受肉・堕胎
「彼女」という存在は、もはや固有名詞ですらなく、断罪のごとく刻まれた大地の傷、絶え間なく溢れ出す罪悪の潮騒、そして大気を満たす粘りつくような熱波そのものであり、太古の昔に神の剃刀が世界をバラバラに引き裂いた際に生じた、もっとも深く、もっとも爛れた切断面であった。
今、私の視線が彼女を捉えるとき、そこには観察者という安全な場所など存在しない。視神経を通じて流れ込んでくるのは、法と倫理を焼き尽くす禁忌としての彼女の肉体が放つ、暴力的なまでの生の残響である。山の峻険な稜線は、かつて引き裂かれた際に生じた治癒せぬ傷跡の疼きであり、空を染める混濁した色は、触れてはならない神域を侵犯した際の背徳の溜息である。そのすべてが、欠落した肉を接合しようとする猛烈な引力となって私を惹きつけてやまない。
見つめ続けるうちに、私を私として繋ぎ止めていた薄い痂は、彼女が放つエロスの熱に焼かれて剥落し、内側にある血も意識も、溢れ出した淫らな泥のように彼女という巨大な、形なき重力の裾野へと溶け出していく。そこには、触れるものと触れられるものの区別も、汚すものと汚されるものの隔たりもない。ただ一つに還るために傷を分かち、浸透し合う。世界のすべてが彼女という単一の、剥き出しの拍動へと収束していく――それは狂おしいまでの写実だった。




