死神の訪問
長い漆黒の髪を足元に絡みつかせながら、ミヨは空から降りてきた。
膝丈のワンピースに、無数に散りばめられている純白の花びらが、風に舞い踊る……さながら天使だ。
「アスラ様、どうか1回、お亡くなりになってくださいませんか?」
全く表情なく紡がれる言葉に、俺は耳を疑う。
「え……?1回、何て?」
聞き間違いでなければ、『死んで』って言われた気がしたんだが…。
「ですから、1回、試しに息の根を止めさせてください」
殺す気!?
「ミヨ、あのさ、人間は1回死んだら終わりなんだぞ。お試しとかないから。絶対!」
「……細かいことを……」
細かいって……。何がどうなってるんだ?!
可憐な天使が、冷酷無比な死神に豹変してるじゃないか!
そうだ、リノは?! 俺は救いを求め、頭上を仰いだ……いない?
「リノでしたら、邪魔できないように、はじめに遠くに飛ばしましたから、安心です」
準備万端。ミヨは、冷ややかに獲物を見据える。
勿論、獲物はこの俺!
「今朝、面白いことを、リノと話されてましたでしょ。ずっと冷凍の暗示をかけていたらどうとか。それで、思い付いたんです。極寒の冷気を脳に錯覚させれば、脳は停止するのではないかって。体のほとんどは脳の支配下……脳からの命令がなければ、自発呼吸も無理かなって」
窒息死狙いか?! 断固拒否せねば!
しかし、どうやって? 俺は口を閉ざし、思考を巡らせる。
「すごく暗示にかかりやすいんですよね、アスラ様って。潜在能力ゼロに等しい一般人レベルですよ。なのに、魂引っ張り出せないなんて……! あり得ないんですよね!」
全然、話が見えない……え? 魂がどうしたって?
「しょうがないから、死んでもらって、魂出たところを捕まえようって思うんです。もし失敗してもターゲット死亡なら、任務終了にして帰れますし……。これで、他の女にうつつをぬかす暇もなくなります」
一方的なミヨの話は、俺の理解を待っていてはくれず。見れば、ミヨの掌から、光の粒子が溢れ、迷うことなく俺を包みこもうと向かって来た。
ああ! まだ何の策も浮かんでいないのに……!
「アスラ様、お覚悟なさいませ」
輝く粒子の隙間から、死神が鎌を振り下ろそうとしている。
「無理無理! 覚悟なんてできるか!」
俺はあらん限り叫んだ。無力な自分は吠えるしかない。
けれど、もはや万事休すか?! との予想に反して、何と事態は急変した。
ボンッ!!!
突如そそり立つ……壁?
ピンク、の?
「レア……?」
俺は眼前を見上げて呟いた。
「な! なんてこと! サボテンが巨大化してる!」
驚愕したミヨの声が響く。
「術が無効化されていく?! このサボテンのせいで?!」
慌て混乱したミヨの姿に、俺は生きていることを実感した。
「レアが……助けてくれたのか……?」
ほっと気の抜けたその時、パンッと勢いよくレアが弾けた!
……悪夢だ。