個別の課題
「マアサ、大丈夫かな?」
俺は応接室のソファで眠るマアサの横顔を、すぐ側に膝をついて見詰めていた。
レアに無理やり屋敷へ戻された俺とマアサだが、屋敷に着いた途端、意識を失くして倒れたのは、体調不良の俺ではなく彼女の方だった。
「あの学園の者は皆、獣を宿しておるでな。わらわの気に当てられたのじゃろう。心配せずとも、直に目覚める。それよりも……」
ガラスの天板を乗せたテーブルを挟んで、対面の一人掛けソファに寛いでいたレアの腕が、予期せずして俺の首筋に伸びて来た。
ぐいっと下あごを引っ張られた俺は、ガラスの天板に乗り上げたレアの不審そうな瞳にぶつかる。
少し体勢を崩せば触れてしまいそうな吐息の誘う距離……。
「うわ!」
意気地のない俺は後方へ体勢を崩した。
?……意気地があれば、どうだというんだ俺。
「アス、ラ? どうも様子がおかしいのぉ。戻ってから、まともにわらわと目を合わせておらぬであろう? やはり、その女と後ろめたいことをしておったのじゃな」
「え?! ち、違うって! そこ蒸し返すか?!」
「蒸し返すもなにも、まだ解決しておらぬわ。その慌て具合が、寧ろ一層疑わしいくらいじゃ」
「ええ?! だから、これはその……だってそうだろう? 10歳くらいの女の子が急に大人に変わってたら、ちょっと対応に困るだろう?」
あれ? 俺は自分の言葉にひっかかる。俺の動悸発熱めまいの原因って、つまり、そういうこと?
「ん?…そうかのう?」
「そ、そうだよ! そもそも本当にレアなんだよな? ……どうして突然大きくなったんだ?」
「ちと菓子を食べ過ぎて太ったか? 菓子は高カロリーだからのぉ」
「おいおい、骨格伸びるのは太るって言わないだろ。成長だろ」
「そう、真顔で返すな。面倒なやつじゃの」
どっちが面倒なんだ!
「学園に子供の姿では入学できぬというでな。しかし、これでは容姿も魔力も目立ち過ぎるので、ユイカを模した擬似体でカモフラージュさせておいたのを……あの痴れ者のせいで台無し…とんだ興醒めじゃて……仕置きに、魂ごと食ろうてやればよかったわ。せっかく良い出来じゃったのに、アスラもそう思うであろう?」
え? どこに同意求めてる? 食べるとこ?
「いや、それは、どうかなあ?」
話の全体像がクリアにならないので、とりあえず曖昧な愛想笑いでかわしておこう。
「ここは、しっかり合いの手を打たねばならぬであろう。まあしかし、やっと挙動が落ち着いてきおったか。ほれ、いつまで床を暖めておるつもりじゃ? そろそろ、おやつの時間であろう?」
確かに落ち着いてきた俺の心臓が、このレアの言葉で再び大きく跳ねた。
やばい! 咄嗟に‘今日のおやつはミルフィーユ!’って言ったんだった。
嘘だとばれてみろ、お仕置きで俺こそがパクリといかれかねないぞ。嫌味の1ダースくらいは我慢して、早いとこカルラに頼み込まないと……!
俺の心の叫びが届いたのか、カルラの帰宅を知らせる為にミヨが扉を叩いた。




