隆!どこ行ったんだ!隆!」
そう、一人たりともいなかった、
「なんで、だれもいねぇんだよ、ありえないだろ!夕方だぞ、交差点だぞ!なんで見渡す限りにねぇんだよー!!!!!」
いつもなら車がうるさいくらい走っていて、人通りもそれなりにあるはずなのに。
「あ、ああ、」
いつのまにか目の前に人がいた。
黒いフードをかぶっていて、全身黒ずくめのいかにも不審者といった格好をしていた。誰が見ても不審者という感じの者は目の前にいた。
そう、目の前に、
恐怖でおれは、後ろに倒れた。
シュッ!
何かがおれの頭の上を、後ろから通り過ぎて行った。
刃物だった。
(にっ逃げなきゃ!)
だけど、腰が抜けて動かない、体がおもうように動かない。
そして、その刃物が、方向転換して、俺のお腹に刺さった。
「あ、ああ、アガァアアアアアアアアーーー!!!!」
痛い、痛い、痛い、
夢と同じだった。回避できなかった。恐怖で体が動かなかった。
そして、おれの目に移ったのは、無表情の男の顔と、浮いている、刃物だった。
その刃物は、俺の、首を、
ザクッ
俺は、死んだ。
「これで・・・!?何が――――」
世界は光に包まれた。
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「ハァッッ、な、あ、はぁ、はぁ、っくっ、」
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
ベットの上だった、おれの部屋だった。
「またっ、また、殺された、また、うっ、くぁっ、はあ、はあ、」
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
違う、違う、夢じゃない、夢なんかじゃない、俺は、確かに殺された、殺されて、巻き戻ったんだ。
多分また、5月15日だ。
「なんで、どうして、」
まだ1回目の時は、夢だと思った。悪い夢だと、こんなことが起こるはずがないと、俺が死ぬはずがないと。そう思い込み、なんとか崩れそうになる精神の均衡を保っていた。
1回目で終わったなら、あそこで何もなかったら、まだ俺は日常に帰れただろう。いつかは記憶が風化して、ああ、そんなこともあったなと、笑い話にできる日が来ていたと思う。
だが、2回目で、心が折れた。恐怖に支配された。
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「うるさい!」
隣の部屋から妹の怒鳴り声が聞こえた。
「・・・あ、そうか」
チリリリリリリン!チリリリガチャン
音が、止んだ。
「はぁ、落ち着け、落ち着け、現状を確認しよう。」
体の震えが止まらない、けど、何か考えてないと、怖かった、何が怖いとかじゃなく、ただただ怖かった。
まずもうこれはループだ。死んだら朝まで巻き戻るループだ。そう確信した。
そして、あの不審者は、俺を狙ってきている。周りに人がたくさんいるところであろうと、夕方になると俺の周りから人がいなくなる。
隆は俺を置いて無断でどこかに行くやつじゃない。なら、俺の周りから消えたのか、俺が消えたのかだ。
「どうする?どうすればいい?」
人を頼ろうにもダメだ、夕方になると俺しかいなくなる、周りに誰がいようよ無駄だろう。
道を変えてもダメだった。もしかしたら、学校を出るときにはもう見つかっていたのかもしれない。なら、
学校に行かなければいい、
「逃げよう、死にたくない、死にたくない」
怖かった、死ぬのが怖かった、死ぬことがこんなに怖いなんて死んでから初めてはわかった。
「街を出よう、にげる、にげるんだ!嫌だ、死にたくない!」
何も考えずに家を飛び出し、自転車をただただ漕いでいた。亜美に心配かけてるだろうとか、学校に連絡してないとか、そんなことが頭をよぎることもなかった。
ただただ街を出て、逃げて逃げて逃げて、死にたくなかった。完全に、死がトラウマになっていた。
「はあ、はあ、」
自分でもどこにそんな体力があるんだってほどに逃げた。ただ、もう体力の限界であった。それを無視して漕ぎ続けていたが、
「あっ、ガッ、いっつぅ、はぁ、はぁ、」
転んだ。盛大に転んだ。もう、起き上がる体力もなかった。
どれくらい倒れていただろう。体力は戻っていた。けれど起き上がる気力がなかった。
(何やってんだろうな)
今更ながらにそう思う。少し冷静になって来て、自分のしたことに驚いていた。
俺は学校をサボり、家出をした、不良少年にいつの間にかなっていた。
そしてこれからどうするかとか、逃げ切れても今後の生活ができないとか、帰ったら怒られるのかな、とか、先の心配をする余裕が出て来た。
いや、違う。街を離れて、安心したんだ。
根拠のない安心だ、だけど、これだけ離れたなら、もう大丈夫と思っていた。もう、死なないだろうと。
だが、死は、どこまでも俺を追いかけて来た。
時刻は夕暮れ。
「お腹すいたな、」
周りに人はいない。
「そういえば、今日まだ何も食ってないんだったな」
そう、一人たりともいなかった、
「あれ、夕方、だ、ぁ」
体が震えだした。場所は違えど、状況は似ている。車がない、人がいない、音がしない。
「・・・おい、やめろよ、冗談だろ、おい、なんなんだよ、なんで追いかけて来てんだよ!ふざけるな!俺が何したってんだ!ちきしょう!」
いつのまにか目の前に人がいた。
黒いフードをかぶっていて、全身黒ずくめのいかにも不審者といった格好をしていた。誰が見ても不審者という感じの者は目の前にいた。
そう、目の前に、
「あ、ヒィッ」
腰が抜けた、トラウマだった。怖くて怖くて仕方がなかった。刃物が通り過ぎたのを気にもしないで。
「い、嫌だ、死にたくない、死にたくない、嫌だ、嫌だー!!!!」
俺は駆け出した。誰かに助けて欲しくて、無意識のうちに、コンビニに向かって走っていた。何か考えがあったわけじゃない、ただ、頭のどこかでは、コンビニには人がいるということがわかっていたのだろう。巻き込むとか、頭によぎることすらなかった。ただ死にたくない、死にたくない、それだけが頭を占めていた。
そして、奇跡が起こった。
一日中自転車を漕いでいたために、足が疲れていて、まともに走れなかった。ふらつき、転びながら走っていて、それがたまたま刃物をかわしていた。
奇跡だった。だが、奇跡は長くは続かない。いや、続く必要がなくなった。コンビニにたどり着いた。たどり着いたんだ。だが、
「あ、なんで、なんで開かないんだよ!開けよ!おい、24時間営業だろ!閉めるなよ!開けろ!開けろよ!あけ、」
扉は開かなかった。中に人もいなかった。そして
「あ、ああ、アガァアアアアアアアアーーー!!!!」
痛い、痛い、痛い、
痛みになれるなんてことは一切なかった。激痛だった。
そして、浮いた刃物が、俺の首を
ザクッ
俺は、死んだ。
「これで・・・!?何が――――」
世界は光に包まれた。
チリリリリリリン!チリリリリリリン!
「ハァッ・・・だめだダメだ、ダメだダメだだめだ、どこに逃げても、追いかけてくる、いやだ、死にたくない。」
チリリリリリリン!チリリリリガチャ
目覚まし時計を止めた。
外は怖かった。もう、外で安心できる場所がなかった。だから、自分のテリトリーの部屋から出られなかった。
怖くて、外が怖くて、ただただ震えていた。
コンコン
「!?」
誰かがノックをした、それがあの不審者かもと思い、体がこわばった。
「飯できてるから」
妹だった。一気に体の力が抜けた。
「ああ、」
「早く降りて来て」
そう言って、足音が遠ざかっていった。
「っまって!」
「?なに」
1人になるのが怖かった。だからとっさに止めてしまった。
「いや、えっと、ごめん、今日体調悪いんだ、だから学校休む」
「え?大丈夫?へや、入るから」
「だめだ!」
とっさに、止めてしまった、今の俺を見られたくなかった。それは兄として、弱ってるところを見せたくなかったのか、それとも恥ずかしかったのか、なんなのかはわからない。
「・・・そう、じゃ、学校に連絡しとく。お腹空いたら降りて来て食べて。」
「ああ、」
「じゃ」
そう言って、妹は去っていった。
時間ができた俺は、ネットで色々調べて見た。
だが、有益な情報なんてなにもなかった。
そして、時間だけが過ぎていった。
だんだんと、夕方に近くなるにつれて、また恐怖が蘇って来た。
そして、時刻は夕暮れ。
「え?」
パソコンが、動かなくなった、
「フリーズか?」
時計を見たら、17時59分だった。そして、時計まとまっていた。
「っあ、」
いやな予感がした、とっさにカーテンを開けて、周りを見て見た。そこには、車も、人も、何も見えなかった。すぐにカーテンを閉め、ベッドに潜り込んだ。
いやだ、いやだ、何かの冗談だ、俺は部屋にいるから大丈夫なんだ。ベッドの中にいるから、きっと大丈夫だと。
いつのまにか、部屋の中に、人がいるような気がした。
(気のせいだ、気のせいだ、考え過ぎた、そんなはずない!)
ガタガタと、俺はベッドで震えていた。何も起きないでと、必死で祈りながら。
そして、
ザクッ
俺は、刺された。
「あ、ああ、アガァアアアアアアアアーーー!!!!」
痛い、痛い、痛い、
ベッドの中で、痛みに悶えていた。
「なんで、なんで!なんでずぐにごろざないんだ!!なんで嬲りごろずんだよ!ごろぜ、ばやぐごろぜよ!!!!!」
そこの言葉を聞いたからかはわからないが、その後すぐに、
ザクッ
俺は、死んだ。
「これで・・・!?何が――――」
世界は光に包まれた。