昼食
クラス替えについては後日改めて……というより、無期限延期だ。
考えてみれば、俺が下位脱落すると当然ユイカがついて来る。早々に2名も落伍者を出したとあっては、カルラの評価も下がろうというもの。そんなことをしでかしたら「そのヘタレ根性叩き直す!」とか言われて、あの短気に何をされるか分かったもんじゃない。あそこでカルラの顔見て、そこに運よく気付いた俺は、赤点続きで強制落第させられる日まで、とりあえず頑張ることに決めた。
そして結局、当初のマアサの提案どおり学食に赴き、俺はユイカとマアサと白い円卓を囲んで、大人しくカレーを食べている。ちなみにマアサはサンドウィッチとポタージュスープ。ユイカは……
「何で、ユイカ、お誕生日ケーキなのよ?」
苺ショートケーキ直径24cmのホール丸ごとを、昼食にたいらげようとするのだから、一般人からすれば衝撃だろう。俺としては、1個で足りるのかどうかが心配だ。
「しかもカルラ君から直々に届けてもらうって、どういうわけ?」
マアサの関心事はそこか。
カルラが教室に来ていたのは、ケーキ弁当の配達のため。学食にはデザート系は置いてなかったことに俺達が出かけた後で気付いたカルラが、菓子主食のユイカのためにわざわざ持参してくれたわけだ。
「はらははほくへつじゃはらの」
口いっぱいにほおばったケーキのせいで、発音が聞き取りにくい。まったく……食べるか話すかどっちかにしろよな、この幼稚園児め。外見変わっても、見た目子供のときと同じ行動だからなあ。はあ……。別な意味で目立ってるよ。
「特別って言った? 特別何? お気に入りってこと? ねえ!」
菓子を食べる方にユイカは専念したらしく、マアサの言葉にはそれ以上答えようとしない。自ずと矛先は変更するわけで……。
「アスラはどう思う? カルラ君て年上が好みなの?」
え、と。確かマアサはカルラと同い年なんだっけ。
「いや、好みというか……単純に能力に応じた扱いって感じだと思うよ」
俺とレアとじゃ、態度が雲泥の差だから。
「能力? できる女が好きってこと?!」
は? 恋愛脳で訳すと、そうなるのか?
「いや、だから、そういう特別な感情はなくて、どっちかって言えば、むしろ苦手な部類に見え……」
「苦手?! 誰にでも爽やかで優しいカルラ君が、苦手そうにしてるの?! それって、めちゃくちゃ意識してるってことじゃない!」
は?! それは拡大解釈ならぬ完全に誤訳だ。
その基準でいけば、やつからの嫌味と暴力でズタズタの俺なんて、溺愛レベルになってしまう。
「でも、そうなると、カルラ君はユイカ。ユイカはアスラ。アスラは、あたしが好きってことで……やだ、四角関係?!」
「ごほっ! だ、誰が誰を何だって?!」
マアサの妄言のせいで、口にしたコップの水を逆流しそうになる。
「ごめんごめん。冗談冗談。アスラはユイカだね」
その訂正も間違ってるぞ。
「ちょっと待て。俺達は別にそんな……」
「あたしの為にも、ユイカしっかり掴まえといてよね」
「いや、だからそんな事実はどこにも……」
「分かってる。分かってますって。あたし達は修行中の身。勉強第一だからね。表立っては恋愛禁止。そういうことだよね!」
「うっ……いや、まあ、もういいよ、それで」
恋愛脳には勝てん。
ちょうど始業開始10分前のチャイムが流れたとこで、この話題から俺は白旗退散した。
俺には、急ぎやらなければならない仕事もあるしな。
授業に遅れないよう、ユイカの食べ散らかした後片付けをしなければ。




