唯一にして絶対の校則
「は~い、皆さん生きてますか~? このクラスを担当するファム・ファタールで~す」
不穏すぎる台詞と共に姿を現したのは、過剰に性的なフェロモンを纏う女教師だった。
鳥肌が立つほどの美貌を備え、ハート型の翼が艶めかしい腰元を包み込む。
「 “ 恒例の裏入学式を生き延びること ” それが学園ウルティムの最初の試験よ~。入学おめでと~!」
「裏だって? 確かにゴチャゴチャした手続きも無かったし、身分証明すらしなかったもんな」
先刻の簡素すぎる入学式は形式だけの物で、こちらが試験を兼ねた本番ってことか。
流石は倫理観の壊れた魔界の学校と、妙に納得した。
「これから1年間しっかりお勉強して、立派な魔王様を目指してくださいね~」
「は? 魔……は?」
とんでもない発言に耳を疑う。
魔王とか聞いてないんですけど!?
「ま、待ってくれ! その……何の話をしているのか分からない。それに、クラスメイトが何人も死んでるんだぞ!?」
「何人~? まるで人間みたいなことを言うのね~♪ 心配しないで。死体はすぐに片付けてくれるから~」
この女、頭がおかしいのか?
今も教室の至る所には、死体が転がって――。
「ない!? そんな馬鹿な!」
鮮血に染まった床や壁は何事もなかったかのように佇み、惨劇の痕跡すら残っていなかった。
破壊された机も完璧に復元され、殺された生徒の記憶だけが頭に残り続ける。
生唾を飲み込む俺に向けて、先ほどのイケメンが呆れた声で言う。
「貴様はそんなことも知らないのか? 学園は数多くの候補生を集め、次の魔王を決める為の場……いわば戦場なのだ。クラスメイトだと? そんなもの、いずれは敵となる邪魔者か、自分の配下でしかない」
「魔王候補生?」
校庭に集められた時から、生徒の種族や年齢がバラバラだったのは疑問だった。
要は、“ 強さこそが全て ”
それ以外は問題にもならないのだ。
学園では弱者など餌でしかなく、徹底して魔王にふさわしい者を選び抜く、弱肉強食の校則!
俺は今更になって、アニムさんが語った言葉を思い出す。
「きっと貴方は、私をひどく恨む――そういうことかよ……」
「後悔したか? ならば生きているうちに帰れ」
さっきから帰れ帰れと、好き勝手に言いやがって!
こっちは還る目的で変態学校に通ってんだよ。
そう言ってやりたいのを堪え、努めて平静を装う。
「あら~、さっそく仲良くなったようね~。それなら皆さんがも~っと仲良くなれるように、ちょっとした余興をしましょ~♪」
「いや、別に魔王になりたいわけでは……え? は?」
笑顔のファム先生が取り出したのは、苦労して探した拳銃が玩具と思える銃器の数々。
映画でしか見たことのないライフルやショットガンが配られ、マジに帰るべきだったと激しく後悔する。
「あー……これは?」
「安心してね、全部本物だから~」
この女、狂てやがる!
いまの会話のどこに安心できる要素があった?
ちょっとした余興だと?
入学早々に拳銃をぶっ放した俺が言うのもなんだが、とことんまで魔界の倫理観はズレている。
「痛った! なによこれ、結構痛いじゃないの!」
教室のあちこちで試し撃ちが行われ、流れ弾が当たった女子生徒が抗議する。
ヤバイ……こいつらにとって、銃弾なんてしっぺと大差がない!
だとすれば、さっきの大男に銃が効かなかったのも納得だ。
対する俺はどうだ?
45口径よりも遥かに強力なライフル弾を受けたら、どうなる?
「どう考えても死……」
不吉な言葉を寸前で飲み込む。
心労による腹痛を理由に早退を申し出ようとするが、僅かに遅かった。
「さあ~、人間のオモチャで遊びましょ~♪」
満面の笑みで、死刑に等しい宣告をするファム先生。
かくして、放課後の学園で余興と称されたサバイバルゲームが始まる。
◇◇◇




