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やきそヴァ 平和だ

 昼下がりの非常階段。その男は缶コーヒー片手に読書に勤しんでいた。文庫サイズの本はカバーが掛けられておらず、タイトルが丸見えだった。

『ドストエフスキー カラマーゾフの兄弟』

 なんともまあ重厚な内容である。

 彼の身長は一八〇代後半。フレームレスの長方形の眼鏡をかけ、頭は丁寧になでつけられた流れるようなオールバック。怜悧な風貌と品格を持つ彼を、一目見ただけで高校生と判断するのは不可能である。しかし、今は学校の制服を着ているせいか、辛うじて高校生と判断できた。

「ふむ……」

 ひどく大人びた渋い声で、小さく呟いた。彼の名は藤樹槍牙。風画と進矢と同じ学年で、彼もまたバスケ部である。

 そのおり、屋上の方から誰かの怒鳴り声が響いた。

「誰だ……」

 槍牙は声のした方向を向き、しばらくそのままの姿勢でいる。

「…………。騒がしいな。まあ、それも良いだろう」

 右手の缶コーヒーをくいっと一飲みし、彼は読書に戻った。


 進矢の猛追は凄まじかった。いい加減とかAV男優とかと揶揄されている彼だが、なんだかんだ言ってバスケ部の一員である。体力、瞬発力、巧みなフェイクの裏をかく動体視力。全てを総動員して追われるとなると、流石の風画も苦戦せざるを得なかった。

「しつこいぞ」

「黙れ! 文句言うならそれ寄越せ!」

 校舎内を駆けずり回る二人。そんな中、風画は進路を非常階段に向けた。

 この学校の非常階段は、校舎の外に併設されており、階段自体は雨晒しになっている。日当たりが良いので、昼休みや放課後に多くの生徒がたむろしている。その人混みを使い、進矢をまく作戦である。

 目の前の扉。非常階段と校舎との間にある扉を目指す。背後には進矢。両者の距離は五メートル弱。扉が迫る。手を伸ばし、いつでもノブを回せるように指を開いた。扉まであと少し。

「うらぁ」

 ノブを掴み、それを捻ると、半ば扉に肩からぶつかるような形で強引に開け放った。

 視界いっぱいに広がる校舎と、済みきった青空が飛込む。そんな景色の中に一人の男が鎮座しているのを知ったのは、それを蹴り飛ばした時だった。

「ぬおっ!」

 男の渋い声が聞こえた。聞き慣れた親友の声だった。しかし、今の風画には彼に対して詫びている暇はない。後で謝ればきっと許してくれる。 

 風画が階段の踊り場まで来たとき、上から金属音が響く。最初は上履きとぶつかる音だったが、続け様に何度か床をバウンドする音に変わる。そして、床を跳ねるごとに、何かの液体が飛び散る音も聞こえた。

 風画は確信した。自分が蹴飛ばしてしまった相手を。しかし、見ず知らずの他人よりはいくらか気が楽にだった。彼はこの程度では腹を立てない男だ。

(槍牙、ゴメンな……)

 風画が心の中で詫びるのと、全身に響き渡る低温が自分の名前を呼んだのとは、ほとんど同時だった。


「全く。どうりで騒がしいはずだ」

 風画に後頭部を蹴られ、進矢に缶コーヒーの中身をぶちまけられた槍画は、蹴られた拍子に落とした本と吹き飛んだ缶コーヒーを回収している最中だった。

「風画らしくて良い。あいつは、ああしている方が似合う」

 風の噂から『風画大乱闘』のニュースを聞き付けていた槍画は、小さく呟いて空を仰ぐ。日本晴れの青空の中を、数羽の雀が飛び交う。そして、恐らくはまた彼らが原因であろう喧騒。

 今日は平和だ。

どうも、原作を文章にしただけの、他人のふんどし作家伊之口です。

なんかね、この小説はね、ずいぶんと吹っ切れたテイストですな。アクセル全開ブレーキ全壊みたな感じですね。

さてさて、次のお話はちょっとR指定になりそうです。でも、ある程度自粛はしております。女性読者の皆様の反感を買うこと間違いなしです。でも、見捨てないでください<(_ _)>

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