第14話 情報収集、過ぎ去った日々
5月15日の17時55分、俺は近くのビルの屋上に来ていた。
朝は前までとほとんど同じ流れだった。亜美と朝食をとり、蓮とはよーていについて話し、隆と蓮について語った。
ん?少し違う?気にすんな。
言っておくが、俺は覗いてない、覗いてないからな!わかったか!
「俺は誰に言ってるんだ?」
とりあえず、それは置いておこう。不審者との対決がもう直ぐだ。
とりあえず、ダメ元ではあるが、一つ確認しておきたいことがある。
なぜ俺がビルの屋上に来ているかというと、相手が目の前に現れるというのを生かした作戦だった。
もし仮に、不審者が今の俺の目の前に現れた場合、そのまま落ちていく。
いや、ビルの高さから落ちれば、もしかしたら結界を突破できるかもしれないと思ったんだ。
多分無理なのはわかっている。俺は一度、18時のとき、部屋で寝ていた時があった。その時は壁の方を向いていた。なのに不審者は俺の後ろの、部屋の中にいた。
だから基本的に目の前だが、目の前が無理ならその近くに来るってことだとは思う。
だがもし仮に、目の前に壁や物があったから、部屋の中に来だとすれば、足場がなくても目の前に来るのだとすればだ。
ビルから落とせる。
いや、相手は刃物を浮かすことができる。仮に落とせても、自分の刃物に乗って、落下を防がれれば意味はないが。
いや、相手が刃物だけしか操っていなかったが、例えば無機物ならとか、生き物も動かせるという可能性もある。自分を浮かせたりもできるかもしれない。
だから無理だと思う、思うが、一応試しておこう。
時刻は夕暮れ。
「17時59分だ」
見渡す限りに人はいない
「夕日が綺麗だな」
そう、一人たりともいなかった。
「人が俺しかいない、日の沈みゆく町、か」
車自体はある。だがそれは駐車場などの動いていない車だけで、さっきまで道路を走っていた車は、ひとつも無くなっていた。
「57、58、59、60」
目の前に、人はいなかった。
!?っ後ろか!
俺は急いで振り返った。
振り返るとき、刃物が大回りで回り込んでいるのが見えた。
そして前からは一本の刃物がまっすぐ飛んで来ていた。
俺は急いで横に飛んだ。前からの刃物は、俺を追いかけるように軌道を修正したが、ギリギリ躱せた。
そして直ぐにもう一度横に飛んだ。
やはりもう一本の刃物が俺の背後から迫って来ていた。
だいぶ無理をしてかわしたせいで、バランスが崩れている。次は躱せないだろう。
「待ってくれ!覚醒者!」
不審者って呼ぶのは流石に会話する上ではまずそうだったため、知っている言葉を言ってみた。
「!?貴様、いったいどこでその言葉を聞いた!?」
冷静沈着だった不審者が、ものすごい取り乱した。
?なぜそれほど動揺している?だが会話に応じてもらえる可能性が出てきた。
ここからどれだけ情報を引き出せるかだ。ブラフ、ハッタリ、嘘、なんでもいいから情報を引き出す。
「誰から聞いたと思う?」
「!?誰からだと、誰だその大馬鹿ものは!!!!神秘は秘匿せねばならない、それを破れば神罰が下る!それをまだ一般人である貴様にいうバカがいるだと!?」
お前から聞いたんだけどな。
そんなこと言ったらすぐに殺させそうだから言わないが。
「そうなのか」
「貴様、そのことは誰にも告げていないであろうな!もしも、もしも誰かに告げていたのだとしたら、その者と、その者に近しきもの全てを抹殺せねばならない」
「な!?全てを抹殺!?」
「ああ、神秘は秘匿せねばならない、・・・大変心苦しいが、たとえ未覚醒者でなくとも、本当の一般人であったとしてもだ、もし仮に神秘が漏れて世界に広まれば、 また神罰が降る、下手をすれば、世界は消える」
「・・・」
スケールが大きくなりすぎて、話についていけない。
「誰にも告げていないんだな!?」
「ああ、勿論だ」
俺は誰にも言ってない。だけど今の会話の流れだと、たとえ誰かに言っていても、こいつに言うことはないんじゃないか?友達や家族が殺される標的にされるわけだし。
世界が大変!?じゃあ友達と家族殺そう!とはならないだろう。
この不審者は頭が悪いのか?そういえば頭脳労働は得意じゃないとか言ってたか?
いや、俺を脅すことによって、たとえ俺が誰かに言っていたとしても、それだけ重要だから、決して漏らすなってことを俺はその誰かに言うわけで、間接的に、神秘が漏れるのを防ぎながら、一般人を殺さない、そう言った可能性もあるか。
いや、こいつ俺を殺すから俺からその誰かに忠告出来ないな。その可能性はないか。
やっぱり頭はよろしくなさそうかな?
「そんなことも教えずに、貴様に告げた奴は誰だ!」
お前だよ!何前の戦いでやばいことさらっと漏らしてんだよ!いや、結局は殺すから何を言ってもいいって思ってたのか?
「わかった、教える、だからひとつ、教えてほしい」
「なんだ」
ここで結界のことを聞くのは不自然すぎるか?いや、この不審者はそれほど頭が良くない。俺ならうまく丸め込んで、情報を引き出せるだろう。いけ!
「覚醒者が持ってる結界のことを教えてほしい」
「それも、覚醒者について貴様に教えたものから聞いたのか」
「ああ、だけど結界がどういうなのかは聞いてなくて、教えてくれないか」
俺は何を言っているんだ?話が下手か!俺も頭が良くなかった。神秘の秘匿がどうとか言ってた相手だぞ!こんなんで教えてくれるはずないだろう!
「・・・いいだろう、どうせ、早いか遅いかの違いしかない、結界の話なら、先に聞かせても問題なかろう、覚醒者どうしの戦いの場合、結界はほとんど意味をなさないからな」
え!?いいの、教えてくれるの!?でも何か言い回しがおかしくなかったか?
「結界とは、己の心の防壁を具現化したものと言われている」
「心の防壁?」
「ああ、結界は己に害をなす物理的なもののほとんどを防ぐことができる」
「その、結界の強度とかはどれくらいなんだ?」
「その人間の心によって違ってくるから分からん」
「なら例えば、俺が木刀でお前の結界を殴り続けても、一生破れないのか?」
「ふむ、お前の力がどれくらいかは知らんが、そうだな、結界は寝ればだいたい治るが、寝なければ基本的にあまり自動修復はしない、だから叩き続ければいつかは破ることもできるだろう、そうだな1000回くらいか?いや、分からんな、この手の話は俺には分からん」
「1000回!?」
トラックの一撃に耐えれるんだから、それくらいは必要か。いや、木刀1000発とトラック1発は同等なのか?いや、そんなことはない。人によって強度も違ってくるとも言っていたし、
「もう良いか?なら誰に教えられたか言え」
どうする?一応もう少し情報が欲しい。聞きたいことはまだまだある。覚醒者と未覚醒者、どうしたら覚醒するのか、神託、認識阻害、色々だ。
だが、もう答えてはくれないだろう。ただ、おれが死んで、戻った後、同じように展開を進めていき、結界の質問のところを別の質問にすれば、まだまだ情報が聞き出せるだろう。だが、まだ死ぬ前に何か情報が手に入るかもしれない。どんな情報でもいい、なにか。
そうだ、あの黒髪ロングの女性はこいつの仲間なのかだけでも知っておきたいな。
「名前は聞いていない、だが、黒髪ロングで、目が赤くて、モデル体型の女性だった」
「ふむ、他には?」
他に?何かあったか?
「えっと、黒いスーツを着てて、いかにも仕事ができそうって感じの人だ」
「ふむ、他には?」
これは言っていいのか、いや、言ってみよう。
「トラックから、赤子を守ってた」
「・・・ふむ、それはいつだ?」
「昨日です」
「・・・香月か、いや、貴様、嘘をついたな」
「え?」
なんでバレた!?
「香月とあったのなら死んでいるはずだ、あいつが見逃すとも思えんし、教える理由もないだろう」
っ、やっぱりあの女性はこいつの仲間なのか!
「こいつの背後に何かいるな、神秘の秘匿を守らないやつ・・・まさか破滅者どもか?」
また新たな単語が出てきた。破滅者?
「ふむ、ダメだ、やはり俺には頭脳労働は向かん」
まて、状況は違うが、このセリフ聞き覚えがある、この後、
「なら」
後ろから刃物が来る!
「っっ!!」
ギリギリでなんとか躱せた。
「待ってくれ!」
「またん!」
もう情報収取は無理だ。なら、
「俺を殺してくれ!」
「?」
よし、興味を引けた。
「俺を、痛みもなく一瞬で殺して欲しい」
「なぜ、そうしなければならない」
「頼む!」
「・・・本来なら断りたいところなのだがな、幾分か事情を知っているようだ、なら、後でもいいだろう、わかった」
一つ収穫だ。しっかりと頼み込めば、不審者はおれを痛みなく殺してくれるようだ。これで、死ぬ前に痛みで苦しまなくて済む。
そして、もう一つ試したかったことができる。
もし、巻き戻りが、自らの思いで、強弱が変わるのなら、戻れと、もっと戻りたいと願えば、もっと前に行けるかもしれない。
どれくらい戻れるかは、試しておいたほうがいい。
一瞬で死んだのなら、痛みで思考が塗りつぶされることはないだろう。
だが、死ぬのは当然怖い、いくら痛みが一瞬であっても怖い、死が怖くないはずがない。
だが、俺は明日が欲しい、明日を掴むんだ!
情報を得て、また1歩明日に近づいた、俺は明日に近づいているんだ!明日が、欲しい!
「では、死ね」
俺は死の恐怖を乗り越えるために明日を願った。
だから、悠理のことが頭に浮かんでいた。
お前の分まで、明日を見るんだと。
だが、やはり心のどこかでは、あったんだと思う。
あの日の、後悔が。
俺はまだ、自分の力を過小評価していた。
だから、これは必然であった。
「さて、油断はできんな、!?何がーーーー」
世界は光に包まれた。
まるで、夢みたいだった。
「ほら望!早く行くこ!」
俺は、手を引かれながら走っていた。
「早く帰って、みんなで遊ぶんだ!」
俺は、夢を見ていると思っていた。
懐かしい、子供の頃の夢を。
「今日は聖也さんも、佳奈さんも、亜美ちゃんも家にいるから、みんなで遊べるね!なにする?」
聖也は俺のお父さん、佳奈は俺のお母さんだ。
「トランプ?ボードゲーム?それともだるまさんがころんだ?」
そういえば、あの日もこんな感じだったっけ?
学校帰りで通学団が解散した後、走って家に帰ろうとする悠理に手を引かれながら、ちょうどこんな感じの道路で、信号が青に変わって渡ろうとした時、車が突っ込んできて、
「!、悠理!」
夢なのに体が動いた。だけど、俺たちはもう道路にいた。そして、車が突っ込んできていた。
運転席の人間は、手元を見ており、前を見ていなかった。
間に合わない!
また、俺は悠理が死ぬのを、悠理に突き飛ばされるのをただ見てるだけなのか。
(1秒を笑うものは1秒に泣くんだから!)
本当に、その通りだったよ、蓮。
後1秒早く気づいていれば、信号を渡ることもなかったのに。
(ぼくは、明日が、見たかったなぁ)
(ごめん僕のせいで、ごめん、うぁあっ、うわぁああぁぁ)
(じゃあ、こう、しよう、望は、僕の代わりに、明日を、見るんだ、ぼくの分まで、生きて、明日を、見て)
(わかった、わかったよ、忘れない、忘れないから、僕が、明日を見続けるよ、だから、だから)
・・・ダメだ!悠理は、悠理には、明日を見て欲しい!ここで死なせるわけには!
「望!」
悠理が、俺の体を押した。
俺は、その悠理の手を掴み、思いっきり後方に投げた。
火事場の馬鹿力だと思う。そのおかげで、悠理は歩道に戻った。
そして俺は、悠理を投げた反動で、
ドン!!
「があ、あ、ああ、あ」
初めて、俺は空を飛んだ。
「がふっ」
そして、地面に叩きつけられた。
俺を跳ねた車は、今頃何かをやったことに気づき、止まって後ろを確認していた。
「え?何が、・・・ヒィ!あ、いや、違う、おれじゃ、おれじゃない、違う!」
そう言って、車は走り去って行った。
「望?望、起きて、ねぇ、起きてよ、こんなところで寝てたら、佳奈さんに怒られちゃうよ?ねぇ、望?望、望!・・・嫌だよぅ、なんで、ぅっ、なんで僕の大切な人はみんな死んじゃうのぉ!?うぇ、お父さんも、お母さんも、望も、ねぇ、なんでぇ、うぇぇぇえ、どうしてぇ!」
意識が、遠くなって来た。血が地面に広がり、体が冷たくなってきた。おかしいな、夢なのに、本当に死んだみたいだ。
悠理が泣いている。ああ、生きている。もしあの時、こんな選択を取れていれば、悠理は死なずに済んだんだな。
これは、ありえたかもしれない可能性を、夢で見てるのかな。
悠理が救われて欲しい、悠理を救いたい。ああ、確かに夢だな。どうせ夢なら、久しぶりに見る悠理の顔が、泣き顔だなんて嫌だよな。
悠理には、笑っていて欲しい。
「わら、て」
「!?望!望!」
「わらっ、て、ゆーり、」
「望?」
「わらっ、て、あした、を、あ、したを、おれのかわ、り、に、あしたを、み、て」
「そんなこと言わないで!ぼくは、望と、望といる明日が見たいんだ!望と、亜美ちゃんと、聖也さんと、佳奈さん、みんなで、・・・家族で!あしたを見たいんだ!」
ああ、悠理は、俺たちのことを、
「か、ぞく、」
認めてくれていたんだな。
「望?望、望!嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だー!!!」
世界は光に包まれた。