お伽話な場所
「二人とも、続きはここを出てからにしないか?」
意を決して提案してみたところ、思いのほか簡単に、二人の関心を集めるのに成功した俺。
「あたし、やってみたけど……手応えなかった。結界みたいのがあって、すり抜けるのは無理っぽいよ。アスラはどう?」
マアサは既に離脱を試みていたらしい。なんたる早業!
「そう、だね。打つ手なしだな」
課題クリアのために役立ちそうなスキルは自分にはなくて……とは言えない俺。
「そっかあ、残念。で、あんたは?」
あれ? 何かマアサが仕切りだしてるな。
「マアサとやら、わらわのことは、ユイカと呼びや」
レア、あくまでその設定通すんだ。……となれば、俺もユイカって呼ぶべきなのか?
「ユイカ、ね。了解。で、あの女も従えられるユイカには、勿論何か策があるんでしょうね?」
マアサはどうもミヨの件は、信じていないらしい。まあ当然な反応か。
この世界を束ねる程の一族が使役する獣に、入学したての雛っ子が敵う筈がないからな。
「無論じゃ。しかし、わらわが片付けてしもうては、そちらの為になるまい?」
「は? どういうこと?……できないなら、できないって言ったら?」
「ん?……誰ができぬと申した? そなたの耳、いや頭か? 少々病んでおるぞ」
「病んでる?! どっちがよ!」
紛争勃発しそうになるのを、俺は慌てて止めに入った。
「待った待った! どっちも病んでないから。レ、いや、ユイカ、頼むよ。担任も3人協力するように言ってたろ。それにほら、ずっと閉じ込められてたら、おやつに間に合わないぞ」
レアは‘おやつ’という単語に敏感に反応する。こんなに釣れやすいのは、幼稚園児並みだろう。
「なんと、それは一大事じゃ。一刻も早くこの竜の腹より出て、帰らねばな!」
途端にやる気みなぎるレアの言葉の、聞き慣れない単語を捉え、俺は聞き返した。
「竜の、腹?……竜って、それ、ドラゴンのことか?」
俺的にキング オブ、空想の産物、の? しかも腹の中という、何ともメルヘンな状況!
「本当に?! 教室ごとあたし達、竜の体内にいるってわけ? どんだけデカイのよって話じゃない!」
マアサは半信半疑な様子だ。
「結界ごと竜もろとも破壊しても良いのじゃが……」
戸惑う俺達をよそに、レアは思考を巡らし行動を起こす準備にかかる。
「この使役獣、おそらくはあの男の所有であろうから…殺めては後々アスラの災いとなる、か?」
俺の事を気にかけてくれているらしき言葉は、珍しくまともだ。
困らせて楽しむために学園についてきたのかと、思ったりもしたが、案外、力不足の俺を心配してくれているのだろうか?
「それはそれで面白そうじゃの」
くすくす。小悪魔な笑みをこぼすレアを前に、俺の妄想はあえなく終わりを迎えた。