【その6】 1時間目は体育
本日最初の授業は、全クラス合同の実践訓練。
マアサは、昨日レアの毒気に当てられた後遺症もなく、元気そうだったので安心した。
彼女の記憶からはレアに出会った部分は消され、俺のつきそい中に疲れて眠ってしまい、そのままリノに抱えられて家路についたことになっていた。
「くそ! またダメか!」
俺の腕をすり抜けて、茂みの奥へ悠々と走り去る獲物の短い尻尾を見送る。
「ウサギ一匹捕まえられぬとは、情けないのぉ、アスラ」
誰もいないはずの真上から、木漏れ日と一緒に浴びせられる声。
「……比べて、お前は大量だな」
小鳥の止まり木ほどの、細く伸びた複数の枝に体を預けたユイカの周りを、ハート目になった数十匹のウサギの大群が跳ね飛んでいる。
「少し分けてやってもよいぞ」
「……いいよ。貰ったところで、すぐ逃げられるのがおち」
ウサギに模した霊獣を捕まえるには、霊力に頼る他ない。この授業は、霊力の実践訓練なのだから……。腕力にいくら自信があったところで、何の使い道もないのだ。霊力の劣る者は、霊獣を手で押さえておくことすら難しいのが現実。
そう、現実は俺に厳しい。
実技では霊力を駆使するものばかりなのに、俺にはそれが、はなから備わっていない。
入学前の特訓でも、成果0だったし……。
「これは、あたし達がダントツの1位ね!」
ドサッ 背後で落下音。
振り返れば、バッテン目のウサギが十数匹、透明な縄にグルグル巻きにされて転がっていた。その縄をマアサが締め上げている。
この俺も世話になった透明な縄が、マアサの武器。
縄といっても、鞭のようにしなりもするし、ピンッと張って如意棒のようにもなる。そして、他にも秘密の機能を追加開発中らしい。
マアサのように、ここの生徒は皆、鉄の剣をオリジナル武器にレベルアップさせているのだ。
「……にしても、サボってないで1匹くらいは捕まえなよ、アスラ。クラス単位で集計だからって、ユイカに頼りっきりじゃあ、自分のためになんないぞ」
ううっ……俺の霊力事情を知らないマアサに、サボりと決めつけられ叱責される。
「好きでサボっておるわけではないぞ。アスラの霊力は安定しておらぬでの。仕方ないのじゃ」
いや、0ってことで、むしろ安定はしているのでは……?
「そうなの?……また鉄の剣に戻ってるから、どおりで、おかしいと思ったんだ。1度変化した武器が初期化されるなんて……」
そう、俺の武器も、諸刃の剣に変貌した筈だったのだが、気付けば何事もなかったかのように、鞘に落ち着いていた。
あの時は100%レアの仕業なので、ノーカウントってことだと思われ……。
「まあ、あたしの足、引っ張らないようにしてよね」
「足りぬところは、わらわが補うでの。そちの心配は杞憂じゃ」
レアは放たれたウサギの半数近くを手懐けて、十分すぎるほど補ってはくれているが……つい昨日、担任うざいから『もうや~めた!』って、関係者の記憶操作してユイカの存在消去した、サポート放棄の前科持ちだからな。またいつ投げ出しても不思議はない。
ピーッ! そこへ終了の合図が響き渡る。
すると、森を形作っていた景色は消え去り、代わって現れたのは、授業のはじめに集合した体育館だった。
その場にいた全員の視線を独り占めにする俺達。
ほとんどが、ユイカの引き連れたウサギの多さに驚いたものだったが、手ぶらな俺に首を傾げ、不思議がる少数の視線もあった。
どうして俺、上位クラスにいるんだろう?
最下位クラスでコソッとやっていきたかったのに……。




