運動エネルギー弾
イ)前提説明
ここに於ける弾薬とは、「戦場において、敵を無力化或いは殺傷することを目的として使用され、火薬或いはその他の手段によって投射され、弾頭の運動エネルギー或いは化学エネルギーによりその目的を達成することを目的に作成されたもの」と定義します。
※調子に乗って書いたらかなり長くなってしまいました。「こんなん読まんくても知っとるわ!」という方はお読みにならなくても結構です。
ロ)運動エネルギー弾
所謂「銃弾」は全てコレであり、又一部のミサイルと戦車砲から発射される徹甲弾もコレに分類されます。
運動エネルギー弾は、その名の通り運動エネルギーを以て敵を殺傷、無力化する事を目的とした弾薬です。
構造はとてもシンプルで、基本的に金属を飛翔に適した円錐状ないし矢状に加工したモノが使用されます。
その特徴として、後述する化学エネルギー弾よりも制作コストが安く、大量に使用でき、そして一発あたりの危害半径が小さいという特徴があります。
これはデメリットの様に感じられますが、逆に室内戦闘や市街戦に於いて、巻き添え被害を最小化したい際や、一つの目標に対して弾が持つ全てのエネルギーを投射したい際に有効です。
この特徴は、先に述べたとおり戦車砲から発射されるAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)や、APDS(装弾筒付徹甲弾)に於いて、敵戦車の分厚い装甲をその質量と運動エネルギーを以て撃ち抜く為に活用されます。
金属には極めて高い圧力で圧縮されると液体の様に振る舞う性質(ユゴニオ弾性限界の超過)があるため、どれだけ硬い金属版を以てしてもAPFSDSのダメージを無力化出来ません。
尚この際、APFSDSにはその名の通り安定翼が付いているのですが、ソレにより液化した装甲板の表面に安定翼の形が残ります。カッコいいですね。
装甲を侵徹する弾体は、マッシュルーム状に広がりながら装甲板を進行し、装甲厚に対して十分な長さがなければその場で停止、装甲を貫いた場合装甲内部で破片を撒き散らしながら暴れます。
尚、この際、鋼製装甲板に対してタングステン製の弾体なら大体850m/s以上で、鋼製の弾体なら大体1100m/s以上でこの流体としての振る舞いを行います。(因みに多くのAPFSDSの砲口初速は1600m/s前後です)
その為、弾体には一般にタングステンやソレより重い劣化ウランが使用されます。
その効果として、装甲の貫通のみならず、着弾時の衝撃と、貫徹(装甲を徹甲弾が貫通すること)によって生じた高温高速の破片が大量に発生し、乗員を殺傷することが出来ます。(劣化ウラン弾体の場合焼夷効果を発揮し内部の乗員を焼殺する事も可能ですが、副次的効果であり、又運動エネルギー弾解説の趣旨から逸れるので本文では解説しません)
ここで注意しなければならないのは、この様に流体としての振る舞いが見られるのは金属の特性によるモノなので、金属製でない装甲(竜の鱗等)に接触しても流体として振る舞うのは弾体のみであるため、注意が必要です。
因みにAPFSDSは、極めて高速で飛翔するため基本的に跳弾は発生しませんが、浅い角度で入射すると跳弾になる可能性がある為、弾着時に装甲に固着して跳弾を防ぎ、又飛翔を安定化させるためにアルミニウム製の風防が弾体に被せられています。
因みに、対戦車砲弾では無く、対人砲弾として用いられるフレシェット弾という代物もあります。
これは、筒の中に大量(8000本位)のダーツ状の小型弾体が入っており、近距離において、円錐状にフレシェットをばら撒くことにより広範囲を制圧します。(APFSDS程の弾速は無いので硬目標には効果がありません)
要するに「でかいショットガン」と理解していただいて結構です。
似たようなものにキャニスター弾(ぶどう弾)と呼ばれるものがありますが、これはフレシェットが球体に変わったものと考えて差し支えありません。(使用用途も同じです)
後もう一つ、銃(砲)弾としての活用以外に、対弾道弾用にも運動エネルギー弾は使用されています。我が国ではかなり有名(偏見)な、SM-3艦対空誘導弾がソレです。
弾道弾の弾頭(再突入体)は、大気圏に再突入しないとならないため、極めて頑丈に作られており、弾が自爆して破片を撒き散らす程度のエネルギーでは確実に撃破できません。
なので、キネティック弾頭と呼ばれる弾頭を直接衝突させ、再突入体を破壊します。
尚、この際のエネルギーは130MJ(TNT換算で31kg)であり、ほぼ確実に目標を撃破できます。
その他には、一般にバンカーバスターと呼ばれる地中貫通爆弾が、地下に存在する敵司令部を破壊する為に、運動エネルギーを活用して鉄筋コンクリートを6m程度貫徹します。
その原理は極めて単純であり、「高空から重くて細長い爆薬が詰まった鋼鉄の棒を落としたらすごく深く地面に刺さった」程度の原理であり、先に述べたような複雑な侵徹過程を踏む訳ではなく、純粋に物理で地面を殴り、その威力を発揮します。
厳密に言うとコレは以下に述べる化学エネルギー弾に分類されますが、その目的の達成の為に運動エネルギーを活用しているのでココで解説します。
元々地下司令部を破壊する目的で開発されたモノですので、機動部隊を展開させるのに躊躇する高脅威地下施設(ダンジョン等)を安全に制圧するといった使い方や、どうしても通常の手段では撃ち抜けない装甲や魔法障壁といった高耐久目標を「物理で殴る」事により無理やり貫通するといった運用が可能です。
尚、装着される信管には化学エネルギー弾の項で後述する遅延信管を使用します。
但し、運用に際しては、爆弾に運動エネルギーを付与するために高空を飛行せねばならないため、ご留意ください。
小口径弾の解説についてはまたの機会に致します。
まとめです
イ)この作品に於ける弾薬の定義だよ
ロ)運動エネルギー弾の説明だよ
APFSDS……戦車が戦車に使う弾だよ
キャニスター弾……大きいショットガンだよ
SM-3の弾頭……火薬は使ってないよ
バンカーバスター……ひゅーん!どかーん!
ハ) 一個後を見てね