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旅立ち

作者: しずく

これは、私が望んだことだった。


是が非でも家をでるために県外の大学を受験して、一人暮らしをはじめて…


全て、私が望んだことだったのに。どうして…どうしてこんなにも───


「寂しいんだろう…」


家を出ることを決めたのは高校一年生の時だった。理由は思春期っぽいもので、ただ家族と離れたい、それだけだった。


別に両親に虐待をされていたわけでもない。たぶん、ごく、普通の家庭。


ただちっぽけな私が日常生活の中で、夕食の時に展開されるニートの兄への小言や、狙ったようにテスト期間中に起こる夫婦喧嘩に嫌気がさして、漠然と家を出たい、そう思ったのだ。


その考えは、口に出すたびに固定観念のようになっていって。


受験勉強も本格的に始まってからは、合格できるように必死に突き進むのみで、深く考える時間もなかった。


それから、トントン拍子で事が進み、卒業、合格、アパート契約、となり入学式の前日に私がこれから住むアパートに父、母、私で寝ることになった。


狭いワンルームにダブルの布団セットをひき、当然三人も入る事ができず、結局私はフローリングの上で寝て、朝から背中と腰が痛くて、両親に文句を言ったりしてると式に遅れそうになって、バタバタ用意した。


それは毎日朝からドタバタしているいつもの我が家の光景だった。


スーツを着てみせても


「制服とあんま変わらんねえ」


としか言ってくれなかったけど、二人の目はとても眩しそうに私を見ていた。


それから三人で入学式に行って、終わってから別れのシーンでも、いつもみたいに軽く、両親も私も笑って、


「じゃあね、頑張るんよ!」


「わかってるって、ばいばい!」


とか言って、別れを告げて、部屋に入って鍵をおき、さあ何をしようかなと思って座って、自分以外誰もいない部屋を見たら。


急に胸が苦しくなって、あついものが溢れてきて。


ポタポタ、ポタポタ、奮発して買ってくれた高いスーツにシミができていって。


一緒に帰りたいとか、私が言っちゃいけないってわかってるのに頭のなかでガンガンサイレンみたいに響いてとまらなくて。


何か飲もうと思って一人暮らし用の小さな冷蔵庫を開けたら、これでもかというくらい、ジュースとか食べ物が入っていて、また、涙がとまらなくて。こんなに一人じゃ食べきれないよ、とか呟いてみたりした。


きっとこれは一時的なものだ、すぐなれるとかいって折角自分を落ち着かせたのに、父からメールで、


『お母さんがずっと泣いてるから、電話してあげなさい』


『それとお金に困ったら、すぐ言いなさい。

すぐに用意する。お母さんにはナイショで。』


と送られてきたときには、嗚呼、もう──


「台無しじゃないか…」


タオル一枚をびしゃびしゃにしてしまった。


折角、落ち着いていたのに。涙もとまってきたのに。


だって、母は、ずっと笑っていた。


「お父さん、あんたがいなくなるから、ずっとウジウジしてる」


とかなんかいって笑っていたのに。お母さんは寂しいって聞いても、また笑って


「まあ、しかたがないからね」


って言ってたのに。


結局、電話しても泣きそうになるから、あの服洗濯するときネット使った方がいいか、とか、どうでもいいことを聞いてすぐきってしまった。


それに、お父さん、そんなんじゃ娘がダメ人間になるよお金とか、アルバイトで自分で稼ぐよ、バカじゃないの、とか注意したいのに。


もう、二人とも近くにはいなくて。寂しくて。たまらなくて。






これは、確かに私が望んだことで。


ちっぽけな私は素直に感謝の気持ちも言えず、強がって寂しいとも言えないけれども。


雨が降って、桜の木が枯れてしまっている知らない道を一人で歩きながら、


しっかり生きていこうと、強く、決意したのだ。



親孝行したいです。

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