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      アダルトチェンジ?!は反則です。

「あれ? そういえば、レアは?」


 緊急事態だ! あいつを野放しにしては大変なことに!……なるに違いない予感が、俺の神経を倍速で研ぎ澄ましていく。


「レア?」


 明らかにソワソワし始めた俺を、きょとんと見返すマアサ。


「いや、違った、何て言ってたっけ? え~と……そう! ユイカだ。ユイカ、今何処にいるんだ?」


「……おそらくだけど、担任と一緒なんじゃない? 何かやけに気に入られてたわよ。是非、嫁にとか言われてたし。本気かな? あ、コラ! まだ寝とけって言ったでしょ!」


 マアサの制止に従ってはいられない。ボロが出る前に身柄確保しなければ!

 いかし、いったいどう展開したら嫁とり話に繋がるんだ? もしや時すでに遅く、手遅れなのだろうか……。


「俺、大丈夫だから、ほら、どこも違和感ないし」


 湧き上がる不安を振り払う意味合いも込め、大仰に両手を広げて健全をアピールする。そして、ちょうど足元に揃えられていた自分の靴を履いて、出口へ向かった。

 マアサに腕を引かれるが、非力な少女が男の腕力に敵うわけもないので、俺は歩みを進めた…が…?


「コラ! 安静にしてろっ!」


 突然だった。

 怒気をはらんだマアサの声と同時に、半透明な細い糸状のものが俺の体をぐるぐる囲ってきた。またたく間に拘束完了された俺は、力任せに後ろに引っ張られる。


「な、何だ!? ちょ、待っ……やば! 転ぶ!」


 体を反転させる余裕もなく、俺は元居たベットの上へ後ろ向きに勢いよく倒れこんだ。

 全身に巻きついていた…縄? いや鎖?…の束縛は消えたようだったが、俺が倒れた拍子に閉じたまぶたを開けると、追い討ちをかけるように、マアサが俺の両肩を押さえつけてきた。


「まだダメ! 分かった?……返事は!」


 どうやったのかは不明だが、一連の所作はマアサによるものらしかった。いとも容易たやすく行動を封じ込められては、俺の取る選択肢はひとつ……。


「……はい」


 しぶしぶ承諾する。とりあえずは従うしかない。強行突破は止めて、説得に切り替えよう。


「分かれば、よろしい」


 大人しくなった俺に安堵したマアサは、鬼の形相を解くと、目を細めて満足げに笑った。その表情は意外にやわらかく可愛らしかったため、不覚にも俺は説得の言葉を忘れ、しばし見入ってしまう。


 そんな呆けた俺を覚ますべく、バンッ! と扉を思い切り叩きつけ、誰かが部屋に押し入って来た。


「アスラ!! 帰るぞ! 支度いたせ!」


 反射的にマアサ越しに戸口へ視線を向かわせる。この声の主は……!!


「レ……レア!? え?!」


 いや……でも、随分と大きくなってやしないか?!

 月色に輝きを放つ銀の髪、宝石のように透きとおった柔肌、満天の星を宿した何者をも捕らえて逃さない瞳、優雅に薫る肢体……。

 先の夢にた姿そのままだ。

 夢の乙女は、レア、アダルトバージョンだったのか?!


「……わらわの目の届かぬ隙に女を連れ込むとは……いい身分よのぉ? アスラ」


 凍てつく空気が俺へと浴びせかかる。

 おや? これは……ベッドに横たわった俺へ、マアサが覆いかぶさってる構図になってやしないか?


「ご、誤解だ。これは、たまたま……」


 実益も得てないのに修羅場体験なんて、罰ゲームすぎる。

 マアサは未知との遭遇に魂ごと持っていかれているらしく、放心していた。俺は期せずしてゆるんだ拘束を脱すると、再び立ち上がった。


「ほお。たまたま寝台にて、じゃれあっておったと? そう申すか?」


 突き刺さる嘲笑に、何故か鼓動が早鐘を打つ。俺、発病?!


「じゃ、じゃれ? いや、違うぞ。むしろ、事実は真逆で……」


 弁解をしようにも、うなぎ上りな体温のせいで、理論的思考が阻まれる。

 これが、似非えせ修羅場の成せる技なのか?! 


「まあよい。続きは帰ってからにせい」


 熱に浮かされフワフワする頭のせいで、遠のいていくレアの声。

 ゆらゆらと景色までがゆがんで……。


 全然大丈夫かと思ってたけど…これは、例の魔具破壊による後遺症、発動かも?!


 真の理由は至極単純。ただ、鈍い俺が自覚するには困難な事案であった。


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