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ボーダーフリー  作者: ちゃりネコ


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25/27

誰かを想う特攻

 デュランの戦死を引き金に、一部の候補生は恐慌状態に陥り、散々になって逃げ惑う。

 統率を失った集団は戦闘不能に陥り、荒れ狂う牙によって犠牲者が出始めた。


「落ち着け! 闇兎(やみうさ)は非戦闘員を安全な場所へ誘導。ラルヴァはいつでも魔法を撃てるようにしておけ。雪影はラルヴァの詠唱が終わるまで、カローグの足止めだ。戦える者は私に続け!」


 ラケルの的確な指示が飛ぶ。

 だが彼らの耳には届かず、強靭な尾が振るわれる度に断末魔が響く。


「早くこっちへ! そっちはダメ!」


 闇兎(やみうさ)の懸命な誘導を嘲笑(あざわら)うかのように、古の魔者は次々と候補生を捉え、思うがままに2千年の空腹を満たす。

 暴虐の限りを尽くすカローグに対して、残された者達は決死の覚悟で反撃に転じた。


「これ以上は()らせない!」


 雪影は限界まで高めた魔力を凝縮させ、指先の一点から解き放つ。

 結晶を散りばめた吹雪が吹き荒れ、カローグの全身を瞬く間に飲み込んだ。

 冷気は恐竜と見紛う四肢を凍結させ、有毒な血液が流出するのを防ぐ。


「続け!」


 号令を発したラケルは身体を高速回転させ、カローグの左前足を切り裂いた。

 骨を断つ斬撃を受け、山と称される巨体が膝を着く。


「攻撃が通る! 倒せるぞ!」


 勝機を見出だした候補生達が戦線に加わり、一斉攻撃が始まる。

 ラルヴァの魔法が炸裂し、すかさずグリムフォードの追撃が続く。

 圧倒的と思われた(いにしえ)の魔者に、現代の魔者達が果敢に立ち向かう。

 その最中(さなか)、突破口を拓いた戦友の異常に気づく。


「本当に平気か? 無理をしているんじゃないのか?」

「……お前も攻撃に参加しろ――とは言えんな……」

「お、おい!」


 ラケルの両腕は無残にも(ただ)れ、今にも腐り落ちそうだ。

 恐らく凍結は皮膚だけに留まり、深部まで達していないのだろう。

 つまり、体内の骨を刃に変化させるエクスキューショナーの闘法とは、絶望的に相性が悪い。


「どうしてだ!? スケさんやデュランがやられたのを、お前も見てただろ!」

「それでも、だ。魔王候補生の我々に後退の道はない。勝利できなければ死ぬか、農奴になるしかないのだ。私の――母上のように!」


 クラスの命運を背負い、折れかけた闘志に再び火が灯る。

 ラケルは気遣う俺を押し退けると、仲間の遺体が散乱する戦場へ戻っていった。


「魔王になるだと? ボロボロになるまで戦って……仲間まで死なせちまって……そんなもん、何の価値があるってんだ!」


 負傷者を助けようとしたドリアドネを(かば)い、瀕死の重傷を負ったヘンリーを見て、ぶつけようのない怒りが頂点に達した。


「ヘ、ヘンリー……さん。どう……して?」

「あーあ、()()()()()()。週末のパーティはキャン……セル……」

「ヘンリー! 目ぇ開けろ! 秘薬は……秘薬は持ってるか!?」


 褐色の手が最後の力を振り絞り、埃に埋もれたカバンを指差す。

 十分だ。

 何もかも、このクソったれな戦いにケリを着けるには十分な量の()()だ。


「しっかりしろ! ドリアドネ、ヘンリーを頼む」

「う、うん……。久能くんは……どうする……の?」

「俺はよ、嫌なんだよ……。嫌で嫌で、仕方ないんだ」

「な、なにをする……気?」

「もう、友達が死ぬとこを見たかねぇのさ!」


 落ちていたカバンを引ったくり、カローグへ向かって突進する。


「俺から離れろ! 爆発するぞぉぉおおおお!」

天涯(てんがい)!? 貴様、何をするつもりだ!」


 ただならぬ気配を察したのか、前線で戦う候補生が道を開ける。

 直後、凄まじい爆発と共に、俺の意識は途切れた。

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