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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

召喚された勇者様が謙虚すぎるのですが、通訳の私は強気です☆ ~勇者「ぼ、僕は戦いなんて誰ともしたことがなくて…」 通訳「俺と戦えた相手など、この世に存在しない」~

作者:
掲載日:2026/04/01


 九百年ぶりに魔王が復活しました。


 時代遅れの魔王如き、文明も魔法も発展させ続けた人類の敵ではないと思ったのですが、これがもう大層お強くて、あれよあれよという間に魔王軍が各地を蹂躙してしまいました。


 そこで私の祖国、アイバーン王国はいにしえに伝わる魔法を用いて、勇者召喚の儀を行うことにしたのです。異世界から心と力を兼ね備えた人物を召喚するこの魔法の力で、九百年前も勇者を喚んだそうです。


 とにもかくにも、アイバーン王国屈指の三賢者によって、見事勇者を召喚することに成功しました。お名前は古村こむら空太そらた。日本人で、東京という街から来たそうです。


 ということで、日本語通訳のペネロペ・ミシェットを呼ぶことになりました。アイバーン王国では魔王が復活する度に、勇者召喚を行っており、その際、歴代の勇者たちの協力で作成した様々な異世界言語の文献が残っているのです。


 魔王復活に備え、異世界言語を勉強する者には給金が出ます。とはいえ、普通に働いた方が稼ぎがいいので、率先して勉強しようという人は、余程異世界言語に興味があるか、そうじゃなかったらかなり変わり者の類のどちらかです。まあ、私のことなんですけども。


 そんなわけで、私の勤勉さが実り、晴れて勇者様と面会できることとなりました。異世界に来たことで、勇者様の力は覚醒しており、それはもう見事な腕前をお目にかかることができました。


 これなら魔王の一人や二人、軽く討伐できるだろう、とアイバーン王も太鼓判です。せっかくですので、王都の民を集め、景気づけに出陣式をしようということになりました。


 伝説の勇者様を直に見ることができれば、不安で夜も眠れない民も、明日からはぐっすり快眠という寸法です。もしも勇者様の勇ましい声を聞くことができれば、そこらの魔物なら殴り殺せるようになるかもしれません。


 しかし、私には一抹の不安がありました。なんと言いますか、長年生きてきた女の勘と言いますか。まあ、まだ一六歳なんですけども、とにかくものすごく勘が働いたのです。


 そして、その勘は非常に困ったことに、悪い時に限ってよく当たるのです。


『では、勇者様、魔王討伐に際してこうして集まったアイバーンの民へのお言葉を頂戴できますか?』


 王都メルフォンの城の前は、見渡す限りの人で埋め尽くされています。城の前だけではなく、一目勇者様を拝見しようとこの付近に王都中の人間が詰め寄せたのです。


『み、三日だ……』


 武者震いなのか、勇者様のお体が震えています。


 私は勇者様のお言葉をすぐに通訳し、民に伝えていきます。私の声も、勇者様の声も、拡声魔法の力によって、王都中に届いています。


 民が一言一句聞き逃すまいと、固唾を呑んで見守る中、勇者様はおっしゃいました。


『魔王は残忍で、そして恐ろしく強いと聞いた。正直な話、三日もつかわからない』


  通訳が止まりました。このまま伝えれば、大変なことになります。暴動です。パニックです。王都は終わりです。


「通訳っ! 通訳がないぞっ!」


「三日がどうしたんだっ? 勇者様の言葉を聞かせてくれっ!」


「仕事しろ、通訳。俺たちの税金でメシ食ってんだろっ!」


 うるさいですね。通訳の給金なんてはした金じゃないですか。


 とはいえ、このまま黙っているわけにもいきません。どうしようかと考えた結果、私は一つ名案を思いつきました。


「だから、三日がなんなんだよっ。その先を聞かせてくれ!」


「三日で倒す」


 勇ましく、堂々と、私は言いました。


「魔王を三日で倒す。魔王は残忍で、恐ろしく強い。だが、果たして俺を相手に三日もつかな?」


 民たちの瞳に希望の光が見えました。

 さすが勇者様のお言葉です。


 様子がおかしいと思ったのか、訝しんだ勇者様は釘をさすようにこう言いました。


『ぼ、僕は戦いなんて、誰ともしたことがなくて……』


 私は通訳しました。


「俺と戦えた相手など、この世に存在しない」


 瞬間、王都という王都の至る場所から割れんばかりの大歓声が上がりました。


「勇者様ーっ!!! 勇者様ぁー!!」


「ああ、よかった。本当によかった!」


「お願いします、勇者様。娘の仇をとってあげてください。お願いしますっ!」


「万歳! 勇者様! 万歳!」


「アイバーン王国を、いや、この世界を救ってくれぇぇっ!!」


 彼らは皆、勇者様の勇ましい言葉に感激し、涙を流して、口々にお礼の言葉を述べています。


 まさに驚天動地の大熱狂です。こんな光景、初めて見ました。


『ねえ……ペネロペさん……』


 勇者様が怖ず怖ずと聞いてきました。


『ペネロペでけっこうですよ。どうかしましたか、勇者様?』


『この人たち、なんでこんなに喜んでるんだ?』


『…………』


 なんででしょうね、と言ってしまいたい気持ちをぐっと堪え、私は考えました。そうですよね。日本育ちの勇者様に簡潔に伝えるなら――


『文化です、文化。そういう文化なんです』


『……文化かぁ……』


 上手く誤魔化せました。いえ、上手く通訳することができました。多少の意訳はつきものですからね、通訳って。


 ともあれ、出陣式での役目は十二分に果たしていただきましたので、勇者様にはご退席願いました。


 問題は魔王討伐の期限が三日になってしまったこと。さすがにここから魔王城に行くだけでも三日以上かかりますからね。


「…………ん?」


 行くだけでも?


 ふと私は名案を思いつきました。そうと決まれば、すぐさま準備に取りかかります。

 上手くいけば、勇者様のご活躍が見られることでしょう。



   ◇


 

 その夜のこと。


『不安だから、もう少し稽古をしておきたいんだ』


 そう口にした勇者様は黙々と訓練場で稽古をしていました。

 勇者様は少々弱気ではあるのですが、やる気がないわけではありません。人知れずに努力するタイプ。つまり謙虚なのです。若干、謙虚すぎるのではないかと思わなくもないですが、そこは通訳として汲み取り、フォローしてあげなければなりません。


 さすがに夜も更けていたので、他に訓練場を使う人間はおらず、私は一心に剣を振るう勇者様をじっと見守っています。


 その時、雲が月を覆い隠し、一瞬訓練場が闇に包まれました。


『明かりを持ってきましょうか?』


『ペネロペ。動かないで』


 いち早く勇者様は闇に潜む者の存在に気がつきました。


「さすがは勇者。良い勘をしておる」


 徐々に月明かりが戻ってきます。そこに立っていたのは漆黒の装束を纏った魔族です。


 外見はまあまあ美青年と言えなくもないですが、騙されてはいけません。強靱な二本の角と、鋭い爪、なにより途方もない魔力がその男を並の魔族ではないと証明しています。


「我は魔王リグレス・ディルマディゲイン」


 素早く私はその共通語を通訳しました。


『ま、魔王っ……! いきなり……魔王って、どうして……?』


「なんの用だ、魔王?」


 勇者様の日本語を素早く通訳します。


「貴様の出陣式を見させてもらってな。この我を三日で倒すだと? 九百年前、召喚された最強の勇者ですら、5年の時を要した。それを召喚されたばかりの貴様がか?」


 出陣式の魔法映像は私が魔族の住処に送りつけました。そうすれば、魔王の耳に入るでしょう。魔王が挑発に乗れば、魔王城で待つことなく、出向いてくるはず。


 元来、戦争というのは守るよりも攻める方が難しいもの。アイバーン王国に単身でやってきたようですから、彼の配下と戦う必要はなくなりました。作戦成功です。


「調子に乗るな、人間。大口を叩いたことを後悔させてやる!」


 魔王の言葉を私は通訳します。勿論、基本的には常に通訳し続けているのです。


『べ、別に大口なんて叩いてないよ……勝てる保証はなにもないし……今だって、逃げ出したくて仕方がないぐらいだ……』


「大口? 事実だろう。お前は俺に勝てる保証などなにもないし、今だって逃げだしたくて仕方がないはずだ」


 主語がなかったんですが、勇者様ですからこう思っているに違いありません。通訳たるもの、これぐらいの意はくみ取れます。


「よかろう」


 魔王リグレスの目が鋭く光った。


「見せてみろっ、勇者の力をっ!!」


 戦いが始まりました。両手の爪で幾度となく攻撃を仕掛ける魔王リグレスに対して、勇者様はその剣でどうにかこうにか捌いていきます。


 召喚されただけあって、さすがの実力です。リグレスは魔力を駆使しながら攻めてきますが、そのどれもが決定打にはなりません。


「どうした? そんなものかっ!?」


 魔王は全身に黒き雷を纏います。漆黒魔雷ヴェルムの魔法。勇者様が剣で爪を受け止めた瞬間、黒き雷が伝ってきて、その体を貫きました。


『ぐううあぁぁっ!!』


 反動で勇者様は吹っ飛びました。すぐに彼は身を起こします。野生の本能とでも言うのでしょうか。勇者様は的確に実力差を見抜きました。


『……嘘だろ……あいつ……今のでまだ全力じゃないっていうのか……』


「舐めているのか、魔王? 本気で来い」


 私の通訳に、魔王リグレスは唇を吊り上げました。


「面白いっ!!!!」


 更に膨大な黒雷が魔王の目の前に落ちます。黒雷の中に、強い魔力を感じました。それは魔剣です。


漆黒雷剣しっこくらいけんリュドラ! 耐えられるというのならば、耐えてみよっ!!」


『あれは……危険すぎる……! ペネロペさんっ、城に避難をっ!!』


 漆黒雷剣リュドラが勢いよく振り下ろされました。


 ガギィィィッと甲高い音が響きます。リュドラを受け止めたのは、私が手にしていた通訳の必需品の一つ、万年筆です。


「な、にっ……!? 切れんだと……!?」


「仕事道具ですので」


 分厚い日本語辞書を魔王リグレスの顔面にお見舞いしてやります。


「ぐむっ!」


 と、たまらず下がった魔王めがけて、私は大量の羽根ペンを取り出し、投擲しました。


「そんなもの」


 魔王は魔法障壁を展開します。しかし、羽根ペンはそれを貫通して、魔王の体に突き刺さりました。


「なぁっ……!!!」


『今です、勇者様っ!!』


 声をかけると同時に、勇者様は剣を振りかぶって魔王に突っ込んでいました。


 聖なる光が彼の剣に集中し、まるで星のように輝いていました。


 千載一遇の好機。これを逃すようならば、彼は勇者様ではありません。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!』


 土壇場で力が更に覚醒したのか、振り下ろされたその剣は魔王を切り裂き、そして光の大爆発を起こしました。


 訓練場の石畳にどでかい穴が開けられています。魔王リグレスの姿はどこにもありません。


 あれだけの聖なる力を至近距離で受けたのですから、消滅したとしても不自然ではないでしょう。


『はあ……はあ……はあ……はあ……』


 荒い呼吸を繰り返しながら、剣を杖に勇者様はもたれかかります。


『お見事です、さすが勇者様』


『いや、無我夢中で……二度、同じことができるとは思えないよ……』


 力なく言いながら、彼は私を見ました。


『ペネロペさんこそ……文具でよく魔王を圧倒できたよね……あんなことができるんだったら、君がこの剣で魔王と戦えばよかったんじゃ……?』


 なんと答えようか迷いましたが、ぐうの音も出ないほどの適切な言葉が見つかりました。


『通訳ですので』


 勇者様はそれはたいそう大きく目を見開いたのでした。



   ◇



 王都メルフォンの城の前には、またしても多くの民で賑わっていました。勿論、勇者様があっという間に魔王を倒したという噂が広まり、皆、お祝いに駆けつけたのです。


 皆、勇者様のお言葉を待っています。


『魔王軍の残党がまだ残っているから、それを倒しにいくことになったみたいだ』


「魔王軍の残党どもを片付けてくる」


 私はいつも通り通訳します。


『魔王軍の幹部もいるし、全然油断できる状況じゃない。魔王を倒したあの力がなんなのか僕自身もまったく未知数で、制御できないし、それに死体がなかったんだ。もしかしたら、魔王はまだ生きている可能性もある』


「俺は油断をしない。そして、更に強くなれることがわかった。もしも魔王が生きているなら、あの力を極めるための練習台にしたいぐらいだ」


『まあ……勝てたら、いいけどね……あんまり戦いたくないのが本音だけど……』


「我らの正義に勝利を! この世界に戦いのない真の平和をもたらさんっ!!」


 勇者様のお言葉に感極まった民たちは涙を流して、大声援を送ってくれました。


 いつものように訝しむ勇者様でしたが、『文化か……?』と独り言を呟いていましたので、『文化は色々ありますね』と一般論を述べておきました。


 こうして、魔王を倒した勇者様は王都メルフォンから旅立ちます。魔王軍の残党を全て倒すのには、まだ幾分か時間がかかることでしょう。


 それでも、勇者様ならきっとやり遂げてくださると信じております。


 私ですか? 勿論、ご一緒させていただきます。勇者様の通訳が務まる者など、他にはおりませんので。



お読みくださり、ありがとうございます。


お楽しみいただけましたら、ブックマークや★の評価をいただけますと、すごく頑張れる気分になれます!

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― 新着の感想 ―
ペンは剣よりも強し んっん〜 名言だなこれは 通訳としてはマイナス100点だけど 勇者の導き手としては100億点
アノスが本当に恋しい。
やっぱ先生の短編も面白いんだよなぁ…! なんで通訳さんがそこまで強いのか気になるところ…!
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