【その2】 入学準備中
「アスラ様、そろそろ休憩なさいませ。レモネードが冷えておりますよ」
剣の素振りを止め、振り返る。
「そう、だね。ありがとう、ミヨ」
「どうぞ」
メイドの格好をしたミヨが、グラスを差し出す。
「すごい汗ですわね。湯あみの用意をさせておきますわ」
「いや、いいよ。昼飯まではぶっ通しでやるから。……うん、美味しい。ありがとう」
空になったグラスをミヨへ返すと、俺は汗を吸って重くなった上のジャージを脱いだ。
「御熱心なのは大変結構ですが、あまり御無理なさいませぬように。先はまだ長うございますから」
そう言い残して、ミヨは広大な森の奥深くにたたずむ屋敷の中へ戻っていった。
「……」
先は長い……というか、先が見えない。
「とりあえず、この剣を使いこなせるまでにならないと」
俺は剣を握り直した。
「そのとおり。でないと、僕が恥をかくはめになる」
出た。疫病神め。
フリル付き白ブラウスに紺の細身ズボンなんかで、品のいいお坊ちゃん風を装ったって、俺は騙されやしないぞ。
「露骨に嫌な顔だね、アスラ」
「……もう、俺みたいな劣等生の世話なんか辞めて、他の奴の面倒みろよ」
そうすれば、双方ストレスフリーで解決だ。
「アスラが神獣憑きでさえなければ、とっくにそうしてるさ。でなきゃこの僕が、愚鈍で無能な人間の相手なんかするわけがないだろ」
さらりと酷いことを言ったな。
「一週間後には学校始まるっていうのに……傍から見たら、珍獣憑きの能無し」
カルラは憂い顔で深いため息を吐く。
「己の剣すら、未だ身に納められないときている」
「うっ、痛いところを……」
俺の手にある剣……これを体内へ取り込み、自在に具現化させること。
元いた世界へ帰るための、これが最初のハードル。
「仕方ない。僕が直々に手ほどきしてあげましょう」
「え?」
カルラの手元から、一筋の輝く光剣が現れる。
「ちょっと待て! その申し出は、素直に喜んでいいのか?!」
「……さあ?…」
「さあって?!」
かくして、地獄の一週間のはじまりはじまり。