誰かを想う特攻
デュランの戦死を引き金に、一部の候補生は恐慌状態に陥り、散々になって逃げ惑う。
統率を失った集団は戦闘不能に陥り、荒れ狂う牙によって犠牲者が出始めた。
「落ち着け! 闇兎は非戦闘員を安全な場所へ誘導。ラルヴァはいつでも魔法を撃てるようにしておけ。雪影はラルヴァの詠唱が終わるまで、カローグの足止めだ。戦える者は私に続け!」
ラケルの的確な指示が飛ぶ。
だが彼らの耳には届かず、強靭な尾が振るわれる度に断末魔が響く。
「早くこっちへ! そっちはダメ!」
闇兎の懸命な誘導を嘲笑うかのように、古の魔者は次々と候補生を捉え、思うがままに2千年の空腹を満たす。
暴虐の限りを尽くすカローグに対して、残された者達は決死の覚悟で反撃に転じた。
「これ以上は殺らせない!」
雪影は限界まで高めた魔力を凝縮させ、指先の一点から解き放つ。
結晶を散りばめた吹雪が吹き荒れ、カローグの全身を瞬く間に飲み込んだ。
冷気は恐竜と見紛う四肢を凍結させ、有毒な血液が流出するのを防ぐ。
「続け!」
号令を発したラケルは身体を高速回転させ、カローグの左前足を切り裂いた。
骨を断つ斬撃を受け、山と称される巨体が膝を着く。
「攻撃が通る! 倒せるぞ!」
勝機を見出だした候補生達が戦線に加わり、一斉攻撃が始まる。
ラルヴァの魔法が炸裂し、すかさずグリムフォードの追撃が続く。
圧倒的と思われた古の魔者に、現代の魔者達が果敢に立ち向かう。
その最中、突破口を拓いた戦友の異常に気づく。
「本当に平気か? 無理をしているんじゃないのか?」
「……お前も攻撃に参加しろ――とは言えんな……」
「お、おい!」
ラケルの両腕は無残にも爛れ、今にも腐り落ちそうだ。
恐らく凍結は皮膚だけに留まり、深部まで達していないのだろう。
つまり、体内の骨を刃に変化させるエクスキューショナーの闘法とは、絶望的に相性が悪い。
「どうしてだ!? スケさんやデュランがやられたのを、お前も見てただろ!」
「それでも、だ。魔王候補生の我々に後退の道はない。勝利できなければ死ぬか、農奴になるしかないのだ。私の――母上のように!」
クラスの命運を背負い、折れかけた闘志に再び火が灯る。
ラケルは気遣う俺を押し退けると、仲間の遺体が散乱する戦場へ戻っていった。
「魔王になるだと? ボロボロになるまで戦って……仲間まで死なせちまって……そんなもん、何の価値があるってんだ!」
負傷者を助けようとしたドリアドネを庇い、瀕死の重傷を負ったヘンリーを見て、ぶつけようのない怒りが頂点に達した。
「ヘ、ヘンリー……さん。どう……して?」
「あーあ、らしくねぇや。週末のパーティはキャン……セル……」
「ヘンリー! 目ぇ開けろ! 秘薬は……秘薬は持ってるか!?」
褐色の手が最後の力を振り絞り、埃に埋もれたカバンを指差す。
十分だ。
何もかも、このクソったれな戦いにケリを着けるには十分な量の爆薬だ。
「しっかりしろ! ドリアドネ、ヘンリーを頼む」
「う、うん……。久能くんは……どうする……の?」
「俺はよ、嫌なんだよ……。嫌で嫌で、仕方ないんだ」
「な、なにをする……気?」
「もう、友達が死ぬとこを見たかねぇのさ!」
落ちていたカバンを引ったくり、カローグへ向かって突進する。
「俺から離れろ! 爆発するぞぉぉおおおお!」
「天涯!? 貴様、何をするつもりだ!」
ただならぬ気配を察したのか、前線で戦う候補生が道を開ける。
直後、凄まじい爆発と共に、俺の意識は途切れた。




