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第16話 あの日の日常

 俺は悠理とリビングにやってきた。


「「おはよう」」


「おはよう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」


「2人ともおはよう、朝食はもう直ぐできるからね」


「おはよう、望、悠理」


 上から亜美、お父さん、お母さんだ。

 亜美は、この頃はまだお兄ちゃんと呼んでくれてたか。いつから呼ばれなくなったんだっけ?

 そして悠理をお姉ちゃんと呼ぶ。悠理がそう呼んで欲しいと頼んだからだ。

 最初は見知らぬ人が家にいることを警戒していた亜美だが、悠理が元気になってきたくらいから、亜美は悠理になつき始めた。多分2人で遊んだりしたんだろう。


 そして、料理しているのはお父さんで、新聞を読んでるのが母親だ。

 俺はこれが普通だと思って育ったが、どうやら一般的な家庭は逆らしい。

 この頃はまだ両親はよく家にいた。

 夜になったら2人とも基本的に帰って来る。

 たまに突然何処かに行くことはあったが、1日もせずに帰ってきた。

 まだこのくらいのときは仕事が忙しくないのか、それとも、まだ俺と亜美と悠理が幼いから、忙しい中で帰ってきてくれてるのかは分からない。


「みんな、出来たよ」


 朝食ができたらしい。

 今日は味噌汁、焼き魚、漬物、ご飯だ。

 ザ、和食って感じかな?


「「「「「いただきます」」」」」


「ねぇ望、今日何する?学校休みでしょ?」


「何をいってるんだ悠理、今日は金曜日だ、学校はあるぞ」


 お母さんが、悠理に指摘する。


「え?金曜日は昨日」


 ちょんちょん、

 俺は有利の肩を叩き、人差し指を口に当て、

 しー。


 悠理も何かに気づいたのか、俺に向かって、

 しー。


「?何やってるんだ?」


「なんでもないよー!ねぇー?」


「ねー?」


 中学生の俺がやってたら吐き気がするかもだが、今の俺は小学生だ、小学生なんだ。

 ・・・自分からしたことだが、結構ぐさっと来るな。

 そのうち慣れるだろう。


「むぅー」


 仲間外れにされたからか亜美がご立腹だ。


「パパーまた仲間外れにされたー」


 亜美はお父さんに泣きついた。

 亜美はまだ幼稚園に通っている。つまり、普段から仲間外れにされているようなものだと感じているのかもしれない。


「亜美も仲間に入れてあげなきゃダメだよ?」


「これは、望と、ぼくだけの秘密なの!」


「むぅー!お兄ちゃんのバカー!」


 亜美は朝食を食べ終わると、トコトコとリビングを出ていった。


「なんで俺だけ・・・」


「ほら望、亜美と仲直りしておいで」


「はーい」


「っ、聖也、行くぞ」


「はぁ、はいはい、望、悠理、お父さんたち先に家を出るから、鍵よろしくね、それと今日は多分早く帰ってこれるから、帰ったらみんなで遊ぼうね、じゃあ行ってきます」


「「はーい、いってらっしゃい」」


「ああ」


「行ってきます」


 そう言って、両親は家を出て言った。


「ねぇ望、なんで今日は金曜日なの?」


 そりゃそうなるか。やっぱりある程度の説明はしなきゃダメかな。あんまり巻き込みたくはなかったんだが。いや、もう十分巻き込んでるか。


「悠理、昨日は何日だった?」


「昨日は19日だよ?」


「実は、俺の魔法で、時間が19日の朝まで戻ったんだ」


「まほう?」


「ああ、だけど、俺が魔法使いだって他の人にバレちゃダメなんだ、もし知られてしまうと、俺と、そのことを知っている悠理は命を狙われちゃうんだ」


「え!?」


「だからこのことは、2人だけの秘密だ」


「うん、分かった!ねぇねぇ、時間が戻るって、昨日まで戻るの?戻してみて!」


「いや、時を戻すのは莫大な力がいるから、よっぽどのことがない限り戻さないよ」


「よっぽどのこと?なに?」


「例えば、俺が死んじゃったとか、そういうこと」


「あ、望、死んじゃやだ!」


「うん、だから戻さないんだ、絶対に、誰にも言っちゃダメだよ、亜美にも、お父さん、お母さんにも」


「うん」


 こんなところかな?これで悠理の口から漏れることが無くなればいいが、子供だから難しいか?いや、子供だから忘れてくれるかな?まあ、一応注意して見ておこう。


「よし、亜美のご機嫌を取りに行こう」


 俺たちは食事を終え、食器を洗面台に置いた。

 亜美は子供部屋かな?俺には俺の部屋があるし、実質亜美の部屋のようになってるけど。






 俺は子供部屋の前に来ていた。


「亜美ー入るよー」


「やだ」


「亜美、悪かったよ、部屋に入れてくれ」


「やだ、お兄ちゃんなんて知らない」


「ぐはっ」


 俺は崩れ落ちた。なんか思ったよりダメージが。


「ほら望、変わって、亜美ちゃん、お菓子持ってきたよー、入れてもらっていい?」


「・・・うん」


 いつのまに、全然気づかなかった。


「ありがと、じゃあ、入るね」


 悠理が部屋に入って行った。

 俺もそれに続いて入ろうとする。


「お兄ちゃんはダメ」


 扉は閉められた。


 ・・・悲しい。






 しばらく部屋の前で呆然と佇んでいた。


「おまたせ」


 そう言いながら、悠理は亜美を連れて部屋から出てきた。


「亜美ちゃん、ごめんなさいは?」


「ごめんなさい」


「俺も、ごめんなさい」


「はい、仲直り終了、今何時?」


「あ、やば、もう行かなきゃ、亜美、準備できてるか?」


「うん」


「よし、じゃあバスが来るまで、みんなで家の外で待っていよう」


「はーい」






 悠理はもう少し家にいると言い、今家の前には俺と亜美の二人だけだ。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


「なんだ亜美?」


「私ね、大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになるんだ」


「え?」


「ダメ?」


 もし、ここで否定したとしよう。そうした場合、亜美はまた拗ねて、俺と話してくれなくなるかもしれない。

 そして、ここで肯定しても、所詮は子供の約束、中学生の頃には忘れてるだろう。

 ならいいか。


「いや、ダメじゃないよ」


「じゃあ、2人だけの秘密だよ!」


 ああ、なるほど、俺と悠理だけが秘密を持ってるのが嫌だったんだな。

 多分悠理は、部屋の中で亜美と2人だけの秘密を作ったんだろう。そして、亜美が俺と秘密を作れば、これでみんな平等ってことか。

 つまりお嫁さんどうこうより、2人だけの秘密が欲しかったってことか。


「うん、俺と亜美の2人だけの秘密だ」


「えへへ、やったー!」


 可愛い、隆の気持ちもわかる気がする。

 いや、俺はシスコンじゃないぞ。違うからな。


「なんの話?」


 悠理が家から出てきた。多分、このために、少し家に残ってたんだろう。小学生なのに出来すぎでは?


「お兄ちゃんと2人だけの秘密、お姉ちゃんには教えなーい」


 見てて微笑ましいな。

 ちょうど、バスがやってきた。


「「いってらっしゃい!」」


「いってきます」


 亜美がバスに乗り込んだ。


「じゃあ俺たちも行くか、」


 俺たちは通学団の集合場所まで行った。






 登校は、1年生から6年生までまとまって通学団で登校する。

 亜美のバスの迎えの時間は7時45分で、通学団の集合時間は7時55分だから一応間に合う。


 通学団の集合場所に着いたら蓮がよってきた。


「おっはろー!」


「おはよ」


「おはよう、蓮ちゃん」


 上から、蓮、俺、悠理だ。

 挨拶の後、悠理は他の友達のところに行った。


「なんだおっはろーって」


「それはもちろん!おはようと、英語のハローを合わせたんだよ!」


「蓮、よく英語なんて知ってるな」


 小学校1年生だから英語なんて習ってなくないか?


「挨拶だけ勉強したんだ!」


「すごいな」


 俺は蓮の頭を撫でた。

 いや、素直にすごいと思う。俺は子供の頃なんて自分から勉強したことなかった気がするし。


「えへへ、あのねあのね、日本語のおはようと、英語のハローを合わせて、一度に2回も挨拶してるんだ!すごいでしょ!」


「すごいな、さすが蓮だ、挨拶のことなら蓮はエキスパートだな」


 今日は褒めまくってみよう。


「エキスパートってなに?」


 伝わらなかったようだ。というかエキスパートってなんだ?


「とにかくすごいってことだよ」


「えへへ、ありがとう!」


「よし、全員並んでー、行くぞー」


 通学団の団長が号令をかけた。

 団長は6年生だ。大きい。

 通学団は男女別だ。全員揃った方から歩いて行く。


 通学団の列は決まっている。

 道路側が右だと仮定して、


 1年生、6年生

 2年生、5年生 道

 3年生、3年生 路

 2年生、4年生 側

 1年生、6年生


 の順番で並んでいる。

 並び順は、1学年の人数によって変わってくるため、毎年変わるが、だいたい似たような感じだ。

 つまり、隆とは正反対にいるため、話しかけれない。

 登校中にやることと言っても、石を蹴るか、荷物持ちじゃんけんくらいだろう。

 石を蹴ったりしていると、車に当たったらどうするんだと怒られるし、荷物持ちじゃんけんは、手荷物が少ないプールの日くらいしかしないため、必然的に暇だ。






 学校に着いた。

 1年生のクラスは4クラスある。

 俺は1年4組で、蓮も悠理も隆も同じ4組だ。


「望、聞いていい?」


「なんだ隆?」


「なんか雰囲気が変わった?」


「え?そうか?」


「うん、なんか大人っぽくなった気がする、何かあったの?」


 声と喋り方が中学の時と違うせいか、隆に随分違和感があるな。


「ま、俺は隆より先に大人の階段を登ってるってことさ」


「へー、そうなんだ」


 うーん、昔はどんなことを隆と話していたっけ?


 それから少し隆と話していると、悠理がやってきた。


「望ーつまんない」


「どうして?」


「みーんな前とおんなじ事しか言わないんだもん」


「悠理、ちょっときて、隆、また後で」


 俺は悠理を連れて、二人で話せる場所に来た。


「な、なに望?」


「誰にも、そのこと話してないよな?」


「うん、話してないよ?2人だけの秘密だよね?」


「ならよかった、悠理、つまんないかもだけど、今日だけだから我慢してくれ、もしくは、前回と違うことを話すと、会話が変わって面白いよ」


「そうなの?試してみるね」


 そう言って、女子の輪の中に戻って言った。

 よかった、話してはいなさそうだ。


 そうして、学校での時間が過ぎていった。

 俺にとって小学校の授業は、楽なものが多かった。だって4+5とか、ま、の書き取りとかだぜ?新鮮ではあったから退屈はしなかったけど、これからも続くって思うと地獄のようだ。






 学校が終わり、下校の時間になった。

 下校は、学年ごとに時間が違うから、木曜日の集団下校以外は学年ごとで帰る。

 学年ごとといっても帰る家が違うため、地区で固まって数人で帰るって感じだ。俺たちの地区は4人。俺、悠理、隆、蓮だ。

 この4人で通学団だ。


「はぁ、疲れた」


 主に気疲れだ。授業はほとんど楽だったが、小学校なんて久々すぎて、色々忘れてた。自分の机とかは前に張り出してあったからわかったが、移動教室のときの並び順とか、給食の準備とか、あと、体育での並びとか、わからなかったことがあって疲れた。

 悠理には、車にはねられたから記憶が、とか心配をかけてしまったし、体育だけは、中学生の時と体が違いすぎて、慣れるまでなかなか大変だった。


「どうした?」


「いや、なんでも」


 俺と隆の前では、悠理と蓮が何かを言い争っていた。


「挨拶が大事だっていうなら、さようならとか、またねとかも、何か言い換えたりしないの?」


「他の挨拶も大切だけど、一番大切なのは朝の挨拶だよ!朝の挨拶は全ての始まりで、何よりも重要なの!」


「そうやって挨拶の中で差別するのはどうなのかな?全部、挨拶なんだから、全部言い換えた方がいいんじゃない?」


「でも、初めてっていうのは一番大切なものって聞いたよ?だから1日の最初の挨拶のおはようが一番大切で、一番力を入れるところなんだよ!」


「なら、その人とあった時間がお昼なら?お昼ならおはよう、じゃなくてこんにちは、だよね」


「でも、みんなとは朝に会うから、やっぱりおはようが一番だよ!」


「なら休みの日のお昼に偶然外で望とあったらどうするの?おはようって言う?不自然でしょ?」


「でも、」


「なら、」


 楽しそうに語り合っている。楽しそうとはいっても、蓮は至って真剣だ。どちらかといえば悠理がからかってる感じかな。


「あ、もう分かれ道か」


「そうだね、望、悠理ちゃん、またね」


「じゃあね隆くん、蓮ちゃん」


「バイバイ!」


 隆と蓮と別れた。通学団の解散だ。


「・・・望」


 悠理が不安そうにしている。

 多分前回俺が車にひかれたことが、まだ尾を引いてるんだろう。今日の帰りも、信号を渡るときは必ず左右を確認していた。


「大丈夫だよ、ゆっくり帰ろう」


「うん」


 俺は家に帰った。

 歩いて帰ったためか、信号無視の車を見ることはなかった。当然、俺や悠理が死ぬことも。






「「ただいまー」」


「「「おかえり」」」

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