2時間目は美術
さて、2時限目。
俺達新入生は、4人掛けの木製作業台が複数配置された、美術室のような教室へ移動した。
1時限目に引き続き同じ先生だ。おかっぱ頭と黒縁眼鏡が印象的な長身の女性。歳はうちの母親くらいかな? まあ、つまりおばさん。
席に着く前に、各々教壇に積み上げられた白い長方形の物体を受け取っていく。
「紙粘土か?」
「紙粘土ね」
同じ会話がささやかれる。全員一致で、これは紙粘土ということだ。
普通に粘土工作なら得意とするところなんだが……。
「皆さんの世界にある紙粘土に見た目そっくりですが、これは、霊獣の元です」
やっぱり。ただの紙粘土なわけないよな。
霊獣工作とか……俺、絶対無理だろ。
「作業時間は本日中。てこずる者もいるでしょうが、根気よく形にしていきましょう」
どうしたものかと、とりあえず、手にとって揉んでみた。うん。感触も紙粘土だ。形にはできそうだが、さっきのウサギみたいに動くようになるかは疑問だ。
個人戦では、おそらく惨敗だろうな俺。
となると、単位不足で延々留年地獄か? どうすんだ、俺こっちに永住か?
台の上で粘土を転がして丸めながら、俺がネガティブに浸っているところへ、教室全体にどよめきが……。
「!?……クッキーマン?」
俺の横で小さなクッキーでできた人形達が、輪になって踊っている。
「良い出来じゃ。食べてしまいたいくらいの出来じゃ。そう思うであろう、アスラ?」
「う、うん……そう、だね」
「可愛い! めっちゃラブだよ、それ。……にしても、ユイカ仕上がり早すぎ!」
マアサは感心しきりで、愛らしくクルクル回るクッキーマンに見入っている。
それは、マアサに限ったことではなく、先生含め教室中が一様に衝撃を受けていた。
「さすが、首席取るやつは違うな」
「ほんと、さっきのウサギといい、別格だね」
事実、首席は俺だが……もうユイカでいいよ。俺は何かの間違いだ。そうに決まってる! 身の丈に合わないポジションでは成果もでないだろう。
2時限目にして、己の未熟を痛感した俺は、クラス替えを申し出る決意をした。
◇ ◇ ◇ ◇
ユイカ以外に紙粘土が活動開始することのないうちに、昼休みになった。
俺はマアサの学食への誘いを断り、担任の元へ向かうことにした。
思い立ったら、即行動だ。
俺はAクラスの教室への階段を駆け上がった。
「おや、アスラ君。授業はどうした? おお、もう飯の時間か」
「あの、俺、相談が……」
机にどっかと腰を下ろした担任が振り返って、俺を見る。そのでかい背に隠れた死角から、別の声が俺を出迎えた。
「相談? 僕には何の断りもなく?」
「げ! カルラ! どうしてお前がいる?!」
「え? カルラ君? きゃっ、本物? ユイカの言うとおり付いてきて正解だったね」
俺の脇をすり抜けて、マアサとユイカが乱入してきた。
そして、きょろきょろ不安そうに周りを窺うマアサ。
もしかして、ミヨがいないか警戒してる?
「ああ……。マアサには敵意向けないように、そこのユイカが頼んでくれましたから、今後ミヨのことで気に病むことはないですよ。そうでしたよね、ユイカ」
「ほんとに?!」
「そうじゃ。深く感謝いたせよ」
「するする。大感謝だよ~!」
「むむっ! 小娘、気安くわらわに抱きつくでない! アスラ、こやつを早う何とかせい」
マアサのハイテンションに辟易するユイカが面白いので、これは、少し放置しておこうか。
しかし、困ったな。完璧出鼻を挫かれた。




