甘甘
再び現れたレアは、「甘~い菓子をな、用意してたもれ」と言い出した。
「いか程お入り用でしょうか?」とカルラが問えば、「たくさんじゃ。山のようにじゃ」と、まるで参考にならない返答をする始末だったが、カルラは『しばしお待ちを』と言い残し、数分後には、大量の菓子箱と数名のパティシエを連れて戻って来た。
この時ばかりは、俺もカルラの有能さに感心してしまった。
そして今、甘い香りのスゴイのなんの……。
10人掛けの豪華な食卓に、ずらりと並べられたスイーツの数々。
それらを次々に口へと運んでいくレア。
彼女の小さなお腹は、一向に満腹する気配すらない。
奇妙なことに、食べた菓子の体積は、明らかに彼女の胃袋の許容を上回っている。
まるで4次元胃袋だ。
レアの隣に腰かけて、俺は唖然としながら、この一部始終を眺めていた。
そこへ、新たに焼きあがったスイーツを携え、カルラが入って来た。
「どうぞ。ミルフィーユとか申す焼き菓子です」
食べ散らかして空になった皿を、片方の手でよけ、レアの手前にそれを置く。
屋敷の主自ら給仕とは、大層なもてなしだな。
「レア殿は、アスラに危害が及ぼうとすると、現れるのですね」
一段落ついたのか、動き通しだったカルラがレアに話しかける。
「……せっかく作り直したモノを、壊されとうはなくての」
ちら、と俺のほうを見る。
作り直した? 俺を?
自分のことなのに、どういうことだかさっぱりだ。
「やはり、僕が初めに接触したアスラは、まがい物だったのですね。あの時、転がっていたのはその残骸で、全裸でいたアスラが本物……つまり、アスラはあのサボテンの中で、作り直されていたのですか?」
全裸?……俺の脳裏によみがえる醜態。
「そうじゃ。そちらのせいで、ちと早う出してしもうたが、五体満足で生まれて良かったのぉ、アスラ」
レアが俺の頭をよしよしする。
俺はもう、どうリアクションしたものやら……。
「アスラは知らぬのでしょう?」
カルラが思わせぶりに一息おく。
「自身の体、魂、そのほとんどを、あなたが再生させたことを……」
再生?
言葉の意味は理解していても、俺には、その言わんとするところが見えない。
「それ、どういうこと?」
俺の問いかけに、レアは素知らぬ顔で、4つ目のミルフィーユをほおばっている。
ああ! パイ生地をそんなにボロボロ落として!
「まあ、僕のは、憶測でしかないので、真意は、レア殿に伺わねば分からぬの、です、が……」
カルラの語尾が途切れるのも無理はない。
俺達の視線の先では、レアが胸元から膝にいたるまでパイ生地まみれになっていたのだ。
そして、最後のひとつを食べ終わると、ふわりっ、宙へと浮かびあがった。
千枚の葉を意味するミルフィーユ。文字通り、今、千の木の葉(パイ生地)が舞い散る。
「「うわっ!」」
また不覚にもハモッてしまった俺達。
「ほんに騒がしいのぉ」
くすくすくす。
さも可笑しそうに笑いながら、レアはカルラの元へ降り立った。
「さて、馳走の礼に、そなたの疑問をはらしてやろうかの」