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ボーダーフリー  作者: ちゃりネコ


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24/27

甦った古の絶望

 合宿7日目の夜。

 体感的に19時を回っても、ゾンビの群れは影すら見せない。


「なぁ、やっぱ妙じゃねぇか? いつもなら新装開店のパチ屋より大盛況なのによ、今夜に限っちゃ閑古鳥だぜ」

「パチ……? 言っている意味は分からないが、確かに妙ではある。ここは下手に動かず、闇兎(やみうさ)の報告を待とう」


 ラケルの冷静な判断に周囲が同意を示す。

 俺は皆の集中力が途切れないように、時折防衛ポイントを行き来しては、簡単な声かけを行う。


「ゾンビ共も連日のどんちゃん騒ぎで疲れたんだろ」

「確かに、連中のハイテンションときたら、放課後のお前より生き生きしてるもんな。気ぃ抜くなよ」


 ヘンリーとの馬鹿話も板についた頃、拠点の隙間を通って黒い霧が入り込む。

 やがて拡散した粒子が形を成し、ゴシックロリータ調のドレスを着た闇兎(やみうさ)が姿を現す。


「おかしいわ……。どれだけ探しても腐肉喰ズルツェどころか、ゾンビも見つからないよ」

「昨日で打ち止めってのは……ないよなぁ」


 皆が腕を組んで考えている間、俺は以前から疑問に思っていた事を口にするべきか迷っていた。


 “ 大量のゾンビはどこから来たのか? ”


 この6日間、嫌というほどゾンビと戦ってきた。

 だが、合宿以前は『忘れられた庭』で連中を見たことなど一度もないのだ。

 雨後のタケノコみたいに土からゾンビが生まれてくるなど、B級映画でもクソ設定過ぎるだろ。


「なぁ、もしかしてゾンビって――」


 直後、拠点に巨大な魔方陣が出現する。

 しかも、恐ろしく複雑巧緻な術式で描かれた魔法だ。


「こ、候補生が扱える範疇(はんちゅう)の魔法ではない! もっと……遥かに高位の術者!」

「なんだ……足元? いや、地中から伝わる鼓動! なにか……()()()()()!」


 確信した時には遅かった。

 ひび割れたコンクリート床が爆ぜ、(まがまが)々しい瘴気(しょうき)が噴き出す。

 刺激臭を伴う息吹が辺りを(むしば)み、焦点の定まらない瞳が俺達を見つめる。


「ドラゴン!?」

「間違いない……間違えるはずがない! 2千年前の戦いで戦死した竜人族(ドラコニアン) 、腐蝕龍(カローグ)!」


 常に冷静で泰然としたラケルが、元はドラゴンと思われるゾンビに激しく動揺する。

 全身が朽ち果てても(なお)、及びもつかない身体能力を有するドラゴン族の(むくろ)は、耳をつんざく咆哮で戦いの口火を切った。

 危険な音圧が大地を揺らし、コンクリート製の拠点は風に吹かれた砂山のように崩れ去った。

 魔界の月明かりが、2千年振りに帰還した(いにしえ)の英雄を出迎える。


「早く外へ!」」

()ッッてぇ……耳が……!」

「ど、どうすれば……ラケル様!」

「エルー! 石化の魔眼だ!」


 身も(すく)む咆哮の最中(さなか)、カトブレパスの少女が魔眼の力を解き放つ。

 だが、勇気を振り絞って視線を交錯させたにもかかわらず、一向に石化する気配はない。


「だ、駄目です! カローグには……私より魔力が大きい魔者には通用しないの!」


 悲壮感に満ちた表情が絶望を物語る。


「こうなれば各自、近接戦闘を――!?」


 ラケルの号令を待たず、2名の戦士が突撃を敢行する。


「……正面は我ら不死者が請け負う」

(なんじ)らは下がっておれ!」

「スケさん! デュラン! こいつは腐食喰(ズルツェ)など足元にも及ばない! 正面から挑むのは無謀だ!」


 両雄が激突した瞬間、誰もが自分の目を疑う。。

 スケさんの大太刀は斬りつけたと同時に腐食し、まるで熱したチョコレートのように溶け落ちた。

 カローグの強靭な尾が唸りを上げ、守勢に回ったスケさんに襲いかかる。

 尾は二本の刀を巧みに掻い潜り、無防備な半身を粉々に打ち砕く。


「……!」

「怯むな、アンデッドの居場所は死地にこそ見出だしたり!」


 デュランの斧が朽ちた肋骨から覗く心臓めがけ、渾身(こんしん)の一撃を叩き込む。

 カローグの巨体が震え、今度こそ有効打を与えたと確信するが……。


「グゥ、これは!」


 傷口から瘴気(しょうき)を含んだ黒血が吹き、全身に浴びたデュランを瞬く間に溶解させた。

 辛うじて返り血を免れた首が、決死のメッセージを伝える。


此奴(こやつ)を倒すには、生半可な攻撃は通じぬ! 一撃を……全てを決するほどの破壊の力を――」


 カローグの前半身が高々と上がり、彼の言葉を遮る。

 本当に一瞬の出来事だった。

 自分の目で見たはずなのに、脳が理解を拒む。


「デュラン……? デュラァアアアアン!」


 戦友の名を叫んでも、二度と声は返ってこない。

 首があった場所には黒い染みが広がり、考え得る一切の希望を否定した。

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