命懸けのレクリエーション
「ルールは簡単よ~。ヒットされたら正直に自己申告して、この教室に戻ってきてね~」
「……生きてればな」
自嘲気味に吐いた弱音は、誰も気に留めなかった。
生徒達は初めて見る銃器に興味を持つ者、下らないと一蹴する者、いつの間にか帰宅している者など、様々な反応を示す。
俺も隙を突いて逃げようとしたものの、サボリの空気を察したファム先生は身体全体で腕を捕まえ、逃げられなくしてしまう。
まさに天上の夢心地を味わう一方、確実に刻まれる一秒が死へのカウントダウンに思えてならない。
「それじゃあ先生が100数えるから、頑張って隠れてね~」
「お、おい! ちょ……待っ!」
100秒後、遊び感覚で戦場に送られる兵士の気持ちが分かるか?
もはや絶望を通り越し、ヤケクソの境地に至りつつあった。
「うおおおお! どけぇええええ!」
生徒の中でも幼い部類の魔者は、楽しそうに走り回って隠れ場所を探す。
俺は彼女達を押し退けてまで、有利な場所を確保しようと必死だった。
背後から子供っぽい悪口や非難の声を浴びるが、気にもならない。
何故なら死にたくないから……。
「我ながら情けねぇ! けど、仕方がな――」
銃声と共に、無数の弾丸が頭を掠める。
「おぃぃいいいい! まだ100数えてねぇだろうが!」
「あはははは!」
面白半分でマシンガンを乱射しているのは、教室で抗議していた少女だ。
当たれば絶命不可避の弾丸を掻い潜り、タッチの差で曲がり角に飛び込む。
「フザケやがって畜生! 喰らいやがれ!」
命の危機に晒された俺は躊躇いなく撃ち返すが、少女は自身を黒い霧に変え、ショットガンの放つ散弾を無効化した。
「そんなの有りかよ!?」
「だって、もう痛いのは嫌だもん。それにルールは破ってないし~」
駄目だ、霧の状態だとヒットを取れない!
得意満面でチート能力を披露する少女だったが、俺の観察眼を舐めてもらっては困る。
「確かに無敵って感じだけどな、自分の弱点に気づいてないのはマヌケだぜ!」
「はぁ? 弱点なんて有るわけないでしょ」
否。こいつはルールを破ってはいないが、ルールを理解していない。
「お前の弱点は “ 霧になると物を持てなくなること ” だ!」
「そんなこと? だったら霧を解除すれば――」
床に落ちた銃を拾おうと実体化した瞬間、必殺のショットガンが火を吹く。
少女は散弾をまともに喰らい、勢いよく尻餅をついた。
「痛っっっったああ!」
「痛いで済むのかよ……」
やはり魔者に銃は効かないらしい。
弾の再装填を済ませ、近くの階段を警戒しながら上っていく。
連中にとって放課後の余興に過ぎないが、人間にとっては命懸けの実戦だ。
一歩進むごとに、並々ならぬ緊張感が全身を駆け巡る。
「2階の廊下には誰もいない。少なくとも、姿は見えないが……」
しかし、先ほどの少女がみせた能力を考えれば、決して油断できない。
だからこそ、階段近くの教室ドアが開いたままなのが気掛かりなのだが……。
「罠か? それとも――!?」
どうするべきか決めかねていると、階段下から足音が響く。
このままだと最悪の場合、挟み撃ちになりかねない。
数瞬の迷いの末、覚悟を決めて教室の窓に移動する。
「中は……誰もいない。隠れてる可能性もあるけど……」
階段を上る気配が迫る。
俺は得意の忍び歩きでドアに近づき、祈るような心持ちでドアを閉めた。
足音は一定の歩幅を保ち、そして――ドアの前で足を止めた。
「…………!」
見られている。
ギリギリのタイミングでロッカーに滑り込んでいなければ、今頃は蜂の巣にされていただろう。
だが、相手はかなり用心深い性格なのか、しばらく立ち止まったまま動こうとしなかった。
1秒ごとに神経が削られ、まさしく生き地獄を味わう。
その時、不意に銃声が鳴り響く!
「…………ッッ!」
思わずゲロを吐きそうになった。
本気で撃たれたと思い、必死に口元を覆って声を押し留める。
どうやら銃口は階段に向けられていたのか、遠くから叫び声があがった。
ロッカーの隙間からでは勝者は分からなかったが、しばらくして足音が離れ、自分達が助かったことを知る。
「は……はぁぁぁぁ~~、助かったぁ~」
全身から力が抜け、水に浸したボロ雑巾のように腰が砕けた。




