異世界へ
カルラから聞いたところ、妖精さんの正体は、珍獣という生き物だった。
彼らの住むハザマという世界に、本来は生息しているそうだ。
そこは、珍獣のほか、魔獣や聖獣、神獣といった、俺達人間が神や仏、精霊だの、妖怪だのと呼んでいるものたちが実在する異世界らしい。
ハザマと俺達の住む世界は、ゆる~く繋がっているそうで、迷い込む獣は結構な数になるという。
そんな迷い獣の保護をするのが、カルラの任務のひとつ。
ただ、今回俺が目を付けられたのは、珍獣をはべらしていたからではない。
獣の魂を宿した人間…獣憑き…を捕縛するっていう、もうひとつの任務の為だった。
どういう経緯で獣憑きになるのかは分からないが、人間の宿している獣の魂は本体の一部らしくて、ハザマでは、魂の一部を無くした獣が暴れる騒ぎが頻発……そんな荒れ狂う獣を鎮めるために、獣憑きを見付けては捕まえて、獣の魂と人間の魂を引き剥がしているらしい。
さて困ったことに、俺、その獣憑きなんだって。
しかも、前例のない神獣憑き。
このまま放置し続ければ、獣の魂に取り込まれて発狂の末、1年後には死亡確定と脅されては、ハザマで魂分離の儀式『獣王の試練』を受ける他、選択肢はない。
ただ、獣の魂を分離するには、俺自身も鍛錬がいるらしく……ハザマで運営されている修行用の学校へ、当分の間は厄介にならないとダメらしいんだ。
はあ……。俺、これから、どうなるんだろう……?
縁側でひとり、サボテンに戻ってしまったレアを抱え、行末を案じている俺の前に、すっかり毒気の抜けたミヨがやってきて声をかけた。
「あの……こちらの世界には、擬似魂を実体に残しておきます。無事、ハザマよりお戻りになられましたら、擬似魂の記憶を引継ぎ、再びこちらの生活を送れますから、ご安心を」
そう……俺の体は、ついさっき、何事もなかったかのように大学へ出かけて行った。
そして霊体の俺は、ハザマへ着けば実体化してくれるらしいが……。
「ご不安でございましょうが、ハザマでは、私が主に代わってお世話をいたします故、なんなりとお申し付けくださいませ。先刻の無礼を償うため、私、誠心誠意務めさせて頂きますわ」
ミヨは本当にすまなそうで痛々しい。
「うん。よろしく頼むよ。でも、俺もう気にしてないから。大丈夫だよ」
「……本当に、申し訳ございませんでした」
いや、もうホントいいのに。
ミヨが暴走したのも、きっと、カルラの思惑の内だろうって気がするから。
そのカルラは一足先にハザマへ戻ってしまった。
「帰る準備、整ったよ~」
リノが上空から呼ぶ。
見れば、空に大きく歪みが生じている。
その中心へ、俺達は呑み込まれていった……。