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第二話 都会にいた頃の私

 仕事が始まってから新しいことを覚える日々。


 上司の話をしっかりと聞き、メモを取り、色んな業務をこなしていく。


 早く一人前になれるように真面目に働いていた。


 しかし、頑張っても上手くいくわけではないことを知る。


「瀬戸さん。……瀬戸せと蒔菜まきなさん」


「はっ……、はい! なんでしょうか」


「昼前にメールが届いたでしょ。確認した?」


 不機嫌そうな声で女性の上司が話し掛けてくる。


「何も届いてないですけど……」


「影が薄いから忘れられていたのね」


「急用だったんですか?」


「来週から育休に入る人がいるの。

 その人の仕事を瀬戸さんが引き継ぐって話」


 いつからそう決まったんだろう。


 何も聞かされていなかった。


「承知いたしました。

 まだ分からないことがいっぱいありますけど、精一杯頑張りたいと思います」


「口だけならなんとでも言えるわよね」


「心からそう思っていますけど……」


「研修の時に色々と説明したでしょう。

 自分で考えてから、どうしても分からない時だけ頼ってよね。

 こっちも忙しいんだから」


「申し訳ありません」


「あと、瀬戸さんって仕事が遅いわよね。

 同期の子たちは、覚えが早くて、社交的で、気が利くっていうのに。

 ぼさっとしてると置いていかれるわよ」


 自分では一生懸命に頑張っているのに、上司に注意ばかりされる。


 どうすれば認めてもらえるのか分からなかった。

 それから、「瀬戸蒔菜は仕事ができない」と職場の人たちに言われるようになった。


 毎日つらくて、仕事が終わったあとに涙が浮かんでくる。


 周囲の人に泣いていると思われたくない。目から涙を溢さないように顔を上げた。


 左右に大きなビルが立ち並ぶ道から見た空は狭いと思えた。


 嫌なことが何もなければ、もっと広いと思えるだろう。


 こんな悩みもちっぽけだと思えるくらいに……。



 家に帰ってから、堪えていた涙をぽろぽろと流す。


 どれだけつらくても、悲しくても、助けてくれる人がいなくて苦しかった。


 泣き疲れて眠っても、電車と新幹線が通る音で目が覚める。


 料理をする余裕もないから、いつもインスタント食品を食べていた。


 白いご飯に温めたレトルトカレーをかけたり、冷凍食品のパスタやカップラーメンだけの日もあった。


 今まで美味しいと思って食べていたけど、食欲が湧いてこない。


 ひとりでテーブルの前に座り、暗くて寂しい食事を続けているうちに味さえ分からなくなっていた。


 そんな日々に耐えられなくなって、思い切って仕事を辞めた。


 どこか遠くに行きたい。


 疲れた心を癒やすため、この現実から逃げるために……――

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