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第1話 日常と、その崩壊

 俺、芦田(あしだ) (のぞむ)は中学3年生のどこにでもいる普通の少年だった。自分は平凡だと理解しながらも、心のどこかで非日常を求めていた。


 だが、こんなのは望んじゃいなかった。






 チリリリリリリン!チリリリガチャン


「ふぁーあ、よく寝た。」


 朝、目覚まし時計を止めて、起きた。

 いつも通りの平和な目覚めだった。






「亜美はまだ寝てるのか、飯どうしようかな、まあ、いつものでいいか。」


 食パンをオーブントースターで焼き、フライパンで目玉焼きを作り、サラダを用意する。以上。

 あと少しで、朝食ができる段階で、妹の芦田(あしだ) 亜美(あみ)が2階から降りてきた。


「おはよ」


「おはよう」


「あと少しでできるからな。」


「ふぁーい。」


 両親は共働きで、二人とも仕事が忙しくて、あまり家に帰ってこない。今は妹と二人暮らしだ。といっても、妹も最近は、よく友達の家に泊まってたりで、あまりいない。必然的に、この広い家に俺が一人でいる方が長くなってきた。寂しい。


 そうこうしてる間に、飯が完成。妹もきた。


「「いただきます」」


 ・・・・・・・・・・・・

 会話がない。別に嫌われてるわけではないとは思う。

 けど、好かれてもいなさそうだ。悲しいぜ。


「最近よく外泊するけど、大丈夫か?」


「・・・何が」


「いや、危ないこととかはしてないよな?」


「・・・別に友達の家で遊んでるだけだし。てか、あんたには関係ないでしょ」


「いや、うん、・・・友達って男か?」


「うざい」


 やっぱ嫌われてるかも。

 いつも通りの、平和な朝食だった。





 俺は中学3年生で、妹は2年生、同じ中学だが、登下校は別々だ。


「はよーいて!」


「おはよ」


 へんな掛け声のような声をかけてきたのは幼馴染の春日(かすが) (れん)だ。


「なんだはよーいてって?」


「それはもちろん!おはようといいてんきねを掛け合わせた、画期的な挨拶だよ!」


「いやわかんねぇよ」


「チッチッチ、わかってないねー今は略語が流行ってるでしょ。」


「お前の中ではな。」


「うん!だから、略語に、言葉の掛け合わせをプラスして、流行の最先端を走っていくわけだよ。つまり今は略合わせの時代だ!」


「なんか違くね?」


「違わない!それにおはよう、いいてんきね、と、はよーいてだと速さが段違いだよ!半分だよ!半分!時間は有限。挨拶を短くすれば、たくさん色々話せるでしょ?」


「いやいや、変わらんだろ」


「何いってるの!半分だよ!100メートル走のタイムが12秒だった人が半分になったら6秒だよ!誰も追いつけないよ!世界新記録だよ!」


「なんで100メートルの話になってんだよ!挨拶だよ挨拶!10文字が5文字になっただけだって!」


「何いってるの!こういうのは日々の積み重ねなんだよ。1日100メートル走5本増やすだけで、1週間で35本、一ヶ月で150本、1年で1825本も違うんだよ!1825本は182キロ500メートル!こんなにも練習量が変わってくるんだから!それと同じだよ、1日5文字でも1週間で35文字、一ヶ月で、150文字、一年で1825文字も違うんだよ!もったいないよ!」


「ああ、確かにそうかもしれない・・・とはなんねーよ!なんで」


 いつも通りの、平和な登校だった。






「はあ、疲れた、朝からなんでこんなに疲れるんだ。」


 教室に入って席に着くと友達がよってきた。

 こいつは春日(かすが) (たかし)、蓮の双子の兄だ。そして重度のシスコンを患っている。今すぐ病院に行って欲しい。


「望、聞いて欲しいことがあるんだが、大丈夫か?大丈夫だな、よし、あのな」


「ちょっと待て!なんも答えてないだろ!」


「いや、疲れてそうだったからお前の返事を省いてやったんだよ、感謝しろよ?でな」


「そこを省くな!余計な気遣いだ!」


「昨日のことなんだけどな、」


「無視ですかー?」


「いつも通り放課後、学校の屋上から妹の走ってる姿を望遠鏡で覗いていたんだがな?」


「待て待て待て待て!何やってんだよ!」


「何って部活だよ部活。」


「そんな部活あるか!なに部だよ!シスコン部か!」


「天文学部だ!」


「星覗けや!」


「覗いているだろう、陸上界のスターであり、誰よりも輝いている俺の妹をな!」


「上手いこと言ったつもりか!」


「俺が天文学部に入ったのは、屋上と、望遠鏡の使用許可を頂くためだけだ!」


 これでもこいつは優等生だ。妹のことしか考えてなさそうなのに優等生だ。見た目も、授業態度も、成績も優等生だ。俺は劣等生。なぜだ。


「放課後は大切な用があるって言ってたのはこのことだったのか。」


「おっと、話が逸れていたな。それで昨日屋上で星を見ていたんだがな、」


「だいぶ普通なこと言ってるように見えても、妹覗いてたんだよなぁ」


「星の活動が終わって、今日も輝いていたと感慨にふけっていたんだが、なにか、街の方から音が聞こえた気がしてな、少し望遠鏡で覗いて見たんだ、そしたら、変な所を見てしまってな」


「?」


「トラックが、何かに全速力でぶつかったように凹んでて、ガラスが飛び散ってて、その前に女性が立っていたんだ。そして、その女性の後ろには子供がいた。まるで子供をトラックから守った女性の図といった感じだった。」


「なんだそりゃ映画か?」


「分からん。だがもう一つ、誰もそのことを気にしていた人間がいなかったんだ。その周りの人間は、普通に歩いていた。何事もなかったかのように。普通なら写真でもとる人間や、立ち止まる人がいても良さそうなのだが」


「夢でも見てたんじゃないか?そんなことが実際にあったらニュースにでもなってるだろ?それか、映画のワンシーンで、周り歩いてたやつはエキストラだったとか?」


「かもな。・・・そうだな、望、例えば女性がなんらかの特殊な力を持っていたとすればどうだ?」


「まさか、認識阻害の特殊能力、そしてトラックの全速力を止める絶対防御、まさか世界の裏側で暗躍する組織の一員か!?」


「そしてその一部始終を見てしまった俺は、組織に狙われることになる。秘密を守るために組織に消されそうになる俺は、突如として特殊能力に目覚め、撃退する」


「おおー、隆、どんな特殊能力が欲しい?」


「透視能力と、千里眼だな」


「ん?なんで?撃退できなくね?」


「妹を常に見ていられるからな。そうなればいかなる困難も乗り越えられる!」


「はぁ、せっかく乗ってきたのに、結局シスコンか、ま、どうせ実際は映画のワンシーンか隆が白昼夢でも見てたのかだろうな。」


「だろうな。望、聞いてくれないか」


「なんだ?」


「また妹のタイムが上がったんだ」


「そしてまたいつもの妹自慢か」

 

「俺は前から思っていたんだ。妹は陸上界の」


 いつも通りの、平和な学校だった。






 夕方、学校からの帰り道を、俺は歩いていた。


「はー、疲れた」


 時刻は夕暮れ。


「帰ったら何するかな?うん、久しぶりにあのゲームでもやるかな」


 周りに人はいない。


「ん?」


 そう、一人たりともいなかった、


「あれ?珍しいな、この時間にここってこんな空いてたっけ?」


 いつもなら車がうるさいくらい走っていて、人通りもそれなりにあるはずなのに。


「っは!?まさかいつのまにかディメンジョンゲートをくぐっていただと!?・・・なんてな、いかんいかん、俺は厨二病を克服した、克服者だったんだ、あぶねぇぜ・・・いや、独り言言ってる時点でどうなんだろうな?まっいっか、ん?」


 いつのまにか目の前に人がいた。


 黒いフードをかぶっていて、全身黒ずくめのいかにも不審者といった格好をしていた。誰が見ても不審者という感じの者は目の前にいた。


 そう、目の前に、


「・・・え?」


 そして、俺のお腹から、刃物が飛び出していた。


「あ、ああ、アガァアアアアアアアアーーー!!!!」


 痛い、痛い、痛い、


 痛みに何も考えられなかった。何が起こったのか、どうして刺されているのか、なぜ俺が刺されているのかすら、考える余裕もない激痛だった。


 そして、目の前には立っている不審者と、


 浮いている、刃物だった。


 その刃物は、俺の、首を、


 ザクッ


 俺は、死んだ。


「これで・・・!?何が――――」


 世界は光に包まれた。


 いつも通りの平和が、崩れ去って行った。






 チリリリリリリン!チリリリリリリン!


「ハッ!・・・あ、え?・・・生き、てる、」


 あれだけ痛かった激痛は、綺麗さっぱり無くなっていた。

 チリリリリリリン!チリリリリリリン!


「生きてる、痛くない、なんで?何が、はぁ、はぁ、」


 体の震えが止まらない、なんで生きてるのか、何が起こったのか、どうして家にいるのか、なぜ傷がなく、痛みもないのか、何もかもわけがわからなかった。

 チリリリリリリン!チリリリリリリン!


「俺、たしかに、刺されて」


 チリリリリリリン!チリリリリリリン!


「うるさい!」


 隣の部屋から妹の怒鳴り声が聞こえた。


「え?・・・あ、」


 チリリリリリリン!チリリリリリリン!


 目覚まし時計が鳴り響いていた。


「早く止めろ!」


「あ、ああ、」


 音が、止んだ。

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