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      カルラの困惑

(いったい、これはどうしたことだ?)


 壊滅に等しい惨状の教室を前に、カルラとリノは足を踏み入れるのを躊躇していた。見る限りすべての窓ガラスが吹き飛び、風通しも見通しも良好になった空間。廊下には大量のガラス片と共に教室内の備品が散乱している。


「ありゃ~! 派手にやらかしてますね~。カルラさま~ちょっと、中見て来ます~。誰か壊れてないかな~っと……」


 いつもどおり間延びした口調で、リノは楽しげにガラスを踏み砕き進んで行った。


「おそらく、魔力の暴発…? 保安員が駆けつけていそうなものだが……おかしなことに、学園で感知できた者は一人もいないようだな」


 漠然とした違和感の正体を暴こうと、カルラは思考を巡らすものの、解決の鍵は容易に落ちてはいなかった。何故か答えが浮かぶ直前で消えてしまう……そんな奇妙な感覚に陥っていた。


「カルラさま~みんな帰っちゃったみたいですよ~。ネイズちゃんが~転がってるだけです~。こら~昼寝してないで、管理者への~報告義務を果たしなさ~い」


 バシバシ打ちつける音に続けて、うめき声が重なる。


「リノ…。壁や床に、無数の亀裂の入った爆心地で、さすがに昼寝はないだろう?」


 一応つっこんでおいたカルラの足元で小さく渦を巻いた風が、その渦を広げながら、無惨に瓦礫と化した物を一掃していく。渦に揉まれ粉砕された物質が、逆回転を始めた渦の頂点より吐き出されると形を成し、元の教室を再構築していった。


「ネイズさん、何があったんです?」


 仕事を終えた風を見送ると、次にカルラはリノのお陰?で意識を取り戻したネイズに、事の次第を聞かねばならなかった。


「いやなに、わしとしたことが、間違って翼竜をここへ呼び出してしまっての……面目ない」


 ばつが悪そうに頭を掻き、ネイズは逞しい巨体を小さくした。


「まったく~! ネイズちゃんは不器用なんだから~相変わらず~召喚場所ずれるんだね~」


 ケラケラと軽く笑い飛ばすリノの傍らで、カルラは首をかしげる。


(召喚ミス?! では、教室を破壊したのは翼竜なのか? しかし、ここの十数倍はあろう翼竜が現れたにしては、損壊が軽いように思うが……そもそも、危険な翼竜を呼び出す正当な理由がないだろう)


 抱いた疑問を提示できぬまま、カルラはこの話題を眠らせた。


 ネイズによれば、二人は無事課題を済ませ帰宅したとか……それならば、カルラとリノも管理者として一旦屋敷へ戻ることを優先させねばならないのだが…ただ、この違和感はどこからくるのか? 見えぬ糸に操られている不自由な心地がぬぐいきれない。


「さあ~て、ミヨに頼んで~屋敷に向かいますね~」


 リノの指が空をはしり、ミヨへと伝令を飛ばす。


「屋敷に帰った二人とは誰だ?」


 カルラは困惑していた。疑問に思うはずのないことに、疑問を投げかけたことに…。


「え?…それは~……」


 答えが消えていく…意思に反した強制的な喪失……。




「お帰りなさいませ、カルラ様」


 音を無くした彼らを、満面の笑みでミヨが出迎えていた。

 

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