ボーダーフリー
「天涯! こんなところで死ぬなぁ!」
「天涯、死ぬ前に惚れ薬の作り方だけでも教えろ!」
「めぇぇぇぇ、めええええ!」
「いつまで寝てんの! さっさと起きなさいよ、天涯!」
こうしている今でも信じられない。
誰かが俺の名前を呼んでくれている。
怒りに任せて叱るわけでもなく、陰口を叩く小声でもない。
誰かに必要とされている――その事実だけで、生きていて本当に良かったと思えた。
「起きろ。昼寝はあっちの特権にゃ~」
「随分とまぁ、猫っぽいことを言うんだな。起き上がりたいのは山々なんだが、そろそろ離してくれないか?」
ラケルは泣きながら俺にしがみつき、何を言っても聞かない様子だ。
「ラケル、ラケル……ありがとうな」
「天涯? 天涯ぃ!」
参ったな。
起き上がった後も状況は変わらず、俺を絞め殺す勢いで抱きつく。
「無事、合宿を生き残ったようね~」
「ファム先生……」
治療を終えたファム先生が傍らに立ち、優しい笑みを浮かべていた。
生き延びた候補生は13名しかおらず、本来ならキレて逆上していても不思議ではない。
だが、酔虎と一体化した影響で、考え方に変化が生まれつつあった。
「これも必要なこと……なんですよね?」
「ええ、私もそうだったわ。仲間を失う痛み、悲しみ……。全ては魔王となる為、魔界で生きる者の通るべき道なのよ」
最初から、誰もが生き残る前提の戦いではない。
だからこそ、仲間との絆は何物にも代えがたいのだ。
「俺は……俺達は誰も見捨てない。最低ランクの魔力なんて関係ねぇ! 弱い者だろうと、敵だった奴だろうと、俺達は受け入れて前に進むんだ。最弱のクラスが魔王の座を狙う――俺達がボーダーフリーだ!」
未完




