第13話 夜
俺は家に帰って来た。
辺りは暗くなっている。
俺は家の鍵を取り出し、扉を開けた。
「ただいまー」
亜美はまだ帰っていないようだ。
さて、飯はどうするか。
冷蔵庫には、ピザが2枚、ヨーグルト、プリン、牛乳、オレンジジュース、お茶、焼き豚、ハム、チーズ、卵、ベーコン、バター、調味料色々。
冷凍庫には、アイス、パスタ2種類、冷凍食品色々、ささみ、豚肉、冷凍ご飯、氷。
野菜室には、キャベツ、白菜、大根。
和室には、カップヌードルが7種類9個、カップ焼きそばが2種類4個、マカロニグラタン、レトルトカレー、ラーメン、カルボナーラ、色々あった。
「簡単なのでいいか」
俺は冷蔵庫からピザを取り出し、袋から出した。
「えっと、オーブントースターで5分か」
ピザをオーブンに入れ、5分待つ。
「・・・そっか、夜になるのも久しぶりか」
18時ごろに死んでいたため、夜になること自体が久しぶりだった。
「俺って、何回死んだんだ?」
数えてみた。1回目、2回目は、学校からの帰り道、3回目は街を離れて、4回目は自分の部屋で、5回目は公園で戦って、6回目は学校の屋上から、7回目は片道交差点が覗ける飲食店。
7回。
「そんなに死んでるのか」
死に対する忌避感が薄れて来ている気がする。
7回も死んでいるから、いや、6回目は恐怖はあったが一瞬で死んだためか、痛みはなかった。7回目はいつの間にか死んでいた。死んだ後に怖気がしたが、それだけだ。
だから薄れているように感じるのかもしれないが。
いや、慣れて来ているのもあるんだろう。
俺が自殺できたのは、自殺した先にしか希望が見えなかったからでもある。その希望は勘違いだったわけだが、もちろん、それだけじゃない。
その時には、もう5回も死んでいたんだ。その時には、死は未知の恐怖ではなく、既知の恐怖だった。
これが未知である1回目ならともかく、死が既知の恐怖になったばかりの2回目、3回目なら踏ん切りがつかず、結局飛べなかっただろう。
だが、5回だ。5回死んでいたんだ。慣れてはいなかったが、薄くはなって来ていたのだろう。
それが今では7回だ。死は確かに怖いが、今は死より痛みや母親の方が怖いくらいだ。
「それは人としてどうなんだ?」
もし、俺に残機というものがあったら、戻れる回数は何回までとか決まっていたら。
また次があると思い死んだら、そこで終わった、なんてことにもなるかもしれない。
「いや、もしそうだとしたらそれまでさ」
本来なら、俺はもう死んでいるんだ。今はズルをして生きているみたいなものだ。
もちろん、諦める気は無い。俺は明日を見る。いや、今日から数えたら明後日か。俺は明後日を見る。いや、なんか違うな。明日は、俺の中では不審者を乗り越えた先にあるとしよう。話が逸れた。
「何考えてたっけ?まあいいか」
ちょうどピザが焼けた。
「・・・うまい」
ピザは美味しかった。
風呂に入り、自分の部屋に入った。
「亜美はまだ帰って来てないのか」
今は20時。
亜美は基本的に帰ってくる時間はバラバラだ。
今日のように朝帰って来たり、深夜に帰って来たり、俺より先に帰ってたり。
だからまぁ、気にしなくて大丈夫か。
俺は色々考えた。どこかに突破口はないかと。
あの不審者が俺を狙う理由は、神託で呼び出された等と言っていた。つまり、その呼び出したやつが俺を殺そうとしているってことになる。
だがその呼び出したやつが誰なのかがわからない。それさえわかれば何かしらの解決策が出てくる可能性があるのに。
また何回か不審者と戦って、情報を引き出すしかないのか?
俺は今わかっていることを紙に書き出した。
相手の能力、能力の考察、いつ何が起こるのか、俺の能力。
「そういえば」
俺の能力を書き出しているとき、一つの違和感を思い出した。
「自殺した後、なんで蓮と会う時間まで戻ったんだ?」
自殺した時間は朝礼の後、だいたい8時45分前後だったはず。
蓮とは、家を出て割とすぐ会う。だいたい家を出るのは7時45分だ。
つまり25時間ほど戻っていることになる、これはおかしい。
今までは18時ごろに死に、朝目が覚めた時に意識が戻っていた。寝た時間が22時と仮定して、起きる時間が6時半、つまり11時間半から20時間の間が戻る時間と仮定していた。
この仮定が崩れることになる。
朝にセーブされていて、死んだらそこに戻るという仮定も、今日に戻ってこれたから違う。
力が強くなって来て、巻き戻る時間が増えた?いや、7回目、女性に殺された時間も18時くらいだったはず。そして、それは今日の朝に戻った。
なんだ?自殺か他殺かで戻る時間が違う?それ以外に、違う点があるか?
死んだ時間によって、戻る時間が違うか、もしくは戻る時間がランダムで、たまたま自殺した時だけ長かっただけ?
一瞬で死んだこと?いや、7回目も一瞬で死んだ。
どれもしっくりこない。別にこの力に何かしらの法則性があるわけでもないのかもしれない。不思議な力だから、俺の知らない要因があるのかもしれない。だけど考えるだけはタダだ。今は可能性だけでも欲しい。この詰んでいる状況を打開できる可能性だけでも。
思い出せ、他に、他に何か違う点がないか。
順番に思い出していこう、なぜ俺は自殺した?
それは今日に戻ってくるためだ。
ん?これか?
その自殺以外は、基本的に痛みや、認識阻害で何も考えていなかった。だが、自殺の時だけは違う。
戻りたいと、戻ってくれと、願っていた。
自らの思いで、力の強弱が変わる。
「なんだか可能性は高そうだ」
もしかしたら、3日、いや1週間、もしかしたら1ヶ月くらい戻れるかもしれない。
全くの見当違いかもしれないが、今まで考えた中では一番可能性は高そうだ。
他にも色々考えたが、他にはあまり浮かばなかった。
だが、戻ったところでどうするか。神託のやつがいつから俺を狙っていたかもわからない。全く無駄に戻ることになるかもしれない。
「今は不審者と戦って、情報収集しかないのか」
結局、何もかも情報不足。情報がなければ対策も立てられない。
「じゃあ、寝るか」
おやすみなさい。