第19話 整理
「お父さんは、覚醒者、なの?」
多分、いや、そうなのだろう。
「いいや、僕は一般人だよ」
なら、どこでそんな話を聞いたんだ。
「でも、神秘は秘匿されてるってお父さんが言ってたよ、なら、お父さんが知ってるのはおかしいよ」
お父さんは嘘をつく人ではない。嘘はつけない人だ。隠し事や、人に言えないことがあったら、嘘ではなく、言葉を濁すか、何も言わない。
だから一般人というのは嘘ではないのだろう。
だが、嘘ではないだけだ。
「うーん、僕はちょっと特異っていうか特殊なんだよね、いい、望、さっきの僕の話は絶対に誰にもしちゃダメだよ、お母さんにも、悠理にも、いや、悠理はいいのかな?いやダメだった、とにかく誰にも話しちゃダメだよ」
「もし話しちゃったらどうなるの?」
「・・・絶対に、話しちゃダメだよ」
お父さんは、その質問に答えてくれなかった。
俺は、部屋に戻ってきていた。
情報が、一気に入ってきすぎて、訳がわからなかった。勿論、お父さんが語ったことは単なる物語、創作の可能性がある。
だけど、もし、もしもそれが事実だった場合、いや、神話なんだから一部違う所くらいはあるだろう。だが、大部分が事実だったら、そう考えると辻褄が合いすぎる。
例えば、覚醒者が未覚醒者を殺す理由。それは勝手に死んで、能力が覚醒して、世間に誤魔化しが効かなくなり、神秘が漏れることがないよう、予め未覚醒者を殺し、覚醒させる。
いや、可能なのか?
俺が神託の天使に見つかったのはおそらく中学3年生の時、つまり生まれて14年は経っていた。
生まれたときから神力が一定だというのなら生まれてから14年間、俺は神託の天使に見つからなかったことになる。
これが早いのか遅いのかはわからないが、もし、それまでに事故死して、そこで力が目覚めたら、その力が、例えば大きな被害を起こすような力なら、誤魔化しなんて効くんだろうか?いや、記憶操作や、パソコンのハッキング能力とか持ってる能力者がいるかもしれないから、、可能なのか?
とりあえず、今は置いておこう。
俺が未覚醒者なのは、死んで覚醒したら時間が戻るため、また未覚醒の状態に戻っているということか?
覚醒している人間には3つの力がある。個性、認識阻害、いや隠蔽か、そして結界。
結界は個性の能力を通す。
そして、神託の天使というやつが、俺のことを突き止めるのが俺が中学3年生の5月15日の18時くらいで、空間の天使というやつが、あの人のいない異空間と言うものを作り、転移の天使というやつが、不審者を俺のもとに送り込んだ。
そう考えれば、あの謎の空間、そして不審者の発言は全て繋がる。
神託で呼び出されたからまだ一般人のはず、後か先かの違いしかない、神秘を漏らす、破滅者どもか?神秘が漏れれば最悪、世界が消える。
どれも辻褄が合う。
もし、その神話を信じた場合、不審者の能力は刃物、もしくは他のものも、自由に動かせる力。
そして結界と、認識阻害、いや隠蔽の力を持っていることになる。隠蔽はあの異空間だから使う必要がなく、使っていないと考えるのが自然か。
お父さんは一般人だ。だが、当然ただの一般人ではないのだろう。神秘を知る一般の協力者?いても不思議ではないか。
俺はここで、一つの仮説を思い浮かべた。
俺のお母さんが、覚醒者なんじゃないか?
理由はある。やっぱり8年間も容姿がほとんど変わりがないのはおかしい。勿論、たんに若作りが上手いだけかもしれないが、もしかしたら、若さを保つ能力なのかもしれない。
お父さんが神秘を知ったのは、お母さんが覚醒者だからなのでは?
もしお母さんが覚醒者ならば、事情を話せば味方になってくれるんじゃないか?
覚醒者の味方がいればとても心強い。たとえ能力が戦闘向きでなくても、俺の知らない情報を持っているかもしれない。
聞いてみるべきだな。
その時の俺は、お父さんの忠告の意味を、しっかりと理解できていなかった。
お母さんと、悠理が帰ってきた。
「みんなー!たこ焼き!佳奈さんがたこ焼き買ってくれたよー!早くこないと食べちゃうよー!」
悠理が、はしゃいでいる。たこ焼き、上手いもんな。
・・・たこ以外。
俺はたこが苦手だ。だが、たこを残すと怒られる。
どうすればいい!俺は、どうすればいいんだ!
たこ焼きのたこ以外、つまり焼きは本当にうまい。俺の大好物だ。だがそこにタコが入ってくることによって、一気にグレードダウンする。
別に食べられないわけじゃない。じゃないが、好き好んで食べたいとは思わない。タコがなければ毎日でも食べたいがな!
よし、今日はいいや。それよりも、まずお母さんと話をしないと。家で話すのは、悠理とかに聞かれるとまずいから、近くの公園で話そう。
「お母さん、話したいことがあるんだ」
「なんだ?」
「あまり、他の人に聞かれたくないから、近くの公園に行こう?」
「そうか?望、たこ焼きはいいのか?温かいうちが美味しいぞ」
「今日はいいかな」
「・・・そうか」
お母さんが、心なしな悲しそうだ。
喜んで食べてくれると思ってたのかもしれない。
「やっぱり食べてこうかな、お母さん、たこ焼きありがとう!」
「・・・そうか」
お母さんが、心なしか嬉しそうだ。
俺はたこ焼きを食べた後、お母さんを連れて近くの公園に向かった。