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二度目の明日  作者: 霧雨 けいね
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1頁 また明日

傷物語 三部作でも 面白い

 瞼の裏を眺めている間だけは、死ぬことはないと思っていた。眼を閉じればまた明日が来る。そう思っていた...

 規則的に揺れるジープに起こされてから、しばらく外を見つめていた。真夜中に降り積もった雪はその勢いを和らげていた。ペテルブルグを経ってからかれこれ20日あまりが経っていたが、いまだに僕らはベルリンにたどり着けずにいた。数10km前にあった教会6日程世話になって、食料や水の備蓄を増やしてから南下を続けていた。ついこの間までは情報部隊として前線に立たされていたのに、こうしてみればえらく静かだった。反対に無線機をもう2週間も入れずに突っ走るような真似をしてしまったのだから当分国へは帰れないだろう。

「セルゲイ読んだか?今日の新聞。またペイカ下落したってよ。よかったな、行きがかりの教会でフリヴニャに替えといて」

「まあでも、ウクライナだって安全ってわけじゃないんだし、もっと言えば金か何かに替えておければいいんだけどな」

生活が苦しい点を除けば僕らの日々はあたかも戦争が終わったかのようだった。そもそも、出発の翌日、ナチスの戦車を迫撃し、段取っているさなかには歩兵に襲われ戦いに、おまけに本部からは冷徹な態度をとられたせいで僕たちはすっかり嫌になってしまった。初日で進路を大幅に変え、当初通るはずだった地点は敵の数が多いだろうとアイザックが推測したためことごとく逃げていくことになった。当然そんな状態ではもう国に顔が立たないだとか、戦争の行方がどうとか、気にする気も起らなくなっていた。

「デニス、これいるか?記録用のノート。30頁くらいあるぜ」

「ん?ああ。じゃあ貰うよ」

「ハハッ、結局一日も書かなかったなあ」

「フフッ、フフフ、ハハハハッ」

改めて言われてみると、自分たちのしょうもなさがよくわかり、皆笑いだしてしまった。

「そうだな、折角だし日記でもつけるか」

「よーし、そうだな。えーと...ウラジミール今日の日付、わかる?」

「あー、3月17日 土曜日だ」

「サンキュ。天気は、雪と。朝はもっと寝ていたかったのにレフの運転が荒いせいで目が覚めてしまった。タイガを見てるとデジャブの様に思える。ああそれと、レーションはミルクにつけて食べるとなかなかおいしかったけど、まるで吐しゃ物みたいだ」

「おおい、だから運転変わってくれって前から言ってるだろ」

「あー、あとなんか書きたいことある?」

「寝ているときにセルゲイの脚が俺の頭に当たったこと」

「ん。他は?」

「なら、ウラジミールがコーヒー2杯も飲んでたことも」

「はいはい」

まあこんな感じなんで、締めに明日も(・・・)同じだろう(・・・・・)と書いておいた。

 小さな火をおこしスープをかき混ぜる。

「今日は一日中雪が降っていたな」

「永久凍土がかさむよ、ほんと」

「今日はかなり寒いし、開けちゃおうぜ、コレ」

「ん、レフ。何処から持ってきたんだ、そのスコッチ」

「木箱のまだ開けずに入ってたんだよ」

「あーあ、いいんじゃないか。どうせ酒はなくなったってそれほど困らないんだし」

「そうだな、じゃあ使っちゃうか」

 コップに継がれたスコッチを飲むと、喉が熱くなり、やがて身体も温まってくる。

「アイザックは、戦争が終わったら何がしたい?」

眼鏡が結露で真っ白になってしまっている。ほんとにあれで視えているのだろうか。

「そうだな、私はひとまず大学に復学したいよ。医師免許も取りたいしね」

「大学かあ、僕も行きたいな」

「何を学びたい?」

「んー、まあはっきり決まっているわけじゃないのだけれど、小説を書きたいなって」

「小説かあ。そしたら俺が買いに行くよ」

「まあ、まだそんな具体的に考えてるわけじゃないけどさ」

「俺も読まされたぜ、あの本。えーと何だっけなあ」

「罪と罰?」

「そう、それそれ。俺だったら臆せず、理念に基づいた執行が出来たね」

「ほんとかあ?」

雪の寒さがまるで気にならなくなっていたその時、遠方に戦車が見えた」

「まずいぞ、皆。ナチス軍だ」

「えっ。どうする車は」

「置いていくしかないな、うっかりしていたがもうここはだいぶ国境近くだったんだ。ここを越えるとなると、溶け込むためにも直ぐに軍服に変わる服を用意しなければ」

「荷物は食料と最低限の物だけトランクに詰めて走れ!」

あわただしく用意をし、火を消し、夜の森を走り出す。戦争は再び僕らの前へ現れた。


~字余り~

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