お守り開始?!
突如、シャンシャンシャンシャンと、鈴の音が、けたたましく部屋中に鳴り響いた。
耳を塞いでも、防ぎきれない大音量に、俺の鼓膜が悲鳴をあげる。
「新入生が到着します。ゲートを開放してください」
部屋の隅にある木彫りの熊から、女の声が新たな到着者を知らせた。
「了解。…アスラ君、後ろ、気を付けておれよ」
ネイズと名乗った、自称俺の担任の言葉に、背後を振り返ってみると……。
「うわ!」
朱色の塊が俺の腕に落ちてきた。
お、女の子!?
ずっしりくるかと思いきや……まるで実態の感触が得られない。
少女は戸惑う俺の腕を離れ、およそ重力を感じない速度で地上に降りた。
「Aクラスへようこそ。君もカルラ殿のところであったかな?」
え? カルラの?……う~ん……見覚え、無いな。
華奢な肩できっちり揃えられた黒髪に、少し垂れめのクルリとした愛嬌のある目元。歳は……俺と変わらないくらいに見えるが、どうだろう?
「ほう。そちが世話役か? なかなか楽しき余興であったぞ」
おや? この口調は……誰かさんにそっくり。
「もうしばらく、あのままでもよかったのじゃが、アスラが行ってしもうたからのぉ」
そっくりどころか、本人だろ!
屋敷で菓子食ってるんじゃなかったのか!?
「レア……だよな!?」
目にはまったくの別人に映るが、そうとしか考えられない。
つい、勢いで肩に手を置いてしまったけど、違っていたら、セクハラかも?
じっと真顔を返されて、不安がよぎる。
「今は、ユイカじゃ。そなたの曾祖母さんのな。ほれ、よくできておろう?」
くるりと回ってみせる得意気な姿に、一抹の不安も残らない。
「今は、って……やっぱりレアなのか?」
俺の曾祖母さんをチョイスしているのも、コメントに苦しむ。
「これは、一風変わったお嬢さんだ。わしは担任のネイズという。どうぞよろしく」
俺達のやりとりが一息ついたのを見計らって、担任が声をかけてきた。
今の会話、事情を知らない者にはどう聞こえただろう?
現代には、こんな高飛車レトロ娘いないだろうから、怪しいことこの上ない。
「変わったとは、わらわのことか? そう言うそなたも、わざと老人の格好をして、変わり者よのぉ?」
ああ、これ以上、素でしゃべらないでくれ!
俺は、レアを背後に隠すように二人の間に入った。
「ネイズさん、あの、すみません。コイツ言動がむちゃくちゃで……」
何とか取り繕おうと、あたふたする俺。
「これアスラ。わらわの眼前を遮るとは無礼であろう。ん? さては、わらわが他の者と話すのが気に入らぬのだな?……嫉妬か? ほんに愛いやつじゃの」
はあああああ?! また的外れな解釈を!
対処に困った俺は目を閉じ、片手で顔を覆った。
そこへ、がははははっと豪快な笑い声がとどろく。
驚いたことに、俺が目を閉じた一瞬で、さっきまでいた担任が消え、変わりに屈強で、いかにも戦士な男が現れていた。
見上げる俺が子供に映る程の体格差だ。
「わしの変化を見破るとは、面白い」
男の鋭い瞳が、興味深げにレアを捉えていた。