第15話 悠理
「・・・ふぁああ、・・・よく寝た」
俺は知らない部屋で寝ていた。?あれ、知らない部屋だと思ってたけど、よく見たら俺の部屋?に似ていなくもない。いや、こんなに大きくなかったし、漫画とかゲームとか軒並み消えてるから、違うか?
「どこだ?」
ん?なんか声がおかしい。風邪か?いや、なんか妙に高かったような。それに、
「・・・!?」
腕が小さくなってる!?えっ、何が起こってるんだ!?
待て、落ち着こう。今まで何があったか思い出そう。
確か俺は不審者に殺されて、その時、もっと戻りたいと、そう願いながら殺されたんだっけ?
そして、
「夢を見たんだ」
そう、俺が悠理を助ける夢を。
そんな、都合のいい夢を。
過去は変えられない。それは誰であっても共通のこと。だから人は後悔し、過去を悔やみ、過ぎ去った日々を思い出す。
そしてもう同じ失敗はしないと、その苦い思いを胸に抱き、明日に向かって進んでいく。
人生は、そういうものだ。
だけど、俺の体は小さくなっている。
「俺、子供時代に戻ってるのか」
スマホを取り出し、日付を確認しようとするが、スマホは中学生になってから持ち始めた。だからまだ持っていないだろう。
やらかした。俺は、自分の力に初めて恐怖した。
こんなにも昔に戻ることができるとは思ってなかった。
もしも、もしも仮に、もっと俺の力が強ければ、俺が生まれる前まで戻っていた可能性もあるかもしれない。
そうなったらどうなるのか。ちょっと想像するだけで怖い。
「そういえば、あの夢」
俺が悠理を助けたのは夢だと思っていた。だが、体が動いたし、死んだ感覚もあった。もしかしたら夢ではなく、
「?」
いま、俺のベッドの中で、何かが動いた。
俺は布団を捲り上げる。
すると中から悠理が出てきた。
「!?」
なんで!?なんで生きてるの!?なんで俺のベッドにいるの!?
驚き、俺は固まった。
・・・もしかして、あの夢だと思っていたものは夢じゃなく、そのときまで戻っていて、そこで俺が死に、今日の朝まで巻き戻りしたのか?
辻褄は合う。そうすれば、悠理が生きているは説明がつく。
なら今は、8年前、俺が小学校1年生の5月だ。
あとはなぜ同じベッドで寝ているかだが、
「そっか、一緒に寝てたっけ」
悠理は今の1年前、6歳の時に我が家へやってきた。悠理と俺は同学年で、悠理の誕生日は4月。俺は2月だから10ヶ月も離れている。
なぜ、我が家に来たのかの、詳しい事情は教えてもらってないが、多分、悠理の両親は・・・。
それで、俺はそのくらいの時期から両親と離れ、一人で寝てたから、夜が寂しくなって、それで一緒に寝ようって誘ったんだっけ?俺は物怖じしない性格だったのかな?
亜美はまだこの時期は両親と寝ていたはず。
俺の体が大きくなってきて、ベッドが4人で寝るには狭くなってきたことと、一人で寝たいと思ったことで、俺の一人部屋が用意されたんだったか。
案外覚えているものだ。
我が家に来たばかりの悠理はそれはそれは泣き虫で、よく泣いていた。俺はせっかく、夜になっても遊べる友達ができたと喜んでいたが、悠理は、泣いていて、遊んでくれなかったから、頑張って慰めてたんだっけ?
どんどん記憶が蘇ってくる。
この当時の俺には性別による差なんて微塵も考えたことがなかった。いや、子供の頃なんてそんなもんか。
俺の中の女の基準は蓮だ。いや、基準というより、蓮がいたからか、性別の違いを意識したことがなかったのかな。
蓮と隆とは幼稚園の時から遊んでいて、主に蓮とずっと走り回っていた。
隆とも遊びはしたが、あいつは基本的に遊びまわっている俺たちを見ていた。いや、蓮を見ていた。
・・・今思えば、あの時から、シスコンなのか?いやいやいや、え?マジで?
隆は生粋のシスコンだったのか。しかもずっと見守る感じの。
将来蓮と結婚するやつは大変だな。どこに行こうと何をしていようと隆が見ていそうだ。
少し話がずれたな。確か、夜になったら友達と離れなきゃならなかったけど、家の中に友達がいればずーっと遊べる!多分そんなこと考えてたんだと思う。
そしたら、だんだん元気になって来て、一緒に遊ぶようになった。トランプ、ボードゲーム、だるまさんがころんだ、他にも色々。
亜美はお人形遊びやおままごとが好きだった。俺はそんなに好きじゃなかったから、たまに付き合うくらいだったかな。
本当に、懐かしいな。
俺はその頃に戻って来たのか。
「・・・ん、ううん」
あ。悠理が目を覚ましそうだ。
「おはよう、悠理」
「・・・ぇ?」
?なんだ、俺何か変だったか?
いや、確かに俺は中学生だったから、まだこの体に慣れてないけど、挨拶しただけだぞ。固まるほどの違和感があるのか?
「の、望?」
「うん、なあに?」
よし、小学生らしい態度を取ろう。小学生らしい態度ってなんだ?流石に覚えてないぞ。
「望、望!のぞむぅー!!!!」
「わあっ、ゆ、悠理!?どうしたの?」
悠理が泣きながら抱きついて来て、俺はベッドに押し倒された。いや、いくら精神年齢が思春期男子だからって、子供に抱きつかれて興奮はしないぞ?俺はロリコンでもペドフィリアでもない、・・・本当だぞ。
しかも今は俺も子供なんだから。
ん?そうなると同学年だから興奮していいのか?
いや、子供だからダメだって。
「よかったぁ!よかったよぉ!望!」
「ああ、よかったよかった」
悠理が何を言ってるのかがわからない。何か前日にあったのか?流石にそこまでは覚えてないぞ。
「生きてる!望が、望が生きてる、よかったぁ、本当に・・・ぐすん、本当に良かったぁ!」
「・・・え?」
何を、言っているんだ?
「車にひかれて、もう、もうダメだって、お父さんや、お母さんみたいに、動かなくなっちゃったって、そう思って、良かった、良かったよぉー!」
なんで、なんで覚えている?
まさか俺が巻き込んだ?俺の体に、悠理は触れていた。もしかしたら、死んで巻き戻る際に触れていた人間は、一緒に戻るのか?
可能性はある。
だがもしそうなってくるとまずい。
悠理は一般人だろう。俺は、覚醒者はみんな結界や、特殊な能力を持っていると思っている。いや、本当のところは分からないが。だが一般人のはず。
もし、俺の巻き戻しのことを、もしくは死んだのに生き返ったなどを悠理が誰かに話したりしたら、神秘の秘匿がなんとかで、神罰が下るかもしれない。神罰がなんなのかは分からない。あの不審者は、世界が消えるとか言っていたが。
少なくとも、あの不審者や、他の覚醒者たちが殺しに来る可能性が高い。
だから口止めしないと。いや、まずは慰めよう。
「大丈夫だよ、悠理、俺は死なないから、俺は悠理を置いていって、どこかにいったりはしないから、よしよし」
俺はしばらく悠理の頭を優しく撫でながら、安心させるように話しかけ続けた。
「落ち着いた?」
「うん。あ、ありがと」
悠理が恥ずかしがっている。
「悠理、聞いて欲しい」
「?なあに?」
あ、小学生らしい話し方を忘れてた。まあいいか。
「昨日起きたことは秘密にして欲しいんだ。」
「なんで?車にひかれたこと?」
うまく説明できない。俺もよく分かってないこともあるし、それに、知らなければ知らないに越したことはないだろう。
「全部だ、昨日のこと、全て、何があっても、2人だけの秘密な」
「2人だけの秘密?」
「ああ」
「なんだか大人っぽい!分かった!昨日のことは全部、ぼくと望の秘密ね!」
「ああ、よし、飯を食べに行こう」
「うん!」
細かいところは俺がフォローすればいいか。
俺たちは、リビングに向かった。