第2話 対策
「・・・まて、落ち着け、落ち着け、現状を確認しろ」
痛みはない、お腹も見て見たが傷もない。首も繋がっている。
「ここは、」
俺の部屋だ、いつも寝ているベットの上で、今起きた。さっきまで目覚ましがなっていた。
「朝?」
朝だ。目覚まし時計は6時30分を指している。
俺がいつも起きている時間だ。つまり
「夢?いやいや、ありえないって」
確かに刺された。その感覚を覚えている。こんなにはっきりとした夢があるはずがない、けど、
「刺されたのに寝ただけで回復してて、服も穴が塞がって、家で寝てる方がありえないよな」
つまり、今まで見ていたものは
「夢だったのか。え、いつからだ?」
俺は寝ていた、つまり家に帰って寝たはず、なのに家に帰った記憶がない。
まて、今何日だ?スマホを確認する。
「5月15日」
?5月16日じゃない?昨日が5月15日のはず、スマホが壊れたか?いや、まて、あれが全部夢?
「つまり俺は朝起きて、学校行って帰りに刺されたっていう夢を見ていたのか?」
あれが全部夢?そんなこと本当にあり得るのか?
だがもし夢じゃないのだとしたら、時間が巻き戻ったくらいしか考えられないぞ。あとは幻覚を見ていた?
「それこそまさかだよな」
ならなんだ?どうなってるんだ?
「やめだやめ、考えても分からん。今生きてるんだからいいや、あとで隆にでも話すか。ネタにしよう」
と、精一杯強がって、現実から目をそらしたかった。
「あ、おはよ」
「おはよう」
リビングに行くと眠そうで、不機嫌そうな亜美がいた。
「うるさくしてごめんな、すぐ朝食用意するから」
「うん、手伝う」
「ありがと、じゃあパン焼いてくれ」
「うん」
俺は亜美と朝食を用意した。
亜美は眠たいと口数が少ない。
「「いただきます」」
・・・・・・・・・・
「なあ、亜美」
「なに」
何か聞きたいことがあったわけじゃなかった。ただ何か話していないと、ずっと考え込んでいそうで、沈んでいきそうで、自分が死んだことがずっと頭の中から離れなくて、なんとなく、口から、
「死んだことってあるか?」
というわけのわからない質問が、ぽろっと出た。
「!?な、なんで、」
?亜美はなぜそこまで反応したんだ?よく分からなかった。
「どうしたんだ?」
「なんでそんな事を聞くの?・・・まさか」
「?ああ、いや、今朝変な夢を見てな、」
「え、夢?」
「ああ、夢で殺されてな、うん、てか何馬鹿なこと聞いてんだろうな、死んでたらここにいないか。」
「・・・ふぅ、バカね」
「悪かったな」
「?あうん、あんたバカね」
「二回も言わなくていいだろ!」
「ご馳走さま。先行ってるから」
「おう、行ってらっしゃい」
亜美は俺よりも先に家を出る。部活はやってないはずだし、なにしてるんだろうな。男かな?
「ご馳走さま」
俺は食器を洗って、準備して、家を出た。
「はよーいて!」
「おはよって、あれ?蓮部活の朝練どうした?」
「今日は休みだよ?」
「あれ?あ、そうか、今日15日か」
「寝ぼけてるの?そんな時は元気に挨拶!はよーいて!」
「そうだな、おはよ」
蓮が元気に挨拶をしてきた。
蓮は俺を何か期待した眼差しで見てくる。
「?どうしたの?今日元気ない?」
「そうか?」
「そうだよ!いつもだったら、「なんだはよーいてって」って聞いてくるのに」
「いや、それは昨日聞いただろ」
「なに行ってるの!昨日はおざい!だったでしょ!間違えないでよ!私はいつでも新しい女なんだから!」
ああ、そうか、夢だったのか、全然実感がわかないせいで、勘違いしていた。
「あのねあのね、はよーいてっていうのはね、」
「おはよう、いいてんきね、の略合だろ」
「!?なんで!なんで知ってるの!昨日夜私が必死に頑張って10秒かけて考えた挨拶なのに!」
「随分短いな!」
夢のまんまだ。俺が別の答え方をしているせいで、少し違ってるけど、同じ答え方をしていたら、夢の通りになっていたんじゃないのか?正夢なのか?
「夢か、」
「?夢?何が?」
「ああ、いや、今日変な夢見てな、蓮と、はよーいてについて語り合いながら登校してたんだ、正夢だったのか?」
「えっ!?すごいよ!夢の私も流行の最先端を走っていたんだね!今なら私と、夢の私と望の3人で流行駅伝ができるよ!最先端を走る私達なら誰にも負けないね!」
「待て待て!リアクションおかしくないか!?しかもなんだよ流行駅伝って!つ、てか駅伝で3人って少なくないか?ってゆうか、なんで夢のお前も人数に入ってんだよ。もう目が覚めてるからいないよ!消えてるよ!」
「すごーい、全部ツッコミしてる。望はやっぱり流行駅伝よりツッコミ駅伝に出た方がいいんじゃない?」
「なんだよツッコミ駅伝って!そんなのでないよ!」
「やっぱり私と流行駅伝に出てくれるんだね!ありがとう。2人で共に走り切ろう!」
「なぜだー!」
望はツッコミを放棄した。
こんな、いつも通りの平和が、俺の心を癒してくれた。
「はあ、疲れた、朝からなんでこんなに疲れるんだ」
教室に入って席に着くと隆がよってきた。
「望、聞いて欲しいことがあるんだが、大丈夫か?大丈夫だな、よし、あのな」
「ちょっと待て!なんも答えてないだろ!」
「いや、疲れてそうだったからお前の返事を省いてやったんだよ、感謝しろよ?でな」
「そこを省くな!余計な気遣いだ!」
「昨日のことなんだけどな、」
「はあ、放課後に屋上で望遠鏡使って妹覗いてたら町でトラックが潰れてて、女が、トラックから子供を守っていたように見えて、でも誰もそれを気にしてなかった、か?」
「・・・なぜそれを知っている」
「なあ、俺も聞いて欲しいことがあるんだ、実は、俺正夢を見て」
「なぜ俺が放課後妹をのぞいていることをしっているんだ!」
「そっちー!?違くね?やっぱりお前達兄妹の反応違くね!?」
「まさか、お前も蓮を覗こうとして、屋上に来たら俺が先に陣取っていたということか!」
「なんでそうなんだよ!」
「残念だったな!天文学部の部長は俺だ!お前の入部など認めん!つまり屋上も、望遠鏡もお前が使うことはありえない!」
「ああ、ありえないよ!使うわけないだろ!なんで俺が望遠鏡で蓮を覗くんだよ!」
「お前は蓮を、望遠鏡で覗く価値もないと言いたいのか!」
「それなんか違くねぇか!?」
なんかどっと疲れた。この兄妹との会話は疲れる。
だけど、救われた気分だ。
「で、お前が聞いて欲しいことはなんだ?」
・・・朝からずっと、嫌な予感がしていた。もしかしたら、また、夢みたいに、夕方になると、なんて。
怖かった。だから、明るく、ウソっぽく、ネタっぽく話した。
「・・・ああ、俺、正夢を見たっぽいんだよな。いや、正夢とは違うか?だけどそれっぽいものを見たんだ。」
「どういうことだ?」
「妙にリアルな夢でな、今日の朝起きてから夕方までをまるで本当に体験してるみたいだったよ。」
「ほう?」
「だからお前が話す内容とか、今日の授業内容とかぜーんぶわかってるんだよねー。」
「それは、すごいじゃないか。言ってしまえば一種の未来予知という事だからな。」
「ああ、今日の学校が終わるまでならなんでもわかるぜ!」
「じゃあ、今日の数学は、バッチリってわけだな?」
「・・・俺が一度やっただけで理解できるとでも思っているのか!」
「フッ」
「なんだその嘲笑は!俺はお前のような天才なシスコンじゃねぇんだよ!わかるか!」
「分からんな、ん?学校が終わったら目が覚めたのか?」
「・・・」
「ん?・・・聞いてはまずかったか?」
どうせ夢だ、夢だったんだ、笑いとばせばいい。
「いや、いやー、俺、学校の帰り道で殺されちゃってさー、刃物が背中から、刺さって、首、切ら、れて、ああ!でも、なんか刃物浮いてるように見えたんだよなー、やっぱ夢だな、刃物が浮くなんて、なんかアニメでも見過ぎたかな、はは」
「・・・穏やかじゃないな、大丈夫か?」
「なんだよ、所詮夢だよ夢、気にするだけ無駄だって」
「・・・大丈夫じゃないな」
長い付き合いになるから当然のように俺が気にしまくっていることに気づいた。気づいてくれた。
多分俺は誰かに話したかった。楽になりたかったんだと思う。
「よし、ならば対策だ、対策を練ろう。その時の状況を話せ。」
「別にいいって、大丈夫だから、なんとかなるって」
でも、なんか素直になれなかった。素直に助けてと言えなかった。
「何勘違いしてるんだ?お前のためではない、そういう対策を練るのが楽しいんじゃないか、いわゆる遊びだよ、だから話せ、俺の時間つぶしに付き合ってくれよ。」
こいつは、ほんと、俺にはもったいない友達だぜ。
「 ・・・しゃーねーなぁ!じゃ話してやるよ、・・・ありがとな」
「なんか言ったか?ほら、早く話せ話せ」
「わかったよ、まず、」
そして、俺はあの日あったことを話した。
「そうか、・・・とりあえず、対策を立てる、まず、望を狙った可能性とたまたまの可能性を考えるぞ、望が狙われたわけではないなら、帰り道を変えるか、時間をずらせば大丈夫だろう。」
「そうだな」
「だが、望を狙っていたのなら、そして組織だっての犯行なら、学校からつけられていて、工事中等の立札などで、通行を遮って、人がいない状況を作り、目の前の人間が注意を引き、もう一人が後ろから刃物で刺し、そして首に刃物を投げた。それをお前は、死ぬ間際の走馬灯で、あたかも刃物が浮いているように見えた。これで、一応の説明はつく、一応な」
「そうか、そんなこと考えもつかなかったな」
「色々と現実的に厳しくはあるがな、もしそうなら、大人数で大通りを帰ればおそらく大丈夫だろう、大通りなら封鎖にかなりの手間がかかる、そんなそぶりがあったのなら対処は可能だろう、そして大人数でなら、相手も迂闊に手出しはできない、騒ぎが大きくなりすぎるのと、仮に暗殺者なら、無関係の人間を殺しはしないだろう、だが、私怨等で、目が曇ってる奴なら、やりかねないが、人数が多ければそれだけ対処法も多くなる」
「そうか」
殺されたことが頭から離れてなくて、まともな対策を考えれなかった。話してよかった。
「と、今まで現実的に考えてきたわけだが」
「?」
「思いっきりファンタジーに考えてみよう!」
「え?」
「まず望は、自分が死ぬ日の未来を夢で見れる、予知夢の能力者だったのだー!」
「なんだってー!」
「そして自分の死ぬ未来を見た望は、なんとか回避しようと、知恵を巡らせるのだ!さあ、どうする!?」
「えっ?うーん逃げる!」
「そうだ!ならどうやって逃げる?相手はいきなり目の前に現れた、ワープの使い手だ!そして刃物を浮かせ、自由に操れるポルターガイスターだ!そして背中から差してきた正体不明の奴!さあ、この窮地、どう攻略する!」
「いやいやいや絶望的すぎないか!?無理だろ!」
「俺ならできる!」
「なんだと!?」
「まず窮地に陥ったら、都合よく力が覚醒するんだ!」
「おおー!どんなだ!?」
ん?前にもどこかで?気のせいか?
「透視能力と、千里眼だ!」
「ん?なんで?撃退できなくね?」
「妹を常に見ていられるからな。そうなればいかなる困難も乗り越えられる!」
「わーい、結局シスコンだー!」
「不可能はない!はーっはっはっはー!望!聞いてくれ!」
「なんだ?」
「妹のタイムがまた上がったんだ!」
「また妹自慢か、それ聞いたよ、夢でな」
「何を言う!夢の俺が、妹の魅力を語りきれたかなどわからないだろ!望が真に理解するまでは、俺が語り続ける責務があるのだ!」
「そんな責務捨てちまえ!」
「俺は前から思ってたんだ、妹は陸上界のスターだと」
「聞けや!」
この、バカみたいな会話が楽しかった。
そして、ついに、夕方が、やってきた。